【KACPRO20219】シンボリック・リンク~きみはどこにもつながっていない~【第9回お題:ソロ〇〇】
なみかわ
シンボリック・リンク~きみはどこにもつながっていない~
「通行証」
詰所の警備員は、流れ作業的に手を出す。僕はその後のことも想定通りに、IDカードを見せる。その
「……おまえ、ソロなの?」
「あっはい」
だいたい「あっはい」と流しておけば、深いことは尋ねられない。相手もなぜソロかと踏み込んで聞いてしまえば、後々面倒なことに巻き込まれることもあるからだ。--警備員はそのままカードを僕に返し、次に並んでいる人を呼んだ。--いつも通りだ、と僕は駐車場に戻る。
この世界では。
この世界に生きて社会に参加するものものは、必ずもうひとり、世界のどこかに
僕もその日のために、義務教育の情報工学実習で、
最初は小さな旅だった。町の役場で、なぜ僕の
次は県庁に行った。待ち時間が長くて、県庁食堂のカレーを食べた。町役場から紹介状をもらってきたんですが、と『
どうもこの件は、国の『支援者管理庁』にかけあわないとならないらしい。しかし、この世界の人は基本的に世界の誰かとつながっているので、どこかに連絡をつけるにしても、そのリンクをたどればよいのだが、僕にはそれがなかったから、自分で首都州に行ってくれないかと言われた。この小さな県から国の首都州までは、
いわゆる電車や飛行機の類も、安全管理の面から、支援者の
エンジンをかける。FMキョートを聴きながら、カーナビに次の詰所のマップコードを入力する。お、それまでに道の駅もあるのか……とポチポチパネルを押していたら、ボンネットに猫が飛び乗ってきた。一瞬目があう。黒のハチワレで、足先が白い猫。茶色の瞳の奥に、ちかちかと光が見える。--ああ、おまえにももちろん
そういえばこの作業も、そもそも要らないことらしく……僕が遠出をするために、ディーラーで新車のオプションを選んでいたら、頭をツンツンにした営業マンが「えっ今カーナビ付けるんですか? これあればいらないっすよ、その予算を自動運転レベル3オプションにしたらいいんじゃないっすか?」と自分の
あの時のツンツンの驚き具合はけっこう印象に残っている。
「まじっすか? ソロっているんっすか? ちょっとシャメっていいですか?」
カーステレオからは、FMキョートのサトーさんやミシマさんのいつもの語りや、なじみのジングルが流れる。もうキョートからはだいぶん離れているので、交通情報はあてにならない--ネット配信でいつまでもFMキョートを聴き続けている。モモドリさん以外のニュースの声だと落ち着かないというのもある。国としてのニュースはどこの局を聴いていても変わらないから。この人たちにも世界のどこかに、支援者がいるのだろう。
この先のことが見えなかった--ほかの人たちと同じように、支援者を国が手配してくれて、この世界の日常に組み込まれるかどうかもわからない。たかだか20年ちょっとしか生きてないけど、全くわからないことに直面して、田舎の両親もひどく心配していた。--両親も親戚も、普通に支援者がいた。
ガレージラインのジングルを聴くと、出発する前、ソロだとどうなるのか、この世界にはほかにもソロがいるのかと部屋で検索しまくった夕方を思い出す。
ある程度高次情報になるライブラリにアクセスするには、これまた支援者の支援者を何人か経由するという、
「キョートアバンティ地下駐車場、30%の駐車率です」
寄ろうと思っていた道の駅の駐車場も、そのくらい、まばらに車がいた。
のろのろと場所を探していると、同じ車を見つけた。色は僕の車の
義務教育での情報工学の実習では「そもそもO・Sとは」とかもぼんやり聞いていた。すべての要素が--ひとつの
ガタリ、と僕は車を揺らした。
思い出した。
O・Sには
ソロの僕も、
じっとり手に汗をかいてハンドルをつかんでいたが--窓を叩かれてはっとした。隣の黄色い車の
「大丈夫ですか? 気分悪い?」
口がそう動いていた。
「ああ、すみません、もうちょい休みます」
窓は開けなかったけど、へこへこと謝る。
そつなくやり過ごそう。この人にまでやっかいごとをかけないように。――「そう、気を付けてね」と、たぶん四十代くらいの男性は、さわやかな笑顔を見せてくれた。
ちらと黄色の内装を観ると、僕の車と同じようなカーナビの画面があって、後部座席--はほとんどキャンピンググッズで埋め尽くされていて、さらに助手席に放りだされていた
僕はシートの背に体重をかけた。
僕の長い旅は、まだはじまったばかりだった。
【KACPRO20219】シンボリック・リンク~きみはどこにもつながっていない~【第9回お題:ソロ〇〇】 なみかわ @mediakisslab
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