18-7 最終試験の主席、つまりゲームの勝者
兄さんは順調だった。
まずは『
兄さんが集めた材料は、青が四つと黒が一つ、黄色が六つだ。
こんなに黄色を集めたのに、兄さんのレシピでは黄色が必要ない。十一点の『
兄さんは赤を一つ持ち越していたけど、『
あ、と思って自分の作業台を見る。わたしの三角フラスコには、赤と黒が一つずつ入っていた。
薬を飲んだ兄さんが、にやにやと笑ってわたしを見た。
「くれるよな?」
これは薬の効果だから拒否できない。わたしは魔法の杖を持ち上げて、それを三角フラスコの上で振った。
わたしが持っていた材料が、兄さんのビーカーに飛び込んでゆく。
「助かったよ、ありがとうな」
にやにやしたまま、兄さんがそう言う。わたしは何も答えずに、横を向いた。『
わたしが『
つまり、わたしも奪ったってことだ。でも、こうやって奪ったり奪われたり、それで嬉しくなったり悔しくなったり、それもゲームの一部なんだって気がした。
きっと
結局、兄さんは十一点の『
兄さんが受け取った『技能トークン』が四つ目なので、誰かが後一つ『技能トークン』を受け取ったらゲームが終わる。
この手番に兄さんが手に入れたのは十五点、追い付けるんだろうか。もしかしたら、もう追い付けないかもしれない。
それでもわたしは、最後まで頑張っていたい。それが楽しむってことなんだと思う。
「すみません、きっと長考すると思います」
その宣言に、兄さんはにやにやと笑って「どうぞ」と応えた。
「駄目だ、どうやっても後ちょっと足りない」
悔しそうに呟いて、それでも顔を上げて動き始めた。
まずは『
それで、九点の『
「
そっと声をかけると、
「大丈夫だよ。ちょっと……かなり悔しいけど。本当は、薬を二つ完成させたかったんだけど。まあ、完成させても、いかさんには勝てなさそうなんだけどね」
「そうなの?」
「多分。今回俺が二つ完成させていれば、ちょうど今いかさんに追い付けるくらいだと思う。そうなったとしても、いかさんが薬を完成させたら引き離されちゃうから」
わたしの点数はどのくらいになってるんだろうか。わたしは角くんみたいに点数を把握できてない。それでも、なんだか兄さんには追い付けていなさそうな気がしていた。
きっとわたしも、兄さんには勝てないんじゃないだろうか。それが、悔しい。
「これから
わたしは頷いて、
「とにかく、頑張って薬を完成させてみるよ」
わたしがそう言えば、
「頑張って」
もう一度頷いて、わたしは抽出器の前に立った。
そう、とにかく自分が持っているレシピで薬を完成させるしかない。
一つは、赤二つと黒三つで作れる『
もう一つも五点で、青三つと黄色二つで作れる『
二つ完成できれば、全部で十四点。それを目指して頑張ろうと思う。幸い、わたしにはまだ使ってない薬がいっぱいある。
まずは、緑色の『
爆発を狙って、黒二つずつに挟まれた黄色と青を取ることにする。『助力』で青を校長先生に取ってもらって、黄色を自分で取る。二つの黒どうしがぶつかって、ぽん、と爆発が起こる。
足りないのは赤が一つ。逆に余っているのは黒が一つ。
ここでわたしは『
甘ったるい飴のような薬を飲み込んで、余っていた黒を赤の代わりに『
そして、火にかけた二つのフラスコの上で杖を振って、二つ分の薬を一度に完成させた。
校長先生がやってきて、両方のフラスコにリボンをかけてくれる。それから、わたしの胸元に『技能トークン』のバッジも増えた。
わたしが受け取ったバッジが全部で五つ目だったから、あとは兄さんの手番でゲームが終わる。
わたしはできる限り頑張ったと思う。楽しんだとも思う。
でもきっと、兄さんには勝てていない。それはやっぱり、すごく悔しいことだった。
兄さんは最後まで容赦なかった。
残っていた『
「そこまで」
校長先生の声によって、最終試験の終了が伝えられた。ゲーム終了だ。
みんなで薬にかけられたリボンの点数を数えてゆく。
「俺は、薬で五十一点、『技能トークン』一つで四点、『助力』五回でマイナス十点。全部で四十五点です」
「薬で四十五点、『技能トークン』二つで八点、『助力』は五回でマイナス十点、だから四十三点、かな」
わたしは
「薬の点数で六十七点、『技能トークン』が二つで八点、『助力』五回でマイナス十点、で合計六十五点。俺の勝ち、だな」
兄さんがにやにやとそう宣言する。圧倒的な点数差だった。
校長先生がやってきて、兄さんの首に主席のメダルをかける。兄さんは自慢げにそのメダルを持ち上げてみせた。
悔しい。
今までだって、負けて悔しいって思ったことはある。でも、なんだか今日は、今までで一番悔しいかもしれない。
どうしてだろう。今まではどこかで、負けて当たり前だって思っていたのかもしれない。
もしかしたら、わたしは今までよりも、ずっと、ゲームに勝ちたいって思ってるのかもしれない。
そんなことを思いながら兄さんのメダルを見ているうちに、ゲームは終わって、気付けば元の──兄さんの部屋に戻っていた。
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