第2話 僕のいえ。

「あら、あなたが日向くん?」



僕を出迎えてくれたのは、優しそうな50代くらいの女性だった。



「は、はい!」


僕は大きく返事をする。


「はじめまして。私は内海 由紀子、あと…」



由紀子さんが軽く自己紹介をすると、後ろに目線をやる。目線の先は、50代くらいの男性だった。


その男性と目が合うと、男性は由紀子さんと同じように優しく微笑む。


「こちらは夫の昭雄。」


由紀子さんはその男性の側によって紹介してくれる。


2人は仲の良さそうな、長年連れ添った夫婦といった感じがする。





「おぉ、君が日向くんか。」


昭雄さんは嬉しそうに声をあげ、僕を中に招き入れてくれる。


そして、少し言いにくそうに切り出した。



「いやぁ、実はな、もう1人紹介しなきゃいけないのがいるんだが…ちょっと反抗的でね。」



そういって、昭雄さんは苦笑を浮かべる。



反抗的というから、きっと、小さい子供でもいるのかと思っていた。



すると


「なんか、うるさい。」



いかにも機嫌が悪そうな若い女性の声がした。


「えっ。」



僕はビクッとすると、後ろから誰かの足音がした。


「君…ヒョロ助。」


そこには、怪訝そうな顔をした少女が立っていた。


「ひょっ…??」



いきなりヒョロ助と言われた僕はなんだかちょっと複雑な気持ちになる。



「君、日向…か。記憶喪失の、人?」

少女はそう言うと、僕の顔を覗き込む。


「う、あ、はい!」


「孤児、爆発事故、記憶喪失…。」

僕の事だろうか、淡々と彼女は単語を並べる。




「ちょっと、凜花!」



すかさず昭雄さんはその少女をしかる。

どうやらその子は、凜花というらしい。



「ごめんね、この子は凜花ちゃん。あなたと同じ孤児で、数年前に引き取ったの。あなた一歳下くらいかしら。」



由紀子さんは苦笑を浮かべながらも、彼女を紹介してくれる。



彼女は、髪はボブくらいの黒髪。

服装はだぼっとしたパーカーといったラフな格好で肌は白く、目が据わっていて常に無表情だった。



孤児というのだから、やっぱり色々複雑な事情を抱えていたのかな?



そして、凜花さんに言われて僕は改めて思うことがあった。




僕は、人類史上最大級といわれた、一年前の事故、『ベブトン爆発事故』。その多くの被害者の一人の僕は、あれから一年間意識がなく、そして奇跡的に目覚めるも、記憶喪失となってしまった。




僕は、元々孤児だったらしいが、以前の引き取り手の方のことも覚えていなく、その人も僕を引き取ることが出来なくなってしまったらしい。



そんな、面倒な事情ばかり抱えいる僕は引き取り手が見つらないのは当たり前。



だけどそんな僕のことも、こうして笑顔で迎えてくれる人達がいることに、感謝しかなかった。



「あと、ごめんなさいね、部屋が足りなくて…凜花ちゃんと一緒の部屋なんだけれど…」



由紀子さんは申し訳なさそうに言う。



「あ、僕は全然!」


僕よりきっと…


みんなの視線の先は、凜花さんだった。



彼女の顔は今日一番に機嫌が悪そうで、誰もがそれを感じ取った。




チっ…




舌打ちを残し、彼女はすたすたとどこかへいってしまった。








内海 凜花さん、


僕がこの家で唯一不安に思う。


大丈夫かなぁ…と思いながら、何も出来ずにいると、凜花さんは一瞬立ち止まり、振り向く。



「今日の夕飯、君が好きなの…作る!」


「え?」


「好きなもの、私…作る、から。言って…リクエスト!」


凛花さんは、さっきの態度からぐるっと180度変わったように少し顔色も声色もあかるくなって、口角が少しだけ上がったような気がする。


僕はそんな彼女の態度におどろく。


だって、まさかそんなことを言われるとは思っていなかったからだ。


「僕の?」


「うん、君がヒョロ助だから。」


そう言うとちょっと凛花さんが困ったような顔をした。


「私、いつも…ご飯つくる、から。今はあくまでも自宅療養中。しっかり食べないと…ね?」


そうか。


この人は──…


僕は無意識にふっ、と頬が緩む。



凛花さんはちょっと面白い人だ。


だって、無表情だったり、こわい人なのかと思ったら、他人を思える優しいところがあったり。





さっきまでの不安が嘘のようにふき飛んで、僕はなんとかやっていけそうな気がしてきた。


「じゃあ、オムライスで。」

僕は満面の笑顔でそうこたえた。

















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