0時19分
フレイムハート
絵空事と知り合いとあじ
はぁ、という溜息が聞こえた。
声の主は俺だ、この部屋には俺しか居ない。
俺には生き甲斐がなかった。今まで生きる糧になるようなものは得られず、恋も趣味もとても浅いものだったのだ。
そんな俺が今唐突に思いつき、行った事が執筆であった。
文字を書く事、一口に言ってもその行為は多種多様と言える。
職業である事や趣味である事、その中にも更に物語を書く事や自分の体験、日常を書く物も。ゲームの攻略情報なんてのもあれば便所の落書きなんてのもある。
俺が書きたいものはなんだろう、伝えたいものはなんだろう。
俺は数分考え込んだがすぐに結論に至った。
これを読んでいるお前、お前に伝えたい事は特に無い。何も無い。全くもって。な。
待て、ページを戻ろうとするな。
焦りは禁物、どうせ暇なんだろ?最後まで読んでいってくれよ、そう長くはならない。
まずは読みやすい文を書きたい、そこから始めるとしよう。
ただ読みやすいだけじゃダメだ、次を読みたくなるような、好奇心を沸き立てる文章を考えることにする。
そこで俺は閃いた。
書き手の実力不足は否めない、ならば読み手に手伝ってもらおう。そう、今これを読んでいる君だよ。
こんな経験はないか?
友達のSNSをプロフィール画面まで行って何となく投稿を遡って読んでみたり、人の日記帳をこっそりと覗いてしまったり。
無くてもいい、あれば尚良い。
いかに微妙な文章であれど知人が書いたものってのは非常に興味がそそられる物だ。
そこでだ、以降俺のことは知人男性として見て欲しい。出来ればそれは「学生時代、大して仲良くなく話すこともなかったがうっすらと覚えている大人しい男子生徒」であると嬉しい。理由は聞くな。
こうすることでこの平坦で盛り上がりに欠ける文章も少しは面白くもなるだろう。
さて、その上で軽く何かお前に伝えて見たいと思う、心して読むように。
先日俺は新しくできたたい焼き屋に行きたくなったんだが、家から少し距離があるため自転車で向かうことにした。赤色の、かっこいいチャリでだ。
家を出たのち、チャリンコに跨り道路交通法を守りながら無事たい焼き屋に着いた俺はハッとした。何味を食べるか決めていなかったんだ。
そこで俺はあえてプロに味を選んでもらうことにした。素人の俺が下手に選べば火傷しかねないからだ。さすが聡明な俺。
「おっちゃん、何味の鯛焼きがおすすめかな」
そう聞いた俺に数分悩んだ後職人っぽい見た目の店主はこう答えたんだ
「あじ」
…?????
?( ^ω^ )?
なんて?あじ?え?
あじ?
今になって言えることだがこの時メニューを見れば解決する話だったんだ。だが俺は愚かにも言葉で返した。
「すみません、何味がおすすめですか?」
「あじ」
壊れたロボットのように同じ言葉を繰り返す俺たち。
俺は早々に理解を放棄し「わかりました、あんこください。」と唱え150円を払って公園に移動した。
すげえ美味いコクのあるあんこの詰まったたい焼きを平げ、感謝を込めてネットの飲食店評価サイトを開いたときに気がついた。
看板商品のたい焼き、オススメは「アジ味」だった、ってね…。
…文章ってのは難しいね。
完
0時19分 フレイムハート @FLAME_HEART
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