20-5 『明月院』と『報国寺』
次の順番で、ようやく青の『徒歩で移動』を選ぶことができた。
その次の順番では青の『観光』も選べた。ここまで順調だ。
「駅の近くに池があったよ。白鷺池だって」
そんなことを言いながら
「散歩してるうちに駅からはちょっと離れちゃったけど」
今度はそう言って、どこか高いところから街並みを見下ろす写真。桜か梅かわからないけど、写真の中にところどころ花の色がこんもりとして写っている。
これが
そして思い出ボードには、観光地のスタンプが四つ並んだ。色は左から緑、青、赤、青。
次は
わたしは今はまだ『長谷寺』にいる。ここから赤の観光地まではどうやってもちょっと遠い。何回も『移動』をしないといけない位置だ。
だったら、また
悩んでいる間に次の順番がやってくる。
そしてやりたいと思っていた青の『徒歩で移動』は塞がっていて、
「
わたしが悩んで黙ってしまったからか、
改めて地図を見る。地図の右側の『報国寺』には、さっきまで青のプレイヤーの駒があったはず。青のプレイヤーは『光明寺』に移動していた。
「そうか、タクシーチケット」
今ならタクシーチケットで『報国寺』に移動できる。
その後に
「じゃあ今回は、わたしがタクシーチケットを使って『報国寺』に行くね。
「良いと思うよ。そういえば『報国寺』は竹林が有名なんだって。写真見せてね」
きっと隣にいたらいろいろ教えてくれて、もっと楽しく『観光』できたと思うのに。わたしたちはなんでばらばらに『観光』してるんだろう。
それはもちろん、これがボードゲームだからなんだけど。
わたしがタクシーで『報国寺』に移動した後は、
それで送られてきたのは
「すごいね、ここも
「写真ありがとう、綺麗だったよ」
「
わたしは、言葉を止めてしまった。
楽しそうにしてる
それに気付いたら、なんだか、急に落ち着かなくなってしまった。
黙ってしまったわたしをどう思ったのか、
最後に送られてきたのは、有名な丸窓の写真。
不思議なことに、窓から覗いた外の景色は秋の紅葉の姿だった。
「紅葉も見れるなんて思ってなかった」
「わたしも、びっくりした。うん、綺麗。良いな、わたしも見たい」
「雰囲気もすごく良いよ、静かで、落ち着くっていうか」
「うん」
それが五つ目のスタンプ。スタンプの絵は丸窓の姿だった。
次の六つ目は、わたしが『報国寺』で『観光』した。竹林が有名って
こういうの、枯山水っていうんだっけ。白い砂と石と苔の庭。歩いてゆけば、苔の中に石塔があったり、お地蔵様が並んでいたりした。
もちろん竹林もあった。真っ直ぐに空に向かって伸びる竹が並ぶ姿を見上げると、なんだか自分がすごく小さくなってしまったように感じる。
そんな写真を何枚か撮って
「すごいね、『報国寺』も綺麗だ」
「うまく写真撮れなかったんだけど、実物見るとすごいよ。竹がみんなすごく大きいから」
「
わたしが見た景色を
本当は隣で一緒に見上げて「すごいね」って言い合えたら良かったと思ってる。でも、こうやって伝わるのも、それはそれで嬉しい。
そうやってお互いの『観光』を終えて、次にどうするかの作戦タイム。
わたしが今いる『報国寺』の隣には青の観光地の『光明寺』がある。地図でそれを確認して、わたしは口を開いた。
「それで、次はわたしが『光明寺』に行けたら、青の観光地を『観光』できるから、それを目指そうと思ってる」
「そうだね。今はちょうど『光明寺』に誰もいないけど、多分取り合いになると思うから頑張って」
「そっか、みんな青の観光地を狙ってる感じ?」
「それはまあ『散策マスター』もあるし。残りの青の観光地は『稲村ヶ崎』だけど、そっちは黄色のプレイヤーが観光した後に緑のプレイヤーが到着してて、多分もう無理なんだよね。だから『光明寺』に入れなかったら、もう青は諦めるしかないって状況」
「え、大丈夫かな」
「どうかな」
いつもの
もしかしたら『光明寺』の観光はすごく難しい状況なのかもしれない。
「でも、とにかく次に順番回ってくるまではわからないし、頑張ってみる」
「そうだね。頑張ろう」
そう言い合ったのだけど、次の順番がくる前に黄色のプレイヤーが『光明寺』に到着してしまった。青の観光地で『観光』はもうできなくなってしまった。
自分の順番で何をすれば良いのかわからなくなって、地図を眺めて悩んでしまう。
ちょうど良くかどうかはわからないけど『人力車で移動』のアクションができる。これでどこかに──でも、どこに行けば良いんだろう。
「『散策マスター』も、七枚目を青にして上下の色を揃えるのも、諦めるしかないね」
「やっぱりそうだよね」
わたしは長い時間悩んでしまっている。長考というやつだ。しかも、どうすれば良いのかわからないまま悩み続けていた。
「まあ、本当に目の前だったから悔しいよね」
そうだ、わたしは悔しいんだ。うまくいかなくて、思う通りにいかなくて、それが悔しいんだ。泣きそうなくらいに悔しい。
「でも、ここから切り替えて立て直すのも楽しいよ」
「
わたしの言葉はちょっと意地悪だったかもしれない。それでも
「それは、まあね。でも、悔しいときに悔しがるのも、失敗したって落ち込むのも、それが楽しいからだよ。ちょっと大袈裟に悔しがったり落ち込んだりすると、それも楽しくなってくるんだ、本当だよ」
「そうなの?」
「そう。それで、落ち込むだけ落ち込んだらそこから切り替えるんだ。どうやって取り戻そうって。その瞬間が、めちゃくちゃ楽しいんだよね」
「だから、ここからまた考え直そう。七枚目はもう、
「うん……あのね」
「何?」
わたしは息を吸って、思い切って口を開く。
「わたし今、とっても悔しい。うまくいってたのに。『光明寺』も行きたかった。それで『散策マスター』達成したかったし、スタンプの色も揃えたかった。悔しい」
「わかる。俺も悔しい」
わたしが吐き出した悔しさに
こうやって、自分が悔しいことを認めて吐き出して、
「うん、悔しい。でも、最後まで頑張りたい」
「そうだね。一緒に頑張ろう」
声だけでも、
すっきりした気持ちで、地図に向かい合うことができた。ここからもう一度、どうすれば良いのか考える。
それができるようになったのは、
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