第9話 リリーと昼食

「ごめんリリーさん、遅くなったよ。」

「いいんですよ、それより地下の椅子や机はなんですか?喫茶スペースみたいになってましたよ。」

「土魔法の成果かな?あとで直しておきます。」

「そうしてもらえますか。さあ、お昼にしましょ♪」

リリーは他の受付に声をかけ休憩に入る。

そして、ギルドに併設されている酒場で昼食とする為、カウンターで注文して席に座る。

出来るのを待っている間に、リリーにスキルの報告をすると、

「ウルマさんの腰痛治したの?かなり酷いと聞いていたけど。」

「うん、治ったみたい。まあ、再発するかどうかはわからないけどね。」

「ねえ、それって大丈夫?」

「ん?何が?」

「ウルマさんの腰痛は有名だよ、それが治ったって聞いたら、アベルさんの所に人が殺到しない?」

「あっ・・・」

「考えてなかったんだね。」

「ま、まあ、治療費を高めに設定したら、いいんじゃないかな?」

「たとえば?」

「金貨1枚ぐらい?」

この町の住人の1月の稼ぎ額がだいたい金貨2枚、アベルとしては高めのつもりだった。

「アベルさん、金貨1枚ですむなら多くの人が来ますよ。せめて5枚はとらないと。」

「5枚!!流石にとりすぎだよ。」

「アベルさん、長年の持病に苦しんでる人なら金貨5枚出しても集まってくるよ。それに教会の神聖魔法でも持病は治らないんだよ。」

「そうなの?じゃあ俺が使う回復魔法と違うのかな?」

「うーん、どうなんだろう。でも、これでアベルさんが冒険に行かなくても良くなるね。」

「えっ?なんで?」

「有名になるのが目的なんでしょ?それなら冒険者じゃなくてもいいじゃない?」

「・・・」

「絶対、回復魔法使いとして有名になるよ。そうしたら、御家族にも聞こえるかもしれないよ。」

「・・・考えてみるよ。確かに有名になるならその道もあるかも・・・」

「昨日も言ったけど、私はアベルさんに危ない事はしてほしくないの。私の為と思ってよく考えてみてよ・・・」

リリーは俺の手を握って懇願してくる。


「えー、リリーちゃん。出来たけど置いていいのかな?」

料理長のマツさんが言いにくそうに伝えてくる。

俺達の手はテーブルをまたいで握りあっていた。

「す、すいません!」

俺は慌てて手をのける。

「いや、良いってことよ。ただ給仕の子達が遠慮しちゃって俺が持ってきたんだが、いやぁ~リリーちゃんも女の子だねぇ~」

「マツさん!からかわないでください!」

リリーは顔を真っ赤にしてマツさんに反論するが、

「おや、違ったかい?アベルの事が嫌いなのか~」

「そんな!アベルさんの事はす・・・マツさん!!」

「くくく、そうかい、そうかい、マスターも可哀想に、一人娘がお嫁に行くのか~」

「マツさん、からかうのやめてください。」

「まあまあ、リリーさん、落ち着いて。マツさんもリリーさんをからかわないであげてくださいよ。」

俺は場を落ち着かせようとするが、受付のアリアが好奇心で聞いてくる。

「それで、アベルくんとリリーはどんな付き合いかな?今朝一緒に来てたけど、もしかして同棲始めたの?」

「ち、ちがうよ!昨日は泊めてもらったけどマスターもいたし。」

「へぇー、でも、手を繋いで来てたよね?」

「たまたまだよ、そんな邪推したらリリーさんに迷惑だろ?」

「だって、リリーたまたまだって。」

「アリア、子供じゃないんですから、手を繋いだぐらいではしゃがないでください。」

「あーリリーそんな事言うんだ~」

「な、なによ!」

「えい♪」

アリアは俺に抱きついてくる。ワガママなボディが俺に接触する。

「アリアさん、あ、当たってますって!」

「ふふん、当ててるの♡リリーのボディじゃわからない感触よね~」

「むむむ、アリア離れてください!

はーなーれーてー!」

リリーは俺とアリアを引き離そうとする。

「リリー、ダ・メ・よ♡無理やりなんて。男の人はもっと優しく扱ってあげないと。」

「なんですか、それは。」

「あら?わからない?男の人はね、敏感で繊細なの♡」

アリアは俺の耳に息を吹き掛ける。

「にゃぁぁぁぁ!アリア何をするの!私のアベルさんです!」

リリーは俺を抱き締める。

俺の顔がリリーの胸元に・・・

ちょっと固い。

「アベルさん、なにか?」

リリーの目が怖い、

「何もないよ。」

「ナニモナクナイヨ。」

さらに目が怖くなった。

「リリーさん、落ち着いて。」

「そうよ、リリー。これのせいで肩もこるし、良いことなんてないのよ~」

アリアは自分の胸を下から持ち上げ、揺らす。

俺の目も反れにつられて揺れる。

「ア~リ~ア~!もうゆるせない!頼まれてもお仕事変わったりしてあげないから!」

「ちょっと、リリー、冗談よ。怒らないでよ。」

「冗談ですまないこともあるんです!」

「リリーのアベルくんをとったりしないから~」

「反省してください!」

リリーが怒って、アリアを叱り始めた。

それに謝るアリア。

それを横目に俺は回復魔法を使ってみる。

手のひらが熱くなったら、アリアの肩に・・・

「アベルくん何?今、それどころじゃ・・・アッ、な、なにしてる、ウン、ダメよ、こんなとこ、アン、き、気持ちいい、・・・」

何やらやましい気持ちになりそうだ。

「な、な、な、何をしてるんですか!」

リリーの怒りが俺にも向く。

「いや、回復魔法。肩こり酷いと言ってたでしょ?」

俺は手を離そうとするが・・・

「や、やめないで、もっとしてよ・・・」

アリアがすがってくる。

「ねぇ、もっと奥まで届かして、中途半端でやめないでお願い。」

俺は手を繋ぐ肩に置くと。

「これよ、いい、もっと、もっと、激しくして~」

アリアの声が酒場に響き渡る。

「アベル、うちはそういう店じゃないんだ。他所でやってくれないか?」

マツさんからクレームが入る、

「あー、もう終わりましたので、すいません。迷惑かけました。」

「いや、客はお前達しかいないからいいんだが、何をしてんだ?」

「回復魔法で肩こりの治療を。」

「はあはあ、アベルくん、気持ち良かったわ。また今度してくれるかな?」

「いや、マツさんからクレームも入ったので出来ませんよ。」

「なら、私の家で・・・」

「ダメです!アベルさんを連れ込もうとしないで!」

「いいじゃん、リリー堅いこと言わないで、ちょっとだけよ。ちょっと気持ちいい事はしてもらうだけだから。」

「ダメです!さあ、アリアは仕事に戻ってください!」

その日、リリーの怒りはおさまらず、夜遅くまで働いているアリアの姿があった。

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