おまけ 頑張れ、サンクトス君!
1.
「ごめんね、サンクトス君。今日はちーちゃんと寝るから」
「悪いね、殿下」
「……ここではサンクトスでいいよ」
夜、えりかの部屋の前で勝ち誇った微笑みを浮かべてえりかの腰を抱き寄せる美女に、サンクトスは悔しげに返した。
久しぶりにエリカと会えると思って前倒しで仕事を片付け、『逆行』をかけてもらってサンクトスの姿にまでなったのにチヒロに取られるとは。
まぁ仕方が無いか。チヒロも自分と同じくらいエリカに会えていないのだから。
チヒロもエリカと国が違うから普段は会えないというし、ソラリアに喚んでからも、昼間はムトゥと一緒に外回りに出てもらっている。エリカはマップを埋めるために別行動だ。
夜くらいゆっくり話したいだろう。
「サンクトス君はまたの機会にね? 今日は二人だけのパジャマパーティだから」
「ぱじゃまぱーてぃ?」
「夜着姿の女子だけで夜通し遊ぶことだよ」
それを聞いたサンクトスの脳裏に浮かんだのは、アロールが用意した透けすけな夜着をまとったえりかと千尋がベッドの上でいちゃいちゃする様子だった。
な、なんて羨ま……破廉恥な!
「そ、そうなんだ。楽しんでね」
「うん。今日はちーちゃんと二人でするけど、今度はサンクトス君も一緒にパジャマパーティしようね」
「え」
自分も入っていいのか?
その場合、自分もあの夜着姿なんだろうか?
それとも男の夜着があるのか?
これはアロールに聞いた方がいい案件なのか?
目の前で扉がしまったことにも気づかないで、しばらく固まっていたサンクトスだったが。
部屋の中の女子2人が着たのは地球から持ち込んだ愛用の寝間着で、当然まったく透けてはいない。
ホテルのような部屋のおしゃれなテーブルの上には、美味しそうなお菓子と紅茶が用意されている。
「国が離れてもこうやって週一で会えるなんて、ほんと異世界様々だね」
「ほんとだよ。ちーちゃん、いっぱい話したいことあったから聞いてきいてー」
「もちろん。おやつを食べながらじっくり聞くよ」
2.
「ごめんね、サンクトス君。今日はどうしてもちーちゃんにアレやってもらいたいから、一緒には寝られないの」
「久しぶりだから、えりかが寝てしまうまで付き合うよ」
「うふふ。ちーちゃんにしてもらうの気持ちいいから楽しみー」
サンクトスの気のせいなのか、見つめ合う2人の顔がいつもより上気しているように見える。
アレってなに? ナニなの?
「そ、そうなんだ。じゃあ、また明日ね」
「おやすみなさい」
「おやすみー」
扉の前から移動したものの、気になって仕方が無いサンクトスは戻ってきた。
でもノックする度胸はない。
いったいナニをしてるんだよっ。
そうして目の前の扉にそっと耳をつけた。
「んんっ。そこっ。イイッ」
「へぇ? もっと強くしようか?」
「や、ダメ。優しくして。壊れちゃう、からぁ」
「なに言ってんの。このくらい、大丈夫、だろ?」
「やあぁん」
~~~~~~!!
へにゃへにゃと座り込んだサンクトスの前に、ソルが通りかかった。
「サンクトス様? どうされました?」
「……女になりたい」
「あぁ。それならば、そういう異能があるか探しておきますね」
3.
「今日は一緒にいさせて!」
ソルが探してくれたが、残念ながら男が女になる異能は今のところないらしい。
それならばとサンクトスは自ら黒髪ロングのウィッグをつけ、作ったものの着る機会のなかった女児用の寝間着(もちろん透けない)を着て、扉の前で頑張っていた。
「エリカ、この姿なら一緒でもいいでしょ?」
涙目でえりかをうかがう様子に、ハートを打ち抜かれたえりかはサンクトスをぎゅぅっと抱きしめた。
「もちろんだよ、サニィちゃん。寂しかったんだね。今日は一緒に寝ようね」
「チヒロと同じこと、してくれる?」
きょとんとしたえりかは、満面の笑顔で頷いた。
「いいよ! 私まだ下手だから、せっかくだから3人でしようよ」
え。3人とはまた……。
とまどうサンクトスが部屋に入ると、すでにソファでくつろいでいた千尋と目が合った。
「これは可愛らしいお客様だね」
「ちーちゃん、サニィちゃんね、私たちと同じようにしたいんだって」
「あぁ」
なにやら納得した様子で、チヒロはにんまりと笑った。
「じゃあ、まずは、こっちでお茶会……したいけど、吐いちゃいそうだから、お茶は後かな? 起きていられたらだけどね」
「?」
「サニィちゃん、こっちに来て」
えりかにベッドに誘われ、「え、いきなり?」と思いながらも、サンクトスは言われるままベッドに横になった。
「ほら、うつぶせになって?」
チヒロに囁かれて、サンクトスはよくわからないままうつぶせる。
「いいかい? 気持ちよかったり痛かったりしたら、素直に言うんだよ?」
「あ、はい」
なんだ? やはり異世界だとやり方が違うのか?
ドキドキするサンクトスの背中をあたたかな手がすぅっとなぞる。そして--
「んんっ? あっ。ちょっ……待っ」
パキポキ、小気味良い音をたてながら、サンクトスの肩や腰、背中の骨が押されていく。
「うぁっ。っは。なに、これぇ?」
「マッサージだよ?」
「護身術の師匠から人体の急所を習った時に一緒に覚えたんだよ。どう? 力加減は大丈夫?」
「はいぃ」
「良かった。きみ、いっつも仕事忙しそうだからね。できればたまにはお風呂にゆっくりつかった方がいいよ」
「はうぅ」
体中がほぐされて、芯からあたたまる心地よさに、サンクトスの意識はだんだんと落ちていった。
「……あれ? サニィちゃん寝ちゃってるよ?」
「うん。寝かしてあげよう」
「さすがゴッドハンドちーちゃん」
「お褒めにあずかり光栄です。まぁ彼は疲れているんだろうね」
おそらくここに来るために無理しているのだろうと千尋は気づいているけれども、そんなことは言わない。
「さ、えりか。私たちは私たちで楽しもうか」
4.
「あの、またアレ、やってほしいんだけど」
扉の前で恥ずかしそうに、もじもじ言うサンクトスの姿に、千尋はえりかにアイコンタクトをとった。
(これはイイね!)
(イイでしょう、可愛いでしょう! サニィちゃんは最高ですよ!)
エストと違って心から恥じらう姿に、千尋のハートも打ち抜かれた。
「喜んでご奉仕するよ、可愛い人」
赤く染まるサンクトスの頬を跪いて撫でる千尋、2人の姿を「尊い」と、えりかは合掌しながら心に焼きつけていた。
私は御使い様じゃありません! 高山小石 @takayama_koishi
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