【KACPRO20214】死人(しびと)の行進2020【第4回お題:「ホラー」or「ミステリー」】

なみかわ

死人の行進(しびとのこうしん)

 


 これはわたしが夢で二度見たことです。



 ニュータウンの。

 巨大団地を抱える街の。

 私鉄の終着駅の。

 学生も、サラリーマンも、帰途を急ぐための、自転車置き場のような。

 数百台は置けるだろう、灰色の空間です。


 床は真っ黒に塗り潰されています。は黒色ではありませんでした。わたしがここへ就いたときにはもう、こびりついたは、何をもってしても、洗い流せることはありませんでした。


 わたしは今日これからののため、胸にあるコルトウッズマンの重みと、かれらの足音を、聞き比べていました。

 すし詰めになった電車が着けば。たくさんの、を終えた者が、夕刻を過ぎる頃から続々とここへ帰って来るのです。


 この空間で生きているのは、わたしの鼓動と、銃の冷たさだけなのです。


 人のかたちをしたは、朝いた場所に、元居た場所に。

 そうまるで、朝に預けた自転車を探し当て、押して出るかのように。


 ゆるり、ずるりとその場に戻り。

 自転車もない黒い床の上で。


 上半身を。


 ぐるりとねじきるのです。



 ブチリという感触が充満してゆきます。褐色の血液は、床へと流れるのです。だから床はこんなに真黒いのです。


 腰のベルトから下腿かたいだけが。

 今日の当番のわたしにのを待つのです。



 わたしは決められた手順とおりに、下腿を。

 ビンテージのジーンズを、青空に干すものとも、程遠く。何十人、何百人が次々にぶちぶちと。ピークになればわたしだけが汗をかき。

 わたしはわたしの胸の中のを失わないように。ひとつひとつの、下腿を。

 ワイヤにひっかけてゆくのです。



 用事があったのでしょう。

 の果てでは、葬送そうそうがありました。

 ひとつの棺を、囲み立つ四人の家族がおりました。

 もまた、棺を見送ったあと、こちらの元居た場所へ戻るのです。



 ここへは参加できるわけではありません。

 の外苑に、いつまでも三輪車をこぎ続ける赤子がおりました。

 なぜか、はここに入れなかったのです。

 何年も何年も。結局は成長しませんでした。

 体躯だけは小さいですが、休憩を取るため外に出たわたしを見つけると、ねちねちと話しかけてくるのです。



 そしてここには、庇護ひごされた領域がございます。

 の声がしなくなったかと思えば。三輪車の後輪が、庇護された領域を踏み外したようでした。

 上着の繊維が焦げてこぼれていました。しかし、条件を満たすかもしれませんから、体を吊るしました。



 わたしもきちんとしごとをこなさねばなりません。気は抜けません。ところがあと数分という時に。

 別の生き物の気配を感じました。



 ここには死人しびとしか居てはならないのです。わたしのはそれらを吊るすことなのです。

 わたしは迷わず、迷わず、胸の中からそれを勢いよく取り出しました。



 汗ばんだ。

 コルトウッズマンです。


 銃身が少し左胸を削りましたが。

 ここには死人しびとしか居てはならないのです。わたし以外の。


 物かげに生きるモノのが見えた瞬間。

 迷わず握りしめました。




 パァアン。



 自転車置き場に、銃声が響きわたりました。



 モノとは。

 わたしは驚きました。なんと、わたしの前の、当番の男だったのです。

 たとえどんな理由があろうと。許された時にしか、ここには入れないのです。


 わたしはもうすぐ来る期限じかんまで、できるだけをこなしました。



 やがて期限じかんが来ました。サイレンが鳴り響きます。

 もう一度、外に出ました。


 自転車置き場の入り口から、ワイヤがぐんと張られるのです。庇護された領域の先にある柱へと続いているのです。


 そして私が今日こなした数だけの下腿が。

 血染めのような夕焼けに。

 引きずり出されてゆくのです。



 キキキキと舞う、死人しびとの行進です。



 わたしはひとつひとつを見直しました。


 先ほどの葬送の家族が。

 赤子は首から下が。

 生き方も死に方も間違えた前の当番の男は、この行進に参加することすら許されず溝の隅に。


 胸の中のそれ、コルトウッズマンは重みをましてゆきます。

 当番が終わるまで。

 わたしはこのからはずっと逃れることができないでしょう。




 風になびく皆のつま先が。

 とてもまぶしいのです。


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