第60話 故郷

翌日、行商人が店を開いていると1人の男がやってくる。

「あんたがアベルの手紙を預かったって言うのは本当か?」

「はい、預かりましたが、あなたは?」

「じゃあ、娘をマインを見なかったか!」

「マイン?いえ、知りません。アベルさまはお一人でしたが?」

「そんなわけないだろ!アベルはうちのマインと幼馴染みのカインと一緒に冒険者になったんだ!一緒にいるはずだ!」

男は行商人の胸ぐらを掴む。

「ま、まってください、冒険者?アベルさまは既に将軍ですし、貴族になられてますよ。」

「えっ、貴族?将軍?」

「はい、先日ノースの町をお救いになられて今や救国の英雄です。」

「あのアベルがか?嘘を言うな!」

「嘘じゃないですよ!ノースの町に行ったらすぐにわかることです。」

「じゃあ、マインはどうなっているんだよ!」

「知りませんよ。私はアベルさまにお会いして手紙を預かっただけですから!」

二人の話を聞いていた護衛の冒険者が口を挟む。

「あー、同じ人物かは知らないがアベル、カイン、マインの名前を聞いたことがあるぞ。」

「なに!何処でだ!」

「シーマの町だが楽しい話じゃないぞ。」

「いいから、言え!」

「じゃあ、言うが、何ヵ月か前の話になるご、その3人組のパーティーがキングベアーに襲われた際、アベルを1人残して逃走したらしい。」

「・・・なに?」

「しかも、ギルドに嘘の報告をしたことがバレてランク降格の上、2人は町を出たという事だ。」

「うちの娘が幼馴染みを見捨てて逃げたりするか!嘘を言うな!」

「だから、同じかどうかはわからないって言っただろ?」

「ぐぬぬぬ!」

「調べたかったらシーマの町に行けばいいんじゃないか?ギルマスに聞けば何かわかるかもよ。」

「あー!くそっ!嘘ばかり並べやがって!」

マインの父は悪態をつきながら去っていった。


「あの~その話は本当でしょうか?」

気弱そうな男が聞いてくる。

「あん?なんだ?名前しか知らないがホントにあった話だぜ。」

「カインが・・・仲間を見捨てるなんて・・・」

男は凄く青い顔をして今にも倒れそうになっていた。

「あんたはカインの関係者かい?」

「はい、カインの父です。まさかうちの息子がそんな真似をするなんて・・・」

「まあ、本人かどうかなんてわからないさ。あんたも重く受け止めすぎるなよ。」

冒険者の声は届かず、男は青い顔をしたまま去っていった。


一方、手紙を受け取ったアベルの家では、

「あなた!アベルから手紙が来ましたよ。」

母のエダは父のアダに手紙を持っていく。

「何!アイツは元気にやってるのか!」

「行商人さんの話なら元気にしてるみたい。」

「そうか、それならいいんだ。」

「もう、あなた!出ていってから初めての連絡なんですよ!もっと嬉しそうにしてください。」

「ふん、男が出ていったのだ、連絡など無くて当然だ。」

しかし、アダの顔は緩んでいた。

「そんなの事を言うなら手紙は見せません。ルル、いるの?お兄ちゃんから手紙がきたよ!」

エダは実の娘のルルに声をかける。

「お兄ちゃんから!」

バタン!ドタドタ!

ルルが部屋から慌てて出てきて、走ってきた。

「ルル、落ち着きなさい。慌てなくても手紙は逃げないから。」

「だって、お兄ちゃん、急に冒険者になるって言ってから連絡無かったんだよ。凄く心配なのに・・・」

ルルは既に涙目になっていた。

「ルル、お兄ちゃんは元気らしいから安心してね。」

「お母さん、お兄ちゃんは何処にいるの!」

「今はエンって町に居るそうよ。」

「私迎えに行ってくる!」

「ダメです、簡単に行けるような距離じゃないの。」

「だって・・・」

「それより、手紙を読みましょ、お兄ちゃんの近況がわかるはずよ。」

「うん。」

親子2人で手紙を読み始める。


『叔父さん、叔母さん、ルル元気かい。

俺もいろいろあったけど、今は元気にしてるよ。

気がついたら子爵になって将軍になったけど俺は俺のままです。

もし、連絡取るときはローエン公爵家にアベルの家族と伝えて名前を名乗ってくれたら連絡がつくようにしておきます。

では、御体に気をつけて御過ごしください

アベル

追伸、カインとマインには見殺しにされたので行動を別にしました。今はどうなっているかは知りません、聞かれたら答えといて。

追伸の追伸

俺の実母は海の向こうのオウカ国のお姫様という話を聞きました。本当かどうかはわからないのですが、招待されてるので近々向かう予定です。でわ、またね~』


「「「・・・」」」

三人は思考が停止する。


「お兄ちゃん、見殺しって何!えっ!死にかけたの!」

「子爵に将軍って!あなたどういうこと!」

「俺がわかるわけないだろう!それより実母がオウカ国のお姫様ってなんだ、どうなっているんだ!」

アベルの気まぐれで出した手紙が3人を混乱させる。

「仕方ない、2人ともアベルを訪ねてみよう。こんな手紙じゃ何もわからん。」

タメ息をつきながらアダはエダに言う。

「そうね、あの子に会って聞かないと。」

エダも承認したことでエンに向かうことが決まった。

「お兄ちゃんに会えるんだね。楽しみ♪」

ルルだけはアベルに会えることを純粋に喜んでいた。

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