第52話 停戦

「停戦の使者である!話し合いに応じてもらいたい!」

白旗を上げフレイが門の前に立つ!

「待たれよ!今確認いたす!」


その報告はハインリッヒの元に届けられた。

「停戦か・・・如何にする。」

「話し合いも宜しいかと、此度の戦、此方の落ち度でもあります。それに今から攻め上がる力もなければこの辺が退き際かと。」

「うむ、一理あるな、アベル殿に無理をさせてしまってる以上、戦を長引かせたくもないしな。よし使者殿を謁見室に案内いたせ。」


フレイは案内される事になるが町に入ると町中がざわついていることに気付く。

「兵士殿、これは何の騒ぎでしょうか?」

最初は敵軍の使者の自分が来た騒ぎかと思ったが、どうも町の人は自分を見ていない。

「私は答える立場にありません。」

「これは失礼を。」

フレイは兵士の態度に何かあると感じていた。


謁見室に通され、話がはじまる。

「まずは面会を許していただき感謝いたします。私はサクソン国、第一陸軍副将フレイと申します。この度は停戦の使者としてまいりました。」

「フレイ殿、私はユグドラシル王国、公爵ハインリッヒ・フォン・ローエンである。停戦の使者ということだが、条件は如何にする。」

「我が国としては先の侵攻に対して謝罪と賠償金を求めたいのですが。」

「ふむ、謝罪は構わんが賠償金は無理だな、それを求めるならもう一戦して帰ってもらうだけだ。」

「我が軍を破れると?」

「ワシには無理だが、幸い我が国には英雄が誕生したのでな、それは貴殿もよく知っておるだろう。」

「ええ、身をもってしりましたが・・・」

「さて、本当の条件は?駆け引きは無用だぞ。」

「・・・停戦、お互い痛み分けの停戦でどうでしょう?」

「それならば受け入れられるな。国としての謝罪もつけよう、それで其方の国内をおさめてくれんか?」

「よろしいのですか?」

「うむ、謝罪ですむなら安いものだ。」

「ありがとうございます。」

停戦条件は開戦前の状態に戻す事でお互いの合意となる。

「フレイ殿、今宵は停戦の宴を開こう、参加してくれるかね。」

「はい、喜んで。ただ、我が軍に連絡はさしてください。」

「勿論だとも。こちらからも使者を出そう。」

こうして停戦の事前交渉は終わった。


宴の席にて、

「ローエン公爵、アベル将軍とはどなたですか?」

フレイは自軍を負かしたアベルに興味があった。

「アベル将軍か、彼は疲れて寝ておるのだよ。」

「寝ておられるのですか?」

「うむ、停戦の宴に参加せん失礼はワシが詫びよう。」

「いえ、詫びなど不要にございます。ただ、我が軍を負かしたアベル将軍に興味があっただけです。会えないのは非常に残念ですが。」

「すまぬのぅ、駆け付ける為に少々無理をさしたみたいで少し風邪をひいたようなのだ、今後も考えると休ませてやりたいのは親心というものだ。」

「親心?アベル将軍はローエン公爵の息子さまでございましたか。」

「正確には娘婿じゃがな、縁があって婚姻させたが先見の明があろう?」

「まことにですね、稀代の名将を世に出る前に押さえられては私達としては非常に困りますね。」

「なに、無理にこちらから攻めたりはせんよ、国王陛下は穏健な御方だからな、此度は一部の暴走が引き起こしてしまったのだ、誠に申し訳ないと思う。」

「いえ、しかし、出来れば停戦が長く続くように祈りたい所ですね。」

「ワシもそう思う。フレイ殿には橋渡しを頼みたいものじゃ。」

ハインリッヒとフレイは終始和やかに話していたが、先日まで争っていた相手に複雑な心境で見るもの、友を失い憎しみで見る者と宴は殺伐とした空気に満ちていた。

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