異能力者が魔法の国に転生する話〜もう一度あの世界に戻る
@ShadowNovel1
1章第1話 尊いもの
「由井(ゆい)さん、君は一体何をしようとしてるの?」
雨が降っている。風が吹いている。肌がちょっぴり冷たい。
「初めて名前を呼んでくれた!君ほとんど私と喋った事無かったね!」
彼女のテンションは異様に高い。僕の声はこの強い雨音にかき消されそうだというのに、彼女の声はすごく聴きやすい。
雨は止まない。この廃墟もまた元に戻る事は無い。僕自身ももうチャンスはない。
「もう一度聞く、君は一体ここで何をしようとしている?」
「つれないね〜。君は確か学校では...まあいいや」
聞いてもだめなようだ。
「じゃあさ、一つ答えてよ。そしたら教えてあげる。でももし私を満足させる答えじゃなかったら...」
「わかった」
「それ本気?もし答えが私の満足するものじゃなかったら、君は私に」
「殺される」
「なんだ、わかってるじゃん」
そう、僕一人ではこいつに勝つ事はできない。彼女には100を超える能力と、それぞれが戦闘で優位に立ち回れる能力を秘めている。対して俺はたった4つしか持っていない。どれも真の使い方を見せた事は無いが、勝てる相手ではないだろう。
でもいい。こいつに少しはダメージを与えてから死ぬ。そしたら後は僕じゃない誰かが倒してくれるだろう。
でもまずは質問に答えるとしよう。
「ベタなを2つ質問、命って何で尊い?」
ベタとは言っても、この質問の答えは二つしか無い。僕らと彼女が対立する理由、それは考え方の違い。僕らの答えを述べたら最後、彼女は俺を殺すだろう。反対に彼女の考え方で答えれば助かるかもしれない。でもそれは僕を助けた人々を裏切る行為だ、絶対にしたくない。
「大切さが分からない者にだって平等にあるこの世にある数少ない公平なもの、そして何より失うのが一番怖いものだからだ」
少し間が空く
「質問の答えになっていないよ。君は本当に死ぬつもりだね?じゃあそれ、叶えてあげるよ。2つ目の質問は保留」
僕これで確実に殺される。だったら最後は潔く死のう。恥ずかしくない、悔いのない死に様。最後まで何かをしたって事実が残らなくても。
僕という存在そのものが彼女に消され、誰もが僕という存在を忘れてしまったとしても。最後まで僕が覚てる。
「一つだけ言わせてくれ」
「何?」
「君の事が、いや、由井(ゆい)の事が好きだ」
激しい悲しみが心から溢れ出ると同時にひどく達成感に溺れる。何もまだしていないのに。
「それで私を魅了するつもり?死にたく無いからってどうかしちゃった」
「違う、これは前々から思っていた事だ。ずっと君と一緒にいたかった、喋りたかった、過ごしたかった。考え方の違いという壁がなければ」
僕は彼女の事が本当に好きだ。だから死んでも悔いはない。最後に思いを伝える事ができたから。
「じゃあその苦しい思いもろともあなたを殺してあげる。光」
こうなると思っていた。でも悲しい。
光、彼女の能力の一つ。光の操作だ。でもこれくらいなら俺も対処できる。
「光鏡(ひかりかがみ)」
光と鏡の攻守一体の能力。鏡は光を跳ね返す。でもそれは何重にも重ねたものでなくてはならない。何せあの威力だ。
彼女の放った光は跳ね返り、本人のすぐ横を掠めて廃墟ビルにぶつかった。
「君、そんな能力持ってたっけ?」
「ここで君にダメージを与える、それが僕の最後の目標だ」
「なら、赤音波(おんぱ)」
音の攻撃。彼女の強さでさらに磨かれ、俺なんて一瞬で切れる。でも音は音だ。ノイズキャンセリングして見せる!
