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死人の行進(オリジナル)

 これはわたしが夢で二度見たことです。



 ニュータウンの。

 巨大団地を抱える街の。

 私鉄の終着駅の。

 学生も、サラリーマンも、帰途を急ぐための、自転車置き場のような。


 つとめを終えた者が、夕刻を過ぎる頃から

 続々とここへ帰って来るのだ。

 俺は胸の中のそれの重みと、かれらの足音を何度もきき比べていた。

 結論は変わらない。

 俺の鼓動と、こいつの冷たさだけが、この空間で唯一生きているものだった。


 かれらは自分のもといた場所に。

 朝に預けた自転車を探し当てるかのように。

 ゆるりとその場に戻り。

 上半身を。

 ぐるりとねじきる。

 ブチリという感触が充満する。

 腰のベルトから下腿だけが。

 当番の俺に吊るされるのを待つのだ。


 ピークになれば俺だけがだらだら汗をかき。

 ビンテージのジーンズを青空に干すのともほど遠く。

 俺は胸の中のそれを失わないように。

 ひとつひとつを。

 ワイヤにひっかけてゆく。


 一階では、ひとつの棺を囲み立つ四人の家族。

 中のひとりとともにこの行列に加わる。


 年がゆかなくて、参加できなかった赤子がいる。

 何年も何年も。

 成長しない身体を三輪車に乗せて外苑を動き。

 休憩を取るため外に出た俺を見つけると。

 ねちっこく話しかけてくる。


 突然声がしなくなったかと思えば。

 庇護された領域を後輪が踏み外したようで。

 行列にも入れずに、生きながらえもできずに。

 上着の繊維だけが焦げてこぼれていて。



 あと数分という時に。

 別の生き物の気配を感じ。

 俺は迷わず、胸の中からそれを抜いた。

 汗ばんだ。

 コルトウッズマン。

 長い銃身が少し左胸を削ったが。

 ここには死人しびとしか居てはならない。

 俺以外の。

 物かげに頭が見えた瞬間。

 迷わず握りしめ。


 パァアン。


 前の当番の男だった。

 たとえどんな理由があろうと。

 許された時期にしかこの場所には入れない。


 サイレンが鳴り響いた。

 もう一度外に出た。

 俺が今日こなした数だけの下腿が。

 ワイヤがグンと張られる、広がる。

 血染めのような夕焼けに。




 キキキキと舞う、死人しびとの行進。





 さきほどの家族が。

 これから大変だぞ。


 赤子は首から下が。

 よかったな、そこに行けて。


 男はそこに参加することすら許されず溝の隅に。

 おまえは死に方を間違えた。



 胸の中のそれは冷たさをましてゆく。

 このからはずっと逃れることができないだろう。



 風になびく皆のつま先が。

 とてもまぶしい。


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【KACPRO20214】死人(しびと)の行進2020【第4回お題:「ホラー」or「ミステリー」】 なみかわ @mediakisslab

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