7-2

「ここって……交通事故とか?」


 わたしは、静かに頷く。


「知り合い、だったのか?」


 わたしは、首を横に振る。


「知らない、近所に住んでいただけの双子の姉弟だよ」


 それを聞くと、シュンは納得できないように首をかしげていた。


「じゃあ、行……」


 わたしが振り返りその場から立ち去ろうとしたが、シュンはなぜか電信柱の前から動かない。


「えっと……どこの誰だかは知らないけど……ってそれはお互い様か。えっと……その、きっと、キョーコは大丈夫だっ。今も、これからもしたたかに生きていけるよ。だってよう、今だってこうやって俺を奴隷の様にさ……いや、そう言うことじゃなくてだな……だからっ! 俺が……いや、お兄さんが保証するよ。心配しないで、な。おれに任せてほしいんだ」


 ……なにか勘違いしてるみたいだけど、まあ良いか。


「何してるの? 暑さで変になっちゃった?」


 そう言うと、なぜかシュンは満足そうに、こちらに笑顔を向けた。


 ね、優しい人でしょ。


「……ありがとね」


 できる限り小さな声で、シュンに聞こえないように呟く。


「んー、何か言った?」


 聞こえているのかいないのか、シュンが聞き返す。


「何でもないよっ」


 シュンに向けた顔はおそらくニヤけていて、嬉しいのを隠せていない。


「さ、行こっか」


「行くって、どこへ」


「だから、買い物だって。ショッピング。前のレポート手伝ったから今日は付き合ってくれるんでしょ」


 わたしはシュンに背を向け歩き出した。


 じゃあ、そろそろ行くね。ヒイ、セイ。


「手伝ったって、ちょっと資料探して貰っただけじゃ……」


 シュンが納得いかなさそうに、ぼそぼそとつぶやく。


「何か言ったぁ?」


 振り返り言うと、少し離れてしまったシュンは、小走りに近づいてくる。


「納得いかねえ……」


 シュンがまた、ぼそりと呟いた。


 さよなら、ヒイ、セイ。


 バイバイ、ピーターパン。

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ピーターパンは帰れない。 師走 こなゆき @shiwasu_konayuki

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