第5話  危険な兆候

 1



 月曜日。


「はぁ」


 吐く息は重く、足は地面に張り付いてしまったかのように動こうとしない。快晴の空が恨めしくなる。


 こんないい天気なのに会社に行かないといけないなんて。


 いや別に休みだろうとどこかへ行く予定などないのだけれど。


 あ~、働かずに生きていけたらなぁ。


 好きな時間に起きて、好きなだけ好きなものを食べて、好きなことをして、好きな時間に眠る。


 そうしたら、俺の灰色の人生も少しは楽しくなるだろうに。


 なんてな。


 ゴミ捨て場の前に見慣れた女性を発見した。大きなお尻、栗色の髪、白い肌。


 つくしさんだ。

 

 少し歩調をゆるめる。


 わざと足音を立てるようにして歩く。その音が耳に届いたのか、つくしさんはぱっと振り向いて、


「あら、しーくん。おはよう」


「あ、おはようございます」


 俺は小さく会釈をする。


「今日も暑いねぇ」


「そうですね」


「今から出社?」


「はいそうです」


「頑張ってね」


「……はい!」


 と、その時――


「あっ」


 つくしさんはごみを捨てるために前かがみになった。つくしさんが着ているのはだるだるに首元が伸びきったTシャツ、さらにはノーブラである。


 暗闇に覗く深い谷間。そしてその先、つくしさんのつくしさんが見えそうだ。


 全身がかっと熱くなり、気分が高揚してくる。


 俺はちょっと背伸びをして角度を調整する。


 ああもう、襟がちょうど内側にたるんでいるせいでガードされている。もう少し、あ、つくしさん、もうちょっとだけ右を向いて……


「どうしたの? しーくん」


「え? いやなんでもないです」


 危ない危ない。


 胸を覗き見していたことがバレたら、つくしさんに嫌われてしまう。


「じゃ、俺もう行くんで」


 逃げるようにして俺は駆けた。


「あ、ちょっと待って、しーくん」


「はい?」


 足を止めると、つくしさんが駆け寄ってきた。


「なんですか?」


 大きな胸がたゆんたゆんと揺れる。


 つくしさんは俺の耳に顔を寄せる。


 ふんわりとしたなんとも言えない甘い匂いがする。


「な、なにか」


「もう、しーくんのえっち」


「へ?」


 ば、バレてた!?


 つくしさんは俺のおでこに軽くデコピンを食らわせると笑顔を見せてアパートに戻っていった。


「……」


 心臓が痛いぐらいにバクバクだ。緊張と解放の緩急が激しすぎて、変な汗をかいてしまった。


 胸を覗き見ていたことがバレた時は正直終わったと思ったけれど、あの反応、もしかしてつくしさんって……





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尽くしたがりのつくしさん 館西夕木 @yuki5140

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