第4話 帰還
俺は帰ってから冒険者ギルドに向かう。
「アベルさん!よかった、生きていた。」
受付のリリーは泣きながら抱きついて来る。
「まあ、なんとかね。あっ、報告があるんだ。」
「なんでしょう。」
リリーは涙を拭き、仕事モードになる。
「冒険者ノーブの死亡を確認した。」
「えっ、ノーブさんが?」
「キングベアーに捕まっており、本人の既望により俺が殺しました。」
「そんな・・・」
「てめぇーノーブを殺したのか!」
冒険者の一部がいきり立つ、
「俺が殺したくて殺したと思っているのか!キングベアーの巣で手足を食べられて、餌になるのを待つ状態だったノーブさんを見捨てて逃げて来いとお前は言うのか!ノーブさんに生きたまま喰われろとお前はそう言ってるんだな!」
「そ、それは・・・」
「それにノーブさんの事を知ってるようだが、じゃあ何でお前は今此処にいるんだ、探しに行くとかやることはあるんじゃないか?」
「うっ・・・」
「何もしてない奴は黙ってろ!」
周囲は静まる。
「リリーさん、あとこれを。」
俺は他に死んでいた他の冒険者のタグを提出する。
「キングベアーの巣で死んでいた人達のタグです。」
「えっ、マシュー、リンダ、サムソン、ジェンダー、セイ、キラリ、アンナ、マイク、カシム、アトム、ギレン、アクア、シレン、スクナーこれって・・・」
「本人かどうかは知らない、ただ死体になってた人や白骨死体からタグを回収してきた。」
「こんなに沢山・・・」
「お、おい、そんなところから何でお前は逃げて来れたんだよ!」
「スキルを得たからだ。」
「どんなスキルだよ!」
「冒険者が他人にスキルを教えるとでも?」
「うっ!」
冒険者にスキルを聞くのは失礼な事とされている。
飯の種でもあり、命綱でもあるスキルは親しいものでも教える必要が無く、パーティーのみが知っているというぐらいだった。
オドオドした2人の女の子が近付いてきた。
「すいません、私達アンナとアリアーの仲間なんですが、彼女達の装備とか身の回りの物とか有りますか?お金はちゃんと払いますから、譲ってもらえないでしょうか?」
「すまない、どれがどれだか解らないんだ。」
俺は小物をいくつか机の上に並べる。
「持ってきた物はこれぐらいだが・・・」
「これは私達のパーティーの指輪・・・これを譲ってもらえませんか!」
「おい、これはサムソンの腕輪じゃないか!」
何人か関係無さそうな人も見始めた。
サムソンの腕輪に反応した人はそれが魔道具と知っているようだった。腕力増大Ⅱの効果があった。あくまであったと過去形になるが・・・
そして、騒ぎだす。
「俺はサムソンの親友だ、彼を弔う為にもこれをいただく。」
「なら、俺はこれを!」
何人かが手を伸ばしとろうとするが全部しまう。
「てめぇ、なにを!」
「死体から入手したものは発見者の物だよな?タグだけは提出義務があるが。」
「それは・・・」
「それにそもそもお前達は故人の知り合いなのか?」
眼をそらす。
「ここはギルドで詐欺行為は危険だぞ、今引くなら見逃してやる。」
「くっ!」
ほとんどの奴等はいなくなったが、最初の2人は残っていた。
「お願いします。お金は支払いますから!」
「いいよ、お金もいらない、君達の仲間だったんだろ?」
「いいんですか!」
「特に効果も無い指輪だしね、それに君達まだ駆け出しだろ?お金は大事にしなよ。」
「はい!本当にありがとうございます。」
「あのサムソンの腕輪は・・・」
1人の冒険者が未練がましく聞いてくる。
「これは魔道具だろ?ただで手に入れようとはおかしくないか?」
「それは・・・」
「まあ、壊れているけどな、それでもいいのか?」
「えっ。壊れているのか?」
「効果がないからな。」
「なんだ、ゴミか・・・」
冒険者はいなくなる。
「はぁ、知らない人だがサムソンさんが哀れだな。」
冒険者がいなくなってから、リリーが声をかけてくる。
「それで、アベルさんよく無事でしたね。」
「まあ、なんとか逃げ出せてよかったよ。」
「あの、キングベアーの情報をもらえますか?」
「ああ、森の地図あるか?」
「ここに。」
地図を広げてくれたので、
「此処に巣がある。今の時点で中に生き残りはいなかった。」
「そうですか、その情報を虎の爪に伝えておきます。」
「あっ、虎の爪が動いてくれるんですね。」
「ええ、連絡が着きましたので。」
「それならよかった、これで片付きますね。」
「はい、それと・・・確認したい事があるんですが?」
「なんでしょう?」
「カインさんとマインさんがアベルさんの死亡報告をしているのですが。」
「あいつら無事に帰ってたか。」
「詳しく聞かせてもらえますか?」
「たいした話じゃないよ、キングベアーと戦っている俺を見捨てて逃げただけだ。」
「それって・・・」
「あと付け加えるなら、見張りをサボって盛ってて裸で寝てた。お陰で俺はテントで奇襲を受けてそのまま戦闘、あいつらは服を着た後、逃走。俺はそのまま熊にお持ち帰りされて、巣の中で死にかけてたノーブさんに会ったんだ。そして、隙を見て俺は逃げ出したんだ。」
「ちょっと、問題ですよ!」
「俺としてはこのままパーティーから離脱したい。出来れば顔も見たくないな。」
「・・・わかりました。特別に手配しておきます。」
「ありがと、あと、他にも装備品を拾ってきたんだが引き取りは出来る?」
「別室を用意しますのでそちらで出してもらえますか?」
「わかりました。」
俺はリリーと共に別室に。
「あれリリーさんが対応してくれるの?受付は?」
「いいんです。アベルさんが帰って来てくれたから今日は受付お休みです。」
「いやいや、受付を休みにしちゃだめでしょ!」
「他の受付もいますから。」
「まあ、問題がないならいいけど。」
俺とリリーは別室に入る、
「えーと、ここの机に並べたらいいのか?リリー?」
リリーは後ろから抱きついてくる。
「アベルさん、よかったです。生きててくてた・・・」
俺のために泣きながら抱きつくリリーを引き離すのは気が引けてそのままにしていた。
「なんだ、逢い引き中か?」
抱きついたままにしていると、ギルドマスターマッドが入ってくる。
「マスター」
「リリー仕事に入れ、イチャツクのは後にしろ。」
「イチャツクなんてそんな・・・」
リリーは顔を赤くしながらモジモジしていた。
「マスター、これらが熊の巣で見つけた武具防具の一式だ。」
「かなり、ボロボロだな?」
「まあ、熊の巣に落ちてた物ですからね。ましだったのは、この鋼の剣ぐらいですね。」
「なかなかの業物だな。」
「ええ、自分で使おうかなとは思ってます。」
「ふむ、鋼の剣を外して、残りを纏めて、金貨6枚、生存報告で銀貨30枚でどうだ?」
「いいですよ。」
俺は金と引き換えに装飾品を渡す。
「しかし、よく生きて帰ってきた。死んだら全てが終わりだからな。どうだ、これを機会にギルド職員にならないか?お前なら事務作業もできるし、冒険者の経験もある。俺が望む人材なんだが?」
「まだ、冒険者を続けたいですね。」
「そうか、しかし、いつでも言えよ。いつでもギルド職員として受け入れてやるからな。」
「ありがとうございます。」
「あーリリー、今晩はアベルに食事を振る舞ってやれ。せっかく生きて帰って来たんだ。」
「うん、アベルさん。食べていってくれる?」
上目遣いで見つめてくるリリーさんに、
「あー、ごちそうになります。」
「腕によりをかけて、ご馳走しますね♪」
俺はその日、リリーさんの家で夕食をご馳走になり、帰還を祝ってもらった。
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