第53話 訴え
「ハインリッヒさま、なぜ停戦など!」
ハインリッヒが連れてきていた武官の1人、リッキーがハインリッヒに問いただしていた。
彼はこの戦いで弟を失っており、復讐に燃えていた。
「落ち着けリッキー。」
「落ち着いていられますか!今ならサクソン軍を打ち破るのも夢ではありません!明日にでも突撃すれば!」
「よく考えろ。この戦争、いきなり開戦したユグドラシル王国に非がある、それに停戦をやめても目の前の敵を倒せるだけで再度侵攻する余力はない、あとアベルの容態がわからん寝てるだけだがまさか1日起きないとは思わなかった。」
「くっ!しかし、アベル将軍がいなくても兵がいるんです目の前の敵を倒し、攻め込む姿勢を見せれば、賠償金を取ることも可能では?」
「無理だな、ジャックが連れている七千は動かせるが、軸になってるオウカの連中とオズマ、あとヨシモリは動くまい。彼等無しに攻撃して勝てるとは思えん。」
「なぜです!彼等も軍属、命令には従うはず。」
「従う訳がなかろう、オウカの連中はアベル殿の為だけに来ておるし、オズマもアベル殿への借りの為に参戦してるに過ぎない、ヨシモリはユミナが頼めば可能性があるが今はおらんしのう。」
「ハインリッヒさまはそれでいいのですか!」
「いいも何もそうするしかあるまい。陛下も戦争は望んでおらんしな。」
「ハインリッヒさま!」
「リッキー、お主の気持ちも解る、弟を失い復讐したいのであろう。」
「うっ、な、ならば気持ちを汲んでくださっても・・・」
「バカを言うな!個人の感情で戦争が出来るか!命をかけて戦ってくれた、お主の弟をマイキーには感謝しておる。しかし、それとこれは話が違う!お主がそれ以上戦争を望むならワシはお主を処分せねばならなくなる。ワシにそんな事をさせんでくれ。」
「ハインリッヒさま・・・」
「よいか、この停戦で国民の多くが救われるのだ、お主には悪いが耐えてくれんか?」
「わかりました・・・しかし、また戦争になる時は私に先陣をお任せいただきたい。」
「うむ、その時はお主に任せる、その時まで武勇を磨くのだぞ。」
ハインリッヒは攻撃を主張する者達とじっくり話し合い、戦争の回避につとめていた。
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