第3話 僕の家族のカタチと、そして出逢い。







僕は唖然としていた。





この、目の前にある、異常に高さがある大盛りご飯をみて。




アニメでしか…いや、あるいはよくあるバラエティー番組の大食い企画でみるような、そんなご飯が僕の目の前に、当たり前の事のようにどん、と置かれていたら、誰だってそうなる。




それにしても、このご飯は誰のなのか。



もしかしたら…僕?





そう思いかけてみて、僕はまさかとは思いながらも聞いてみる。



「あの、このご飯って…?」


僕がそういうと、キッチンからひょこっと凛花さんが顔を出す。



「それは君の特盛ごはん。残したら、許さ、ないからね?」


凛花さんはそう言うと、意味深に不敵の笑みを浮かべる。


「……!???」


僕が、これを…




残さず、食べる…????



僕は声にならない悲鳴をあげ、その代わりに心の中で叫びまくる。



でも、凛花さんの意味深な笑顔の圧に負けた僕はノーとは言えなくなってしまう。



いや、というか食べる、食べない以前の問題じゃなくて食べれるわけもなく、もしも食べられるなら僕はきっと、大食いYouTuberなんて余裕で目指せる、なんて思う。



そんな僕の戸惑う様子をみた凛花さんは、はぁ、と短いため息をつく。


「全部…は冗談、だけど。君、それくらい食べないと真面目に餓死するから。君、骨になりそう…で、心配。」


凛花さんは相変わらずの無表情で淡々と話す。




だけど自分の気持ちをそのまま並べたような、そのまますぎる言葉なだけに、本当に僕を心配しているのが伝わった。




一歩間違えると煽ってるか罵りに見えそうだけど、きっと彼女にその気は全くない。





昨日の「ヒョロ助」とか、ちょっと露骨な態度には少し戸惑ってしまったけど、きっと凛花さんは口下手で、自分の感情を表現するのが苦手なだけなんだ。




きっと、もっと彼女には表現しきれないたくさんの感情があるのかなと思うと、これから僕は凛花さんのそのいろんな表情をみてみたいと同時に思う。


「さ、そろそろ食べましょうか。」


由紀子さんは、いつもの優しい笑顔でみんなにそう呼び掛ける。



その日、僕の記憶では初めての″家族″との朝ごはんは、ずっと、何十年後でも、いつか思い出すような、ほんの些細な事かもしれないけど、僕にとっては大切な思い出の一部になる。







「ここが、牧場…で、ここ真っ直ぐ行って右折すると野菜の直売店が…ある。」




「そこから少し歩く、と、小さいスーパーがあって…いつも大体はそこで買うの。」



「あと、ここから10分位歩いたら…ほら、あそこ。」


彼女にとっては慣れた道だろう。凛花さんは次々とこの町の至るところを案内してくれる。


凛花が指で指したのは青々しい緑の美しい山だった。


ここは、山のふもとにある小さな田舎町で、のどかな自然が広がっているこの町を僕は気に入ってる。


そして、由紀子さんが僕を気遣って、凛花さんにこの町の案内をたのんでくれたのだ。




ここは…


僕は何かを感じる。


『思い出さなくちやいけない』


何だろう…何か…


懐かしい匂い。


近くにいる。


誰か…きっと、


あの森に。



僕は、忘れている。大切な、あの人のことを。



僕は『記憶喪失』だ。


医者が言うには、僕の記憶は途切れ途切れで、特に事故に関係する事についての記憶を失っているかもしれない…と。





もしかして、もしかしてだけど…



僕に大切な人がいたのならば…







人は辛い記憶や、ひどいショックをうけると、その記憶を失うことがある。



だから、きっと、僕におこった事故だとか忘れていた方がいい記憶も、大切な人を思い出した瞬間に思い出すのだろう。




だからきっと、もしも大切な人がいたとして、忘れたくない大切な記憶も一緒に失ってしまったのだと思う。



でも、記憶は本当になくなった訳じゃない。


隠れて見えないだけで、実は自分の奥深く、途切れ途切れの記憶の欠片にきっと、大切なものは隠れている。



そして、その証拠に今、

僕はこうして″何か″に気づいたんだ。


本当かどうかも分からない、

何かの勘違いかもしれないけど…

というかその可能性の方が遥かに高いけど。


どうしてか


僕の心が


身体中の細胞が


何かを叫び、僕に訴えかける。









「僕、ちょっと森にいってきてもいいかな。」



僕は、森へと向かう。







そして



ようやく僕は、






───…出逢う。























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