第122話 『神の子《エルーガ》とゴールデンプー』

 勇者はさっそく近づいてきたリョウマに自ら作り出した新しい能力を使用しました。

 

 

「よし、行くぞっ超越した把握ライブレーション


 するとリョウマの頭の上に多数の文字が浮かんできたのです。

 その文字を、勇者は一つ一つ読み上げていきました。


「本名・・・スセリ・サラバナ。種族・・・神のエルーガ・・・? エルーガって、何? 人間って表示ないけど?? 遠い昔に聞いたことある気がするんだけどな・・・」


「なんじゃ、ウチは人間じゃぞ?? 神のエルーガって何だ??」

「そんなこと聞かれても、この能力は、情報しかわかんないんだってば~~~」



「エルーガですか・・・・ひょっとしたら、守護霊とかが憑いている人の事を、そういう種族扱いするのかもしれませんよ?」


 グラウスは何ともなくそう言いました。


「ホントか??」

「可能性の話さ」

「うむう・・・しかし、それは種族と言えるのかのう? それなら人間で良いではないか」

「なんだ? ウチは一体何者なんじゃああ??」


 リョウマはショートカットの頭を、軽く泣きそうな表情で、力強く掻き毟りはじめました。アグニはリョウマの頭に手を置いて、優しく慰めます。


「して、リョウマの能力と特殊体質は?」


「ああ、続きを見るよ」


 特殊能力。


「アイテム先制使用」

「アイテム連続使用」

「アイテム効果2倍」

「おりょうの加護」

「盗む」 

「遠投」

「絶対逃走」

「跳弾」

「神速16連投」

「鍛冶心」

「手紙超速筆」


 特殊体質。


「天才的頭脳」

「天才的商才」

「ふとっぱら」

「口達者」

「取引超優位」

「ひらめき」

「機転」

「器量よし」

「慈悲」

「圧倒的人望」

「性的無知」

「幸運」



「リョウマちゃん、まだ沢山特殊能力があるみたいけど、今は見えないよ」

「見えない? 一体どういうことじゃ?」

「さあね。これから覚えるのか、それとも別の何か理由というか、きっかけみたいなものがあるのかもね」


「ふむ・・・特殊能力は生まれたときから持っているか、後天的に身につく物じゃからな。人によっては似たような能力を持つこともある。これから戦闘を繰り返す事によって目覚めていくかもしれんしな」


「ということは、まだリョウマちゃんは未知の素材って感じ? 特殊体質はどうなの?」


「先天的に持っている場合もあるが、やはり多くは、あるきっかけや遺伝、修行の結果などで後天的に身につくものじゃぞ。特殊能力は、一度身についたら何か特殊能力をかき消すような能力でもない限り、消える事はないが、特殊体質だけは年齢の経過や、ふとしたきっかけなどで、消えることがあるとされておるのじゃ」


「へえ、流石賢者だけあって、詳しいね」


「ほっほっほっ。任せておくがよい」


 ピエタはご満悦のご様子でした。


「それにしても特殊能力に、盗む、って、リョウマちゃん、元盗賊か何かなの?」


「う~ん、パパイヤンを作るまでは、初期の金策の為に、怪物相手に武器とかアイテムとか色々盗んでた事あったから、そのせいかもしれないな。それで、特殊体質は? 何かウチの知らない物、あるがか?」

「う~んと。。。」



「天才的頭脳、天才的商才、ふとっぱら、口達者、取引超優位、ひらめき、機転、器量よし、慈悲、圧倒的人望、性的無知、幸運。こっちもまだ何かあるみたいだけど、この能力のままじゃあ見れないな・・・」


「ほう、凄い特殊体質の数じゃな。」


「その特殊体質は、それぞれどんな効果があるがか?」


「ごめん。悪いけど、この能力じゃあ、詳細までは解らない。自分で思い浮かばない?」


「う~ん、自分でもよくわからなんな。天才的商才とかはまあ、ウチは商人だから、意外と嬉しいな」 

 

「全く、能天気だね」


「では勇者よ。悪いがついでに全員の本名はともかく、種族と特殊能力と特殊体質を見てやってくれるか? 皆の特徴を知っておけば戦略も立てやすくなるからのう」


「悪いね、ピエタちゃん。この能力、一日に3人しかみれないんだよ」


 勇者は少し無念そうに言いました。


「なんじゃと? どういうことじゃっ勇者よっ」


「何かね、僕のこの特殊能力精製は、超強力な能力を作ると、回数制限がかかっちゃうみたいなんだ」


「なるほどのう・・・確かに、人の能力や特殊体質が見える能力というのは、ある意味弱点まるわかりじゃからな。やむ終えぬであろう」


「その代わり、一回だけ、作れた能力は更に派生して強化させることが出来るんだ」


「なんじゃと?」


「このライブレーションだと、一日3人の回数制限が付く代わりに、本名と種族、特殊能力と特殊体質の詳細が分かるようにするか、それとも能力の詳細は分からないけど、人数制限なく本名、種族、特殊能力と特殊体質だけが見えるように強化させることができるみたい。頭脳役はピエタちゃんだから、どっちにしてほしいかは、ピエタちゃんの判断に任せるよ」


 それを聞いたピエタは口角を軽く上げ、即答します。


「ふむ・・・そんなこと、聞くまでもなかろう。人数制限がかかっても、詳細が見える方に強化した方が絶対いいわい。この能力を使えば、敵を丸裸に出来るからの。仲間に関しては、時間をかけて、後日全員チェックしていけばいいだけじゃしな」


「ふふ、僕もそう思ってたところだよ」


 勇者とピエタの意見が一致しました。


「ふふふ、して、今すぐ強化出来るのかえ?」


「いや、この特殊能力精製は、一日に一つだけ精製できて、更に一日一回精製か強化が出来るんだ。だから今日はもう新しい特殊能力作っちゃったから、強化も精製もできないよ。ごめんね」


「ふむ、さようか。まあ良い。では残り一回はトガレフ相手に使うとして、あと一人、誰か見れるのう」

「そうだね。誰を見たらいい? ピエタちゃん」


「そうじゃのう、ワシは、実は自分の特殊能力と特殊体質を全て把握しておらん。じゃから、とりあえずワシをみてくれぬか? この戦い、ワシの火力が必要になってくるからのう」


「了解」


 そして勇者はピエタに超越した把握ライブレーションを使用しました。


「本名、ピエタ・マリアッティ。種族、純潔。能力は、邪気術、魔法大連発、魔法二回同時使用・別使用可、完全記憶、神速読、魔法無詠唱完璧全力発動、詠唱速度神速だって。他にも幾つか覚えそうだけど・・・・ん?」


 勇者はピエタの特殊能力の最後に表記されている一つに疑問を覚えました、


「ほっほっほっ。流石ワシじゃのう。完全に魔法特化の能力ばかりじゃ。で、特殊体質は?」


「ああ、鋼鉄の体、攻撃魔法超耐性。物理攻撃9割無効加護、大賢者の資質、魔力自動中回復(成長可)、魔力吸収、超俊足移動、愛、清き志、強欲、温泉好き、プリン大好き、だって。」


「ほっほっほっ。やっぱりワシは強いのう。特殊体質はイマイチじゃが。どちらも完全に魔法と知恵を得るために特化しておるわけじゃな。いかにも大賢者のワシらしい能力と体質ばかりじゃ」


「・・・ん? ごめん。特殊能力に、まだもう一つあった。」


「何じゃと?」


「なんだこれ? ゴールデンプーって? プーって、糞って意味じゃない?」


「(ギクッ)いや