第59話 アベルの故郷

宴の翌日、俺は町を見て回っていた。

町の中は昨日の宴会の名残が見られ、路上で寝てる奴もいた。


ふと、行商人が扱う物を見ていると懐かしい物があった。

「あっ、これは懐かしいな。」

それは俺が育った村独自の木彫りの御守りだった。

「お客様、もしかしてエデの村出身かね?」

「ああ、これがあるってことはエデにも行くのかい?」

「定期的に行ってるよ、あそこで採れる薬草はいい値になるからね。」

「そうか、じゃあ、手紙を託す事って出来る?」

「そりゃ代金を払ってくれれば手紙ぐらい送るが。」

「じゃあ、お願いするよ。金貨1枚払うからなるべく早く送ってもらえるかな?」

「そんなに頂けるのですか?」

「まあ、稼いでいるからね。ちゃんと届けてくれよ。」

「もちろんです。返信はどうなさいますか?」

「うーん、じゃあ書いてくれるようなら書いてもらおうかな。公爵家に届けてくれれば俺の所に届くと思う。」

「公爵家!」

「うん、そこで世話になってるから。あっ、これ返信用に」

俺は更に1枚金貨を渡した。

「別に返さなくてもいいから、無理に返信を書かすのは止めてね。」

「わかりました!」

「じゃあ、手紙を書くから、紙とペンある?」

「へい、どうぞ。」

俺は渡された紙に手紙を書く。


「じゃあ、これをエデの孤児院にお願いね。」

「わかりました。必ず届けます。」

俺は手紙を預けその場を後にした。


残された行商人の所に人が集まる。

「あんた、アベルさまから何を頼まれたんだよ?」

「えっ、今の方がアベルさま?」

「なんだ知らなかったのか?」

「俺は見たことなくて。」

「それで、何を頼まれた?」

「手紙を頼まれただけだよ。」

「手紙?何処に送るんだ。」

「それは言えない、仕事だからな。」

「そうだな、うん。俺も深くは聞かないが絶対に届けろよ。届けないとどれだけの人が敵になるかわからんぞ。」

「わかってるよ。」

行商人はこの後、すぐにエデの村に旅立って行った。


行商人がエデの村に着くと、すぐに人が集まってくる。

この村は店も無く、たまに来る行商人が娯楽の1つだった。

「あーすまない、店を開ける前に孤児院に用事があるんだ、店は明日の朝開けるからそれまで待ってくれ。」

行商人はまっすぐ孤児院に向かう。


「ごめんください。」

「なんでしょうか?」

五十手前の女性が出てきた。

行商人は身をただし、手紙を差し出しながら。

「アベルさまより手紙を預かって来ました。」

「あら、アベルから手紙を?今、アベルは何処に居ましたか?」

「エンの町に居ました、そこで手紙を預かってまいりました。」

「そうですか、エンに居ましたか。あら、立ち話も何ですから中にどうぞ。」

行商人は中に案内される。


女性にお茶を入れてもらい、椅子に座ると。

「アベルは元気にしてましたか?」

「ええ、元気にしておられます。」

「そうですか、人付き合いが苦手な子でしたから、私としては心配で・・・」

「大丈夫だと思います。今は町のみんなに好かれておられますよ。」

「あら、それはよかったわ。」

女性は安心した顔をしていた。

「そうだ、もし返信を書かれるのでしたら明後日までは町に居ますので持ってきてもらえますか?もちろんお金は既に頂いていますので必要ありませんよ。あっ、これ手紙を書く紙です。良ければお使いください。」

「何から何までありがとうございます。せっかくですので、手紙を書こうと思いますわ。」

「そうですか、アベルさまもお喜びになられると思います。」


そう言ったあと行商人は孤児院をあとにした。

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