7.バイバイ、ピーターパン

 久し振りだね、ピーターパン。


 暑いね、ヒイ、セイ。セミが大合唱のように鳴いてるよ。元気だなあ。八月だから、当然だよね。

あれから一年もたっちゃったんだねえ。……二人は、覚えてるかな? わたしだよ小鳥遊たかなし恭子きょうこだよ。


 あのね、今は一生懸命に生きてるつもりだよ。


 大学もね、ちゃんと行ってるよ。親の選んだ大学じゃなくて、自分の選んだ大学に。


 まあ、少しレベル下げちゃったんだけど……ちゃんと、自分で決めたんだよ。


 大学はね……楽しい、かな? レポートが多くて大変だけどね。あはは……。


 あ、そうそう。わたしねもうちょっとで二十歳になるんだ。といっても、まだ一年ちょっとあるんだけどね。二十歳だよ二十歳! びっくりだよね。つい最近、二人の前で大人になりたくないって言ってたのに、もう成人しちゃうなんて。


 ……二人との差が広がっちゃうね。


「おーい、キョーコ? どこ行ったー?」


 男の人のわたしを探す声が聞こえる。


 あーあ、来ちゃったかあ。もう少し居たかったんだけどな。


「あ、見―つけた。って……何してんの?」


 わたしが、道の端で座り目を瞑って電信柱に向かっているのを見て、男の人が声をかける。


「ん、何でもないよ」


 この人はね、シュンって名前なの……あ、付き合ってるとかそんなんじゃないよ。


 大学の同じ学年で、ただの、友達。今日は買い物に付き合ってもらうんだ。


 ……結局、あれから一度も会えなかったね。これからも、会えないのかな? 


 わたし、ふいに二人の事思い出すんだ。夜、寂しい時とか特にね。そういう時にシュンにメッセージを送ると、電話をかけてくれて、文句も言わずに、わたしが返事しなくても話し続けてくれるの。わたしが大丈夫になるまで。


 優しい人でしょ。


 わたしが立ち上がると、シュンは、電信柱の麓を真剣に睨みつけていた。


「どしたの?」


「いや、何か居るのかと思って……もしかして、キョーコって霊感ある?」


 は? 霊感? 何言ってんのこの人。


 わたしが堪え切れず吹き出してしまったのを見て、シュンは少し怒ったようにしかめっ面になった。


「ふふ、ゴメンゴメン。でさ、頼んでたのは?」


 シュンは、ああと言いながら、持っていた近くのコンビニのビニール袋から、ペットボトルの冷たいお茶をわたしに差し出す。わたしはそれを受け取り、バッグに仕舞い込む。


「これもだけど、もう一つは?」


 言われたシュンは、ビニール袋から、缶のオレンジジュースを二本取り出した。わたしはそれを受け取り、蓋を開けて、電信柱の麓に並べて置いた。

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