政略結婚の真実
会って良かった。
とてもいい子だった。
だが……
ディアナ王女と初めて会った次の日の朝。
俺は親父の部屋にいた。
「良かったな、可愛い子で」
「そうだな。でもあんな子供だとは思わなかったぜ。言っといてくれよ」
「三女だと言ったろう? お前、世界のとは言わんがせめて親戚筋の王族の大体の年齢位は把握しておけよ? 国王になってから困るぞ」
「そんなものなんだ。勉強になります」
腕を組んでうーーんと唸る親父。
俺が浮かない顔をしているからだろうな。
「何が不満なんだ?」
「いや不満って訳じゃあないんだけどな。あの後俺の部屋で二人きりで話したんだ」
そう。
どうしても話がしたくてあの後、彼女を俺の部屋に招いたんだ。
~~~
「ディアナは俺の奥さんになりたいか?」
「……分かりません……でも聞いていた通りの人の良さそうな方で良かったと思っています」
微妙に答えになっていない。
俺達はベッドに並んで座っていた。
相手が子供だからか全く緊張しないし変な気も起こらない。ディアナもベッドは寝る所位にしか思っていないらしく、特に意識もしていない様だ。楽でいい。
「そうじゃなくて……いや俺が悪かった。質問を変えよう。ディアナはまだ11歳なのにもう結婚したいの?」
「……」
困った様な顔付きで俺の顔を見上げた。
「正直に……正直に」
「はい。ディアナは本当はまだ結婚したくはありません。あ、でも!」
「大丈夫だよ。何か国の事情があるだろう事は分かっている。いくら何でも若過ぎるからな。そんな事は関係無く君の本心を聞きたいと思ってるんだ。誰にも言わないから」
少しホッとした顔をするとまた俯く。
「ディアナはまだ結婚とかあまり分かりません。夫と妻になって子供が出来て、というのは分かりますが、知らない人と一緒に暮らすより父様や母様や兄妹と遊んでいる方が楽しいと思えるから」
「あーーそうだな。俺の妻になったら離れないといけないもんな」
「はい……この話を聞いてそれがどういう事かがわかった時、とても辛かったです」
うーーん。
これは色恋より先に同情を感じてしまうな。
「でもアルタヴィオ様はとてもお優しいと思いました。こんな子供のディアナをいっぱい気にかけてくれて嬉しいです」
自然と頭をヨシヨシしてしまった。ハッと思ったが嫌そうどころかむしろ頭をくっつけてきた。もっとやれ、って事か。いくらでもしてあげるけど。
「ディアナ。結婚するなら愛がないとダメだと思うんだ。俺は」
「愛……ですか」
「うん。ディアナが正直に言ってくれたから俺も言うよ? 俺、好きな人がいるんだ。愛してる」
「ええ⁉︎」
その驚きの表情は正妻が~~とか浮気が~~とかを表すものでは無く、単純に好奇心を示していた。
「エルヴィールと言ってね。俺の一目惚れだったんだけど今は彼女も俺を好きになってくれている」
「エルヴィールさん……一目惚れ……」
「俺、ディアナも好きになりたいよ」
「……!」
「取り敢えず1週間、つまり10日間はいるんだよな? その間、俺と一緒にいよう。その後どうするかはその時考えようぜ!」
「はい! 私もアルタヴィオ様を好きになりたいです!」
~~~
……
「とまぁ、こんな感じだった」
「ハッ。全部言っちまったって訳か。まあそれも良いかもな」
親父は面白そうに俺の顔を見て言った。
「しかしお前も大人になったな。いつまでもガキだと思ってたが」
「ディアナの気持ちはよくわかる。彼女だけが不幸になっちゃダメだ。俺が何とかする」
俺の顔をジッと見て、親父は真面目な顔付きになった。
「よく言った。お前はもう立派な大人の男だ。お前には全部話しておこうか」
「ん?」
そこで珍しく親父は声のトーンを落とした。
「エルゼニアはウィカ=ラドゥリに狙われている」
「は……なに?」
ウィカ=ラドゥリというのはヴィクトリアの西に位置するエルゼニアの更にもう一つ西にある軍事超大国だ。領土はヴィクトリアとエルゼニアを足したものより更に大きい。
産出される資源は豊富だが国民の生活は貧しく、政治を仕切る一握りの軍部の上層達が莫大な富を占有している、とリーンハルトに聞いた事がある。
「前にこの結婚は政略結婚だと言ったな? エルゼニアは一年の期限付きでウィカ=ラドゥリに恭順するか蹂躙されるかの選択を迫られている。この結婚がうまくいけばウィカ=ラドゥリへの大きな牽制となる事をエルゼニアのヨエルは狙っている。そこまで俺に打ち明けての結婚だ」
頭を鈍器で殴られた様な感覚を受けた。
ヴィクトリアとエルゼニアの平和が、みたいな簡単な話では無かったんだ。
この前、『戦争』という言葉を親父が出したのは王として大局を見ていたからだった。
「この事はリーンハルト達でさえ知らない。お前の胸にしまっておけ」
「わかった」
突然の話すぎて上手く咀嚼出来ない。
だが、自分でも何になのかは分からないが、段々と腹が立ってきた。
「親父。俺はディアナをそんな話の犠牲にはさせないぜ。このまま結婚しますと言えば丸く収まるんだろうけど……まだ彼女はエルゼニアの親元に居たがっている。あの子を悲しませはしない」
「フフ。それでいいさ、今はな。俺は全てお前に伝えた。後はお前が何とかしろ」
―――
「あっきれた。エルゼニアのお姫さんに私の事言っちゃったって?」
エルヴィールの部屋に来た。
無性に会いたくなったからだ。
「正直なのも困りもんだな? ヴィオレットちゃんと人格代わってもらった方が良かったんじゃないか?」
「茶化さないでくれよ。真剣なんだ」
「……と他の女の事で私に相談されてもねぇ」
ジロっと流し目で俺を睨む。
「しかもそのお姫さんに私の事を愛してるとも言ったんだろ? 全くどうかしてるわ、お前」
「エルを愛しているのは譲れない」
「ほんと、変わった奴……けど素敵だな。私が今まで見たうちの部族のどんな男よりも」
小首を傾げてはにかんで笑うエルヴィールに一瞬で心を奪われる。
俺の肩をポンポンと叩き、
「お前がどういう判断をするにしろ、私はお前の味方だ。お前と愛し合えていると感じている間は、それは変わらない」
何て大人な殺し文句なんだ。これが年の功……?
仕方が無い。一旦ディアナの事は後だ。
「エル!」
「え? ちょっ……ん……んん……!」
シャツの下に手を入れ、胸を揉みまくった。
「こら、朝っぱらからこんな事してるっ……うっ……場合じゃっ……ん、んんん……ないん、だろ……」
「こんな事してる場合だ。今は」
左手をスカートの中に入れ、パンツの中に滑り込ませた。
「ああん……うっ……んっ……あ、ハァハァ……んんん……バカァァ……」
「大好きだ、エル!」
「バカァ……」
一時間後。
グッタリしているエルヴィールの上に布団をかけ、キスをして部屋を出た。
―――
昼食。
ディアナと二人きりで、といきたい所だがそうはいかない。
場所は大広間。
同席はエルゼニアの書記官セイエツ、名前を何と言ったか同じくあちらの2人の将軍。それに親父、母さん、妹に弟にエルヴィール、四神将、のみならず文官、武官、給仕……おまけにルーカスまでいた。
夕食でもないのに盛大な食事が置かれ、当たり障りの無い会話をしながら一時間ほど。
全く、こういう所は面倒だ。
恐らく親父も同じだろう。だが国王ともなると嫌だからやらない、という訳にはいかないんだな。笑みを浮かべてエルゼニアの面々と語らう親父は凄いと思った。
頃合いを見てディアナの元へ行った。
「ディアナ。この後外に遊びに行かないか?」
恐らくこの場の雰囲気に緊張し、俺以上に退屈していたであろうディアナの顔にパァァァッと日が差した。
「行きます! 是非!」
ディアナの許可を得た所でそのままセイエツと2人の将軍の所に酒を注ぎに行った。
「これは! あ、いや、勿体無い。私などにその様な真似は……」
「まあまあ気にしないで。で、お願いがあるんだけど」
「はあ。何で御座いましょう?」
「折角来て貰ったんだし、ディアナ王女に我が王都を見て貰いたい。連れてっていいかな?」
てっきり渋い顔をされるかと思いきや、満面の笑みで、
「ああそういう事でしたら。ラハン将軍、ツキ将軍。護衛をお願い出来ますか?」
そうだそうだ。確かそんな名前だった。もう覚えたぞ。デカい方がラハン、細い方がツキだ。
「あ、いや、お構い無く。僕達二人だけで……」
「王子、無論このリーンハルトも御守り致します」
……出たな、過保護野郎。
「僕はやめとくよ? 第一、そんなゾロゾロ付いてったらアルタヴィオ様だって迷惑だろ?」
オクタヴィア!
お前、普段何考えてんのかいまいち分からないが、空気読めてるじゃないか! てか、こいつらを説得してくれよ。
「ま、僕達、四神将は国と王家を守る為の存在だ。わかるけどね」
わかるのかよ。もっと自分の意見を押し通せ!
結局俺とディアナのデートにはオクタヴィアを除く四神将、エルゼニアの2人の将軍、更には万が一に備えて両国の念話術士までついて来ることとなった。
あと、ルーカスも来るそうだ。
俺とアタシで英雄になる話 〜配下が有能且つ過保護過ぎて出る幕がなく悶々としてたら俺の分身(美少女・悪)が現れて出番を用意してくれた〜 南祥太郎 @minami_shotaro
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