「光鏡(ひかりかがみ)、特定法則無視(とくていほうそくむし)、そして量子c(量子コンピュータ)」
特定法則無視(とくていほうそくむし)とはその名の通り法則を無視する事だ。量子c(りょうしコンピュータ)もその名の通りだ。それらに光鏡(ひかりかがみ)を合わせる。
僕の持つたった4つのうちの三つを同時発動する。これの応用力は能力が少ないが故だ。
「ノイズキャンセリング常時発動」
音波が消えていく。僕の体には一ミリも届かない。
鏡で空間を認識、コピーする。特定法則無視で逆の音をゼロから生み出す。それを量子cで演算する。そして辺り一面の効果を広める。これが僕の編み出したノイズキャンセリング法だ。
ちなみに特定法則無視は便利すぎる能力ではない。法則でないと無視できないからだ。例えば俺が彼女に負けるという法則を無視すればいいと思ったそこの読者、それはできない。なぜならそんな法則が存在しないからだ。音を形作るにあたって必要な法則を無視した。それがこの能力だ。
「なるほど、私への対策はできていると。でもそれを常時発動していても大丈夫かな?」
「なんとか」
ノイズキャンセリングを発動するという事は三つの能力を常に発動させておくという事だ。そのせいで他の攻撃ができなくならないよう、量子cでもう一つの架空の脳のようなものを作った。そして負荷に耐えきれない能が焼けないよう、倍率操作(ばいりつそうさ)で脳の強度倍率を10倍に上げた。
ちなみに今量子cを同時に扱える数は4つ、倍率操作も4つ(それぞれ100倍まで可能。ただしすごく疲れる)、光鏡は無限、そして特定法則無視は3つだ。
能力の合計最大発動数は6つ。もう5つ作動している。やはり戦闘中に解除と作動を繰り返すのが得策か。
「強化、近接戦、加速、強襲、筋力強化、不意打ち、無気配、...」
どんどん重ねがけされていく彼女の能力。俺と違って限界はないのか。
「どこまでチートなんだよ。でも一撃は与える」
「できるのかな?」
目にも追えない音速を超えた速度ノイズキャンセリングを一度解除して思考の倍率を高め、加速した。特定法則無視で人間の筋力パワーの法則を無視。さらにそれを倍率操作100倍で高める。音速以上の速度に体が耐えられない温度とGの法則無視も追加。これで追いつける。
雨が止まって見える。元々動きのない廃墟がさらに止って見える。でも彼女は止まらない。だから僕も速度を落とせない。
向こうは剣やら槍やらを物質創成(ぶっしつそうせい)で作って攻撃してくる。対して僕は光でできた不完全な剣。能力同時発動数は、今のところ6つだ。
「君は本当に私が好きなか?」
「何度も言わせないでくれ、本当だ」
剣の腕では全く敵わない。しかも彼女は逐一武器を変えては攻撃し、気配をいっさい消しては後ろから襲ってくる。そのせいで右肩に槍が刺さってしまった。足ももうボロボロだ。膝をついてしまった。
「どう、利き腕やられた感想は?」
「利き腕は...利き腕は右じゃない、左だ」
「そう」
容赦なく彼女は近づいてくる。これでも彼女は手加減している。だって僕を倒すのに動く必要すら無いからだ。
でもそれは一瞬の油断、隙を生む。今こうして僕が何もできない事をいい事に彼女は防御の能力を発動していない。今が最後のチャンスだ。速度とチャージに残り僅かな一生を賭けろ!
近づいてくる...
「今!」
僕は速度に倍率を1000倍かけた。限界の100を10倍凌駕する為、体は負荷に耐えられない。でももう死ぬんだ。関係ない。
「光鏡の、王!」
隠していた最後の手、それは等級を王まで上げた光鏡の能力最大の攻撃だ。
「しまった、不意をっ」
「終わりにしよう」
天から光が落ちてきた。それを鏡が反射し、辺り一面を消しとばす。その破壊力は戦略核兵器以上とされ、それを一点に集中させる。自分も犠牲に。
そして...
「やっぱりできなかった...」
僕は彼女にダメージを与える所か、不意をついたおかげで殺す事だってできた。でもそれができなかった。とある感情一つで。
横たわる僕に近ずてくる影。
「君は本当に好きなんだね、私が」
「うん、だからダメージを与える事ができなかった」
僕にとっての大切な命、尊い命、それは彼女のものだった。
「苦しくない」
「え?」
「君は言った、苦しい思いと一緒に僕を殺すと。でも全く苦しくなかったよ、今までに一度も」
苦しくない。でも嬉しい。死ぬ前に見る顔が僕の好きな人のである事が。
「二つ目の...二つ目の...質問...」
「え?」
今度こっちが聞き返してしまった。彼女の目からは涙が溢れていた。一体なぜ?
「私の事、好き?」
「うん」
「そう、よかった。私も君の事が...」
その後の記憶は全く無い。
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