game 6:森の明かり
6-1 角くんがわたしと遊ぶ行為には得がない
背の高い
角くんは今日も、あの大きなカホンバッグを背負っている。そのカホンバッグに入っているボードゲームが立てる賑やかな音を聞きながら、自分がボードゲームを遊ぼうとしていることを不思議に思う。
ボードゲームの世界に入り込むというわたしの体質は子供の頃からのもので、そのせいでわたしはゲーム全般を避けてきたし、好きじゃなかった。怖いものだと思っていた。
それが、角くんが持ち歩いていたボードゲームの世界に角くんと一緒に入り込んで──それから、角くんに誘われるままにこうしてボドゲ部
一緒にとは言っても、ボードゲームの世界ではプレイヤーはいつもわたしで、角くんは隣で説明してくれるだけだから、角くんはいつもボードゲームを遊べない。
それでも角くんは優しいから、わたしが楽しめるようにいつも気遣ってくれている。それに、わたしがゲームを怖いと思うきっかけに角くんは関わっていたから──そのことを気にして、わたしを遊ばせてくれているんだと思う。
だからつまり、角くんがわたしとボードゲームを遊ぶのは、そういった優しさとか責任感からくるもので、角くんにとっては得のない行為のような気がしている。だというのに、角くんはいつも穏やかに笑って「
階段を登り終えて、突き当たり。校舎の一番上の端っこの第三資料室というぼんやりした名前の小さな部屋。ボドゲ部
角くんはその部屋の鍵を開けて、ドアを開けると、わたしを振り向いた。いつもみたいに、穏やかな笑顔で。
その日、
真ん中に指輪が落ちていて、黄色い服の子が明かりでそれを照らしている。隣の赤い服の子は、背中に虫のような羽があって、宙に浮いている。手前には青い服の子が、手にした明かりでウサギを照らしていた。
周囲で暗がりを作っている木の幹には目玉があって──でも、怖い雰囲気ではなくて、その子供たちを見守っているみたいだった。
黄色いアルファベットで『WALD DER LICHTER』と書かれている。英語じゃなさそうだということしかわからない。
「『森の明かり』ってゲーム。暗い森が舞台だけど、お化けとかは出てこないし、怖い要素はないよ」
「本当に? 追いかけられたりとか、しない?」
箱の端っこに、いかにも悪そうな顔をした人が描かれているのを見付けてしまって、わたしは不安になって角くんを見上げる。
角くんは、わたしが怖いゲームが苦手なのを知って気を遣ってくれるけど、たまに「怖い」の基準がわたしとは違うということを思い知らされる。「追いかけられるのが怖いなら、追いかける方になれば怖くないかと思って」とか、そんな理由でホラーゲームを持ってきたりもするけど、そういう問題じゃない、というのはなかなか通じていない気がする。
「追いかけられるとかはないよ。暗い森の中で、小さな明かりで宝探しをするゲームなんだ。財宝を隠したのは悪人って設定になってるけど、その悪人はゲーム中には出てこない。登場するのは、プレイヤーのドワーフだけ」
「ドワーフ?」
「この場合のドワーフは、妖精って意味じゃないかな。箱に描かれてる、この灯りを持っているのが、多分そのドワーフたち。ほら、白雪姫の小人も、ドワーフって呼ぶらしいし」
角くんの説明に、わたしはもう一度箱を見る。子供たちだと思って見ていたのは、どうやらそのドワーフらしい。それとも妖精の子供なのかもしれない。
「仕掛けだけでも見て。面白いから」
角くんはそう言って、箱の蓋を持ち上げる。箱の下側にすっぽりと収まっている黒いもの。その上に、丸い穴が並んだボードが置かれている。
角くんは黒いものを持ち上げて、その下から透明なシートや紙のタイルを取り出して、また黒いものを箱に戻した。下箱よりも少し高いその黒いものの表面は、へこんだり出っ張ったりしていて、そのへこみの部分に黒い四角いタイルがちょうどぴったりと並んで収まっている。
その黒いタイルが並んだ上に、角くんは透明なシートを一枚置いた。シートには、何か小さな絵が並んで描かれているみたいだったけど、黒いタイルの上に置いてしまったので、よく見えなくなってしまった。
さらにその上に、半透明の白いシートを乗せる。これでもう、透明のシートに描かれた絵は、ほとんど判別がつかなくなる。
そしてその上から丸い穴が並んだボードを上に乗せる。そのボードには、森の絵が描かれていた。小さなドワーフたちが森の中に紛れるように、並んだ丸い穴の周りを明かりを手にうろうろとしている。
角くんは、四角いタイルを一枚手に取った。真ん中が丸く白い色、その周りを赤い色が囲んでいるタイルだ。
「見てて」
そう言って、
そして、角くんが差し込んだタイルの白い色が、透明シートに描かれた絵──鍵の形をしていた──を浮かび上がらせた。まるで、光で照らしたみたいに。
「こうやって、隠された財宝を見付けるゲーム」
「すごい、こんな仕組みもあるんだね。本当に宝探しみたい」
角くんはちょっと得意げに笑った。
「面白いよね、良いよね、この仕組み。ゲームとしては、記憶ゲーム。神経衰弱みたいな感じ。どこにどの財宝があるかを覚えておくと、うまく辿り着ける。難しい要素はそんなにないよ」
角くんが首を傾けて「どう?」と言うので、わたしは了承のつもりで頷いた。
「それじゃあ、色を選んで。赤と青と黄色と緑。区別用だから、どれを選んでも違いはないよ」
「じゃあ、赤」
そうやって、さっき角くんが差し込んだ四角いタイルと、羽の生えたドワーフが描かれた丸いタイルを受け取る。箱に描かれてた、あの子だ。
「あとは財宝タイルと」
角くんがそう言って、小さな丸いタイルを長机の上に並べ始める。そして、フクロウのような鳴き声がして──わたしと角くんはもう、ボードゲームの中だった。
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