第75話 終幕
新島恵太に新島春香、真中聡子とルーの4人は、黒い紳士服を着た白髪頭の初老の男性に連れられて、ひとつの部屋に案内された。
その執事の男性は先頭で入室すると、直ぐに立ち止まって頭を下げる。
「大奥様、皆さまをお連れしました」
「ご苦労さまです、セバスチャン」
部屋の中央にある、揺りかごのような安楽椅子に座る白い頭髪の老婆が、優しい笑顔で微笑んだ。
垂れた目蓋は目を覆い、顔中に深いシワが刻まれているが、顔色も良く、とても元気な印象を受けた。
「栞里さん!」
ルーは弾んだ声でその名を呼ぶと、嬉しそうに老婆のそばに駆け寄っていく。
「いらっしゃい、ルー」
老婆はルーの頭を優しく撫でながら、愛おしそうに微笑んだ。それから入り口付近に佇んでいる、残りの3人に顔を向ける。
「皆さんも、ようこそおいでくださいました」
「あの…さ」
新島恵太が頭を掻きながら、申し訳なさそうに顔を伏せた。
「いいんですよ、兄さん。仕方のないことです。こうやって再び会いにきてくれただけで、私はとても満足していますから」
そう言って老婆は「フフッ」と笑う。
「それから、ハルカさんにサトコさん」
「は…はいっっ」
新島春香と真中聡子の返事の声が、緊張で思わず上ずった。
「改めまして、新島栞里です。いつも兄さんのそばにいてくれて、ありがとうございます」
新島栞里がゆっくりと頭を下げる。
「そんなっ、私の方こそ恵太くんに良くしてもらって、本当に感謝しています」
真中聡子は一歩前に進み出ると、胸に手を当て深々と頭を下げた。
「あ…あの、私も…っ」
「ハルカさん」
新島春香が焦ったように口を開くと、新島栞里がそれを遮った。
「ここまで兄さんを護り抜いてくれたこと、アナタには感謝しても感謝し切れません」
「あ…っっ」
新島栞里の優しい口調に、新島春香は何だか泣きそうになる。
「ハルカさんにサトコさんも、頼りない兄ですが、これからも兄さんのこと宜しくお願いしますね」
「は…はいっ、こちらこそ宜しくお願いします!」
二人は背筋をピンと伸ばして、揃えたように声を張り上げた。
「栞里さん、お身体の方のお加減はどーですか?」
ルーが少し心配そうに、新島栞里を覗き込む。
「それが本題ですものね。大丈夫ですよ、この目で姪っ子の姿を見るまでは頑張るつもりですから」
「……え!?」
新島栞里の聞き流せない言葉を聞いて、三人娘が言葉に詰まる。
「兄さん、とても楽しみにしていますから、頑張ってくださいね」
「頑張れって…お前な」
恥ずかしそうに顔を真っ赤に染める新島恵太の様子を見て、新島栞里は「フフッ」と笑った。
「栞里さんっっ」
そのときルーが、必死の形相で声を張り上げた。
「今、何て言いました?」
「ですから、楽しみにしていると…」
「そ…その前っ、確かに『姪っ子』って…っ」
新島春香も新島栞里の元に駆け寄っていく。
「あらイヤだ。私そんなコト言いました?」
「もしかして、誰の子かも分かっておられるんじゃないですか?」
真中聡子も新島栞里の横に立って、喰い入るように覗き込んだ。
「さて、どうでしょうね?」
新島栞里が、はぐらかすように微笑んだ。
「そーいうことなら、絶対私です!」
そこでルーが勢いよく立ち上がる。
「お二人はまだ高校生ですからね。学生の本分は勉学と決まっています」
「あ…アンタだって同じでしょーがっっ」
新島春香も立ち上がると、見下ろすようにルーを睨みつけた。
「私はもう通えません。仕方がないので、ケータお兄ちゃんのお嫁さんにジョブチェンジです」
「そんな勝手、赦す訳がないでしょう」
真中聡子がにこやかな笑顔で、物凄い威圧感を撒き散らす。
「職業選択の自由は、個人の基本的な権利です!」
ルーも負けじと、胸を張って声を張り上げた。
その様子を見ながら、新島栞里がニコニコと楽しそうに微笑んでいる。
もしかしたら、まんまと踊らされたのかもしれない…新島恵太の背中に冷たい汗が流れた。
「ま、アイツに比べたら全然マシか」
窓の外に見える王宮を眺めながら、蒼い顔で門の前に立ち尽くす春日翔を思い出す。
雲ひとつ無い澄んだ青空は、何処までも高く遠く広がっていた。少女たちの喧騒を聞きながら、新島恵太は少しばかりの現実逃避を図る。
「あー今日も、いー天気だー」
~おわり~
帰還した勇者を護るため、今度は私が転移します! さこゼロ @sakozero
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