1章第2話 光と鏡の覚醒
僕は死んだ。結局、由井(ゆい)にはダメージを与える事が出来なかった。僕が弱かったのもそうだが、できなかった。前々から好きだったから。
さあ、この後はどうなるのか。
体という器をなくした僕。今の僕は多分魂という存在で広大な宇宙のどこかに居る。それは役目を終えた者の末路なのだろう。
「そう、もう終わったんだ。僕はもう何もできないし考える必要も...必要も...」
体はない。だから涙は出ない。でもやはり心がある限り、人間はいつどんな状況下でも悲しむ事ができる。生前は死んだ後に考える事も存在する事もなくなるのが怖くて怖くて仕方なかった。だから命を尊く思った。そして、死んでも尚存在し続けたいと思った。
だが気づいた。それが今この場ではただただ辛い事実だという事を。やり残した事、これから起きるかもしれなかった事、好きだった人の顔。沢山の何かが僕の頭をよぎってく。苦しい。
「楽になりたい...」
どれくらいたったかはわからない。でも着実に記憶や自我が消えていく。人間だったという事実はとっくにに消えていた。生前の記憶も無い。後は心の解放だけだ。そうすれば苦しくなくなる。
その時だった。心をよぎる一つの記憶があった。もう無いはずの記憶、それが今一つだけ存在した。
「あぁっ...」
それは死ぬ直前の記憶だった。名前すら忘れていたあの人のくれた最後の言葉、それは
「そう、よかった。私も君の事が好き」
そういえば生前、この言葉を最後まで聞けなかった。先に意識が飛んでいってしまったからだ。でも魂には刻まれていた。俺の意識が無くなった数秒後の出来事が。
そして世界が広がった。消えかかっていた心はまた温もりを取り戻した。人間だったという事実を取り戻した。記憶を取り戻した。全てを取り戻した。
「帰る。絶対に帰ってやる」
とある施設の管理センター〜
「神様、3番保管庫にある魂の一つが暴走しています!」
「なんだと!?」
年老いたお爺さんがやってくる。
「ほら!」
神様を読んだ天使はスクリーンに3番保管庫の映像を映し出す。真っ暗な宇宙を一つの魂が照らしていた。
「あれは暴走じゃない。光と鏡の能力の覚醒だ」
「え、死んだ後にそんな事があるんですか!?しかもあれはもう王の等級を獲得していました。それ以上ってあるんですか!?」
神様は考え込む。こんなイレギュラーは初めてらしい。天使も動揺した様子だ。
「ん?」
3番保管庫が完全に光で包まれた。何も見えなくなった。それと同時に一人の男が神の目の前に現れた。
「神様っていたんですね。でも天国は少し違う印象だった」
「心を取り戻したのか?」
「...」
彼はうつむく
「どうしてもやり残した事があるんです。だから帰りたい」
「それは出来ない」
二人は見つめ合う。天使は状況が理解できていない。
「なら自分で転生します」
「今の君にはできるだろう。でも同じ世界に戻れる確率はほぼない」
「転生先で探しますよ」
彼の体が光に包まれ始めた。
「だめだ!失敗したらどうする!?」
神様は怒った。普段は怒る事は滅多に無い。でもそれは彼を思っての行為。それでも...
「やってもないのに諦める事はできない。どのみちここにいても意味は無い。光鏡、神」
能力には等級が存在する。その能力を極めるほど等級が上がっていき、最後に王となる。だがその上が確認された事はなかった。今この瞬間までは。最大等級、神。
今の彼はここの神様と同じ土俵に立っていると言っても過言ではないだろう。魂も覚醒したからだ。
「待て、最後に二つ質問させてくれ。
彼は首を縦に振った。
「君を待っている人がいるのかね?」
「はい、由井(ゆい)という子です」
「君の名前は?」
「稀小留(きおる)」
そして彼は魔法の国へ転生した。能力という名の異能力を持ったまま。
「神様、よかったのですか?」
「良い。私の作ったこの世のシステムに逆らえた最初の者だ。行く末を楽しもう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます