第10話 治療依頼

スキルの検証から数日がたったある日、

「アベル、治療をして貰いたい人がいるのだが・・・」

マッドさんが言いにくそうに聞いてくる。

「別にかまいませんよ、なんでそんなに言いにくそうに言うんですか?」

「えっ?隠しているんじゃないのか?」

「そんな事ないですよ?」

「スキルの獲得自体を隠していると思ったが・・・」

「あっ、そうだった!・・・でも、今さらですね、ライフさんもウルマさんも、アリアさんも知ってますし。回復魔法は隠せませんね。ジョブの獲得で得た事にしましょう。」

「そうか、なら回復魔法は言っていいんだな。」

「そうですね、それで、どなたを治療すれば?」

「剣聖、オズマさんだ。」

「剣聖オズマと言うことは、もしかして、左腕の回復ですか?」

「知ってるのか?」

「知ってるも何も有名じゃないですか、竜と戦って勝ったけど利き腕を失い、引退を余儀無くされた人でしょ?」

「ああ、実はオズマさんはこの町で隠居してたんだが、ライフに話を聞いたらしくてな、昨日、俺の方に依頼が来た。」

「へぇーじゃあオズマさんに会えるんですね。」

「会いたかったのか?」

「そりゃモチロン!剣聖ですよ!会ってみたいじゃないですか!」

「そうか、ならよかった。」

「でも、俺の回復魔法で治せますかね?」

「わからん、お前の回復魔法はライフも見たこと無いと言ってたからな。」

「そうなんですね?マッドさん、過去に冒険者で回復魔法使えた人の記録的とかありませんか?」

「うーん、スキルまでは記録されてないと思うが・・・一応調べてみる。」

「お願いします。」

「その代わり、オズマさんの事は頼むぞ。」


その日の昼過ぎ、

「お前がアベルか?」

40歳すぎの男が無愛想に訪ねてきた。

「はい、えーとオズマさんであってますか?」

「そうだ、俺がオズマだ。治療が出来ると聞いてきたが?」

「出来るかどうかはわかりません。でも、やるだけやってみます。」

俺の答えが不満だったのか、オズマの機嫌は悪くなり、怒りだす。

「なんだ、その不確かな答えは!ふざけていらのか!」

「しかし、腕の復元なんてやったことないので治せるかはわからないと言うのは本当です。勿論、嫌ならお帰りください。」

「なっ!」

「俺としては是非やらしてくださいなんて言いませんよ。俺はギルドマスターから話を持ってこられましたが、治せるなんて言ったことは無いんですから。」

「・・・話にならん!これで金貨5枚だと!やってられるか!」

オズマは椅子を蹴り、ギルドから出ていった。

「はぁ、オズマさんってあんな人だったんだ。」

俺は正直ガッカリしていた。

オズマの数々の冒険譚は聞くたびに心を躍らせ、憧れを持っていたが・・・

実際に会ってみると、傲慢な人だったことに見損なっていた。


「どうした?騒がしかったが?」

マッドが騒ぎを聞いてやってくる。

「あっ、マッドさん、オズマさん来ましたけど帰りましたよ。」

「なに?治療は済んだのか?」

「いえ、治せるかはわからないと言ったら怒って出ていきました。」

マッドは頭を抱える。

「なぁ、それでもやってみるとかしなかったのか?」

「やってみて失敗したら恨まれるのは俺ですよ。成功報酬でいいですが、せめて理解してくれる人じゃないと嫌ですね。」

「じゃあ、説明してくるから、もう一度と言うのは?」

「イヤですね、感じのワルい人を治す気はありません。治した後、何されるかわかりませんし。」

「お前も憧れていたんだろ?」

「ええ、心底ガッカリしましたよ。こんなのだったら会わずに思い出だけにした方がよかったですね。」

マッドはため息をつく。

「あの人が現場に帰ってくれると助かるのだがな・・・」

「それでも、イヤなものはイヤです。」

俺がかたくなに拒絶するのでこの話をマッドがすることはなくなった。

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