5-6 「シチフクジンメグリ」のおわり
どのみち、金文字の『釈迦如来』をいただくために最大値の写経を納めてしまったので、次の『阿弥陀如来』は一しか納められない。その次の『十一面観音』も二で様子見、次の『勢至菩薩』も一でスルー、『南無阿弥陀佛』も二でスルー。
残りの御朱印は五つで、まだ『布袋尊』は現れてくれない。その次はレア御朱印の『阿弥陀如来』で、さらにその次も金文字の予定が見えている。
「レア御朱印は『大日如来』『釈迦如来』『阿弥陀如来』の三枚しかないから、次の金文字は確定ではずれ。少なくとも『布袋尊』じゃないから温存する意味はないし、次がはずれなら一は確保しておきたいよね」
そして、次は神社に『悪霊退散』の金の文字が浮かぶ。それは一だけ納めて回避できた。
「あ、次もはずれか」
地図を見て、角くんが呟く。次に浮かぶのは『百点満点』の文字。これを入れて残り三枚。最後の七福神の『布袋尊』は、まだ現れない。
はずれを回避したいけど、一の長さの写経は納めたばかりだ。またはずれを受け取ってしまうかもしれないと覚悟していたのだけれど、一番目のプレイヤーは四の長さの写経を納めてきた。
「『ブタサン』狙いだ」
角くんの声に、得点表を見返す。『ブタサン』というのは、はずれが三枚並んだときの役だった。それで手に入るのは八点。
「八点だけど、はずれのマイナス一点が三枚あるわけだから、差し引き五点だね」
「『サンナラビ』も五点だよね。そっか、はずれでも集めたら点数になるんだ」
「ゲームの終了が近いところではずれが二枚残ってる状態だったから、狙ってたんだろうね。失敗するとただのマイナス点だから、普通はそれ狙いでプレイするのって、なかなか大変なんだよ」
手元にある写経の紙束を見て、わたしはちょっと考え込む。
「他の人が点数を伸ばすのを邪魔した方が良いってこと、ある?」
わたしの質問に、角くんはすぐに答えをくれなかった。
「
「わたしは……次に七福神がくるかもしれないし、だったら邪魔とか考えないで七福神に備えたいかな」
「それで良いと思うよ。邪魔するってことは、このはずれを大須さんが受け取るってことだし、大須さんにとっては、これはただのマイナス一点だから」
「そっか」
角くんの言葉は優しくて、わたしはほっと息を吐く。
「ただ、そうだな……大須さんの次の手番のプレイヤー」
角くんが人差し指をぴんと立てるので、わたしは角くんを見上げる。
「忘れてるかもしれないけど、次の人が最初にいただいた御朱印は『大黒天』だ」
角くんがなんで突然そんなことを言い出すのかがわからなくて、わたしは瞬きを返す。
「ええっと……そうだったね。『毘沙門天』の次だったから『大黒天』はいただけなくって、『サンナラビ』になるかもしれないからって、どのくらいの写経を納めるかをすごく悩んで」
「何が言いたいかっていうと、次の手番の人も、最初にいただいた御朱印が七福神で、きっと『シチフクジンメグリ』を狙ってるだろうってこと」
「あっ」
わたしは、また手元の紙束を見下ろした。そうか、次に『布袋尊』が出たらそのプレイヤーとの取り合いになるし、向こうだってきっと『布袋尊』が出てくるタイミングを伺っている。
「他のプレイヤーの邪魔とか、やってる場合じゃないってこと?」
「んー、まあ、ここで二だけ納めても、次が『布袋尊』だったら、
「ああ、そっか。ここで二を納めると、次は最大値が出せないから」
「そうそう。向こうは、次に最大値を出せる状態みたいだし」
「え、あれ、ひょっとして、次にどの御朱印がくるかで、もう運命決まっちゃうってこと?」
「そうだね。『布袋尊』が最後にきてくれたら、大須さんが初手で最大値出せるから確定って状態。『布袋尊』の御朱印をいただけるかどうかは、巡り合わせ次第ってこと。だから実は、ここで大須さんがどう納めるかは、あんまり勝負に影響はないんだよね」
わたしはぽかんと口を開いたまま、
「だから、気楽に考えて出して良いと思うよ、後は。なるようにしかならない。今は、大須さんがはずれを受け取りたくないのか、それとも邪魔したいのか、それで決めて良いと思う」
そう言われたものの、これを納めたらもう次の御朱印がわかって──つまり、それで『シチフクジンメグリ』の役が揃うかどうかが決まってしまう。そう思うと、なんだかすごく緊張してしまった。角くんは気楽になんて言ったけど、わたしは悩みに悩んでしまって、でもやっぱりはずれは受け取りたくなくて、ようやくのことで二の長さの写経だけを納めることに決めた。
はずれの『百点満点』は、無事一番目のプレイヤーが受け取ることになった。そして、恐る恐る地図を覗き込む。次に現れたのは──『釈迦如来』の文字。
「これ……最後が『布袋尊』ってこと?」
「そうだね」
「『シチフクジンメグリ』が揃えられるってこと?」
角くんは大きく頷いて、笑った。
「
これまでと同じように参拝をして、それから納経所には一の長さの写経だけを納める。そして、次は『布袋尊』──最後のお寺だ。
はやる気持ちを抑えて、丁寧に手を
戻ってきた御朱印帳には、黒々とした墨で『布袋尊』と書かれていた。
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