厳しくも美しい雪国で生き抜く、一人の男の物語

 雪の降る世界に一人と一匹。まともに食料もない状態で生き抜くことの厳しさを細やかに描いているこの作品。しかし、その厳しさもさることながら、私はこの作品の中に、雪景色の美しさを見出してしまった。作者の圧倒的な文章力によって、作品そのものが昇華されているように感じられるのだ。
 自身が表現したいであろう世界を余すことなく書き表しているその文章力によって、自然と舞台への解像度が上がり、読めば読むほど惹き込まれていく。読む側の想像力の有無に関係なく脳裏に浮かぶ、静かな森と一面の銀世界、そこを進む一台のオンボロ――敢えてそう表現させて頂こう――戦車。
 タイトルにもあるとおり、この作品は「錬金」が最大のキーワードとなってくる。その仕組みを解説する描写は、ハイファンタジーでありながら、読者の知識欲を掻き立てる。非常に分かりやすく解説しておきながら、読者を退屈させない。そこに、作者の技量が感じられる。
 もっと言えば、主人公の相棒と言えるだろう冬狼(スノルフ)の可愛らしさや主人公から感じ取れる彼への愛情、冬狼と過ごすとき主人公から感じられる人間らしさについても語りたいところではあるのだが、あまり本編に触れ過ぎるのもよくないのだろうから、取り敢えず冬狼は推せる、とだけ書いておく。是非とも皆さんの目で確かめてほしい。
 以上の観点から私は『錬金紀行』を読むことを強く推奨する。それと共に、私自身も一読者として次の展開を楽しませて頂きたい。