転生と暴走

 僕はあの死んだ後の世界、宇宙から抜け出せた。覚醒した能力の等級が神になったおかげで神という存在と同等の権限が手に入ったからだ。そして転生した。


 あまりよく見えない。視界がぼやけている。


「ここは...?」


「救世主様!」


 しばらくすると目でものがはっきり見えるようになって来た。僕は座っていた。


 よくみると異世界系漫画で見るような巨大な魔法陣があった。でも僕はその上にはいなかった。何かを召喚するつもりだったのだろうか?よくわからないお爺さんと、その他大勢の者がそれをを囲んでいる。


 建物内は少し技術が乏しい気がする。地球の技術と比べてだ。昔っぽい。周りに機械やコンセントが一つとして無いのもそれをうらずける。


「救世主って?」

「ええ、あなた方は我々の救世主様です。どうかこの国を救って下さい」


 救世主。そのままの意味か。あと、あなた方って事は


「他にも居るんだね?」

「はい。世界各国がこの国のように救世主様を召喚しています」

「何の為?」

「我々だけでは太刀打ちできないものがあるんです」


 その後も話を聞いてみた。どうやらここはムーン王国という国らしい。ムーン王国は10人の救世主を召喚するらしい。そして、世界各国もこの儀式をやっている為、合計で2000人以上の者が召喚されるとの事。そしてこの世界は能力ではなく魔法が存在する。救世主は魔法の適性が高いらしく、歳も取らない事になっている。


 でも僕はまだ召喚の儀式を始めていないのに出てきた。だから少し驚いたっぽい。僕は誰かに召喚されたわけではなく、自分で転生した。だからまぐれだ。でも今この場では召喚されたという事にしておこう。


 ちなみにこの国が救世主を必要とするとのは、この惑星の向かいに突如として現れた惑星が原因だ。ここを侵略しようとしているからだ。なんともエゲツない。


 でもこれはチャンスだ。もしも相手が自分らの住む惑星事ピンポイントでここに飛んで来たのなら、何かしら宇宙を行き来する方法が存在するという事だ。技術力からしてこの惑星の戦力は僕のいた地球の戦力の1000分の1程度だと仮定する。弱い惑星を狙って侵略しようとしたのだとしたら、僕が狙って日本に帰る方法を敵が知っているかもしれない。


「ではこちらへ。今から魔法の使い方を教えさせてもらいます」


 とりあえず魔法を習う、か。そういえば召喚される人たちってどこからくるんだろう?後で本人達に聞いてみよう。10人とも同じ所から来るとは限らないけど。


「ここです」


 長い廊下を歩いて行き着いた部屋、それはとても広く、いわば闘技場のような場所だった。魔法を練習するにあたって戦闘訓練もするからかもしれない。


 お爺さんは椅子に腰掛けた。


「まずは適正魔法を調べてます」


 そういうとお爺さんが僕に向けて変な光を放った。


「ほうほう。救世主様の適正魔法は...天魔法(てんまほう)、黒桜魔法(こくおうまほう)、白桜魔法(はくおうまほう)、水魔法(みずまほう)、神聖魔法(しんせいまほう)、空間魔法(くうかんまほう)、そして精製魔法(せいせいまほう)です」

「随分と多い。でもその種類の魔法しか使えないって事?それなら少ない」

「いいえ。救世主様に限らずこの世界の人々は皆、ほぼ全ての魔法が使えます。ですが適性があるとより強固なものになるという事です。あなた方はより多くの適性魔法を持っており、かつそれはほぼ全てが戦闘に役立つものである傾向が高いのです」


 面白い。適正魔法以外でも使える。僕は能力が4つしかなかったけど、魔法適正に関しては沢山ある。しかも一応それ以外の魔法も使える。


「言い忘れていた事がありました」

「?」

「魔法にはランクがあります。我々はそれを階級と呼んでいます。階級が高いほどより多くの、そしてより強い魔法が使えます」


 能力で言う所の等級か。


「適正魔法の内どれか一つが限界階級のグレード1(ぐれーどわん)に到達した者を特殊ランカーと言います。救世主様方でも難しいと思いますが、頑張って下さい」


 そしてお爺さんは立ち上がって魔法の使い方を教えてくれた。なので試しにやってみたところ...


「ゲホッゲホッ!」

「救世主様!」


 すごく咳が出た。そして体が痛い。一体どうして?


「まさか...」

「えっ、何ですか?」

「たまにいるんです、魔力に弱い人が」

「?」

「魔力というのは微々たる量ですが、空気中にも存在します。特に魔法を使った後などは多く。で、たまに魔力に弱い人がいるんです。そういう人は咳や目眩、嘔吐など様々な症状が出るんです。多分あなたもそうです」

「じゃあ何でさっきまでは大丈夫だったの?今もこの王都の至る所で魔法が使われているでしょ?」

「召喚されて少し経つと体が周囲の変化に慣れてきます。そしてあなたの体は最後まで、つまりさっきまで踏ん張っていた。でも結果的に魔力へ体が対応できなかったってわけです」


 魔力が毒?アレルギーみたいなものか?だとしたらまずい。魔法が使えない。


 ん?でも自分の体の中の魔力にまでアレルギー反応はしてないよな?もし反応していたらナッツアレルギーの人が袋いっぱいのピーナッツを飲み混んだ状態と一緒だ。症状は軽い、自分の魔力以外を吸わなければワンチャンなんとかなるかもしれない。


「精製(せいせい)魔法」


 マスクを作った。それも超高性能なやつだ。これで外からのいっさいの魔力を防ぐ事が出来る。


 感想として、魔法の使い勝手は僕が使える能力のそれに近い。でもこれは多分適正魔法だけだろう。


 僕はマスクをつけた


「それは何ですか?」

「気にしなくてもいいですよ。元いた世界のものを再現、改良してみただけです。これで問題は解決です」

「おぉ、素晴らしい」


 その後は魔法の特訓をした。みるみる内に使いこなし、1時間ほどで戦闘が出来るくらいにまでなった。


「救世主様に提案があります」

「何?」

「二つ名をつけましょう。これから救世主様はあなたを含めて2000人ほど召喚されます。するとみんなをみんな救世主様と呼べません。名前で呼ぶ事もできません。なぜなら国民はあなた方に敬意を示したいからです。意地でも救世主様と呼ぶでしょう」


 一理ある。少し気が引けるが、二つ名を考えてみよう。


「........」


 考えてた末に思いついたのは、


「光鏡の王にしてくれ」

「はい」


 単純にダサいかもしれないが、カッコ悪すぎでもない。しかもこれは僕の持つ4つの能力の内の一つの名前+等級だ。


 そんな時だった。この部屋のドアが急に開いた。そこには焦った様子の魔法師が立っていた。


「救世主様、ダグラス様、大変です!今現在召喚した新たな救世主様の魔法が暴走しています!お助けを!」


 それはやばそうだ。とにかくいってみよう。ちなみにダグラス様とはこのお爺さんの事だ。


 二人と魔法師は新たな救世主が暴走している部屋に向かった。


 少しすると大きな音が聞こえてきた。それは何かが何かを吹き飛ばしているような音だ。


 そして部屋に着いた。


「ここです」

「さがって良いぞ」

「はい、ありがとうございます、ダグラス様。そして救世主様、御武運を」


 中に入るとどっかで見た事ある制服を着た少女が立っていた。見るからに地球から来たという格好だ。泣き崩れている。


 それよりあれだ。まるで全てを拒絶しているかのごとく彼女の周りは吹き飛ばしてゆく。近ずけば死あるのみ、だ。そしてあれはおそらく魔法ではなく、彼女の能力だろう。


 それにしてもかわいそうだ。あんな能力があってはまともに生きてこれなかっただろうに。学校生活もうまくいかなかっただろう。助けないと。


 稀小留(きおる)は一歩前に出た。


「救世主様、一体何を!?」

「そういえば二つ名で呼ぶのは国民って事でいいよね?ダグラスさんは本名で呼んで、僕の事を。稀小留(きおる)、それが僕の名前」


 こっちに来て誰にも名前を教えていなかった。ここで死んだ時は...いや、死なない。あの子に罪の意識を被せたくない。そして僕は日本に帰らなくては。


「何で泣いてるの?」


 大きな声で聞いた。彼女の能力ですごい騒音が起きているからだ。


「近づかないで!」

「うっ!?」


 彼女の能力の範囲が拡大した。今の僕にこれを防ぐ魔法も能力も無い。でも彼女の能力の詳細が分かれば特定法則無視で能力の被害を受けずに近づける。そしてもう一つが光鏡の能力であれを跳ね返す案だが...だめだ。そしたら彼女はどうなる!?ただあの能力を発生させているだけで、当の本人に耐性があるわけでは無いかもしれない!


 よく見ると彼女の顔、腕、足は飛び交う様々なもののせいで傷だらけだった。


 でもこのままだとダグラスさんやその他の人が。


「倍率操作!」


 やけくそだが倍率操作で体の外側と服の強度を限界の100倍に上げて近づくしか無い。少しずつ、でも着実に範囲が広くなっていく彼女の能力。今はこれしか...


 稀小留(きおる)は彼女に向かっていく。あまりの勢いで後ろに跳ね飛ばされそうだ。


 マスクが外れた。ここは彼女を召喚したばかりであり、濃い魔力が飛び交っている。


「ちくしょっ!」


 激しい咳と共に血が出てくる。


「稀小留(きおる)!」


 ダグラスが叫ぶ。でも振り返る事は許されない。もしもそうしたら最後、空の果てまで吹き飛ばされる。


「君!お願いだ、これを止めてくれ!」


 彼女がこちらを向いた。


「無理なの...完全暴走したら最後、もう私を殺すしか...」

「いや、まだ手がある!君の」


 次の言葉が出てくる代わりに咳と血が飛び出た。


「ごっ、ごめんさい!私のせいで!」

「違う、これは僕の事情だ、だから今は忘れてくれ!」


 やばい、意識が...


「うっ!」


 足にがれきを刺した。よくあるベタな展開だろうが、ここで意識を失ってはいけないんだ。


「能力の、能力の詳細を教えてくれ!」


 ついに足に限界が訪れたようだ。僕はその場に倒れ込んだ。


「アレルギーってこんなにっ!」


 小声で言った。でも上半身をなんとか起こした。一応彼女に特定法則無視を付与出来る距離にまでは来れた。


「この能力は物理法則操それの暴走!」

「ありがとう」


 その瞬間、宙にある全てのものが止まった。もちろん彼女の能力もだ。


「特定法則無視」


 物理法則操作は法則だ。それを無視させた。彼女はこれで能力を使えない。ついでに宙に浮いているものが落ちてこないようにした。彼女はそれらから身を守る方法が無さそうだからだ。


「これで君は...自由...だ」


 そして意識を失った。

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異能力者が魔法の国に転生する話〜もう一度あの世界に戻る @ShadowNovel1

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