僕の好きな人。
詩月 羽夢☆
第1話 僕には。
いつも隣には大切な人達の笑顔がある。
大好きな人達と過ごす幸せな時間。
…守りたい、いや、守ってみせる。
『僕が、君を。』
そう決めていたのに、僕は、自分を情けなく思う。
一瞬だった。
鼓膜が破れるような今までに聞いたこともないくらいの爆発音、地面の振動が伝わり、ものすごい勢いで全てが吹き飛ぶ。
その一瞬、君は僕を庇うように覆い被さった。
そして、彼女はこう言い遺した。
「少しは、恩返し…できたかな?」
恩返しなんて、いらないのに。
僕は、結局、君に守られてしまったのだ。
自分の命との代償に君がいなくなったりなんかしたら、僕は一生悔やむだろう。
煙が立ち込め、人々のざわめきや叫び声が
だんだんと聞こえなくなって、力がはいらなくなり、やがて意識を保てなくなる。
大切なもの、全ての記憶が徐々に薄れていく。
…夢なのか?何処かも知らない、ただ真っ暗な闇の中で僕は呆然と立ち尽くしていた。
そして、僕は闇の中で一人叫ぶ。
『忘れちゃだめだ!!』
僕は…!
僕は…!!
僕には……───
「…はっ。」
僕は、そっと目を開く。
痛ッ、全身が麻痺したように動かない。
…ここはどこ?
辺りを見回すと、ここは病室だった。
バイタルモニターの規則的な電子音と、僕のつけている呼吸器の音が混じっている。
そして、ようやく僕は何か大変なことになっている事に気づく。
ただ、どうしてこんなことになっているのかがどうしても思い出せない。
「先生!!たち…あ、内海くん!目を覚ましましたっ!!」
まるで奇跡が起こったかのような声色で看護師の女性が声をあげている。
何があったのか、と他人事に捉えていた僕は、まさかその"内海"が自分の事だとは思いもよらなかった。
でも、それもそうだ、だって僕は──…
「記憶喪失、ですね。」
慎重な面持ちで話し始めたのは、真面目そうな眼鏡をかけた年配の医者だった。
とても深刻そうな面持ちで僕の症状について事細かに、丁寧に話してくれたが、頭が追いつかないくらい混乱していて、理解できなかった。
ただ、そのとき僕は一点をみつめて自分にたったひとつ問い続けた。
『僕に大切な人はいたのか』、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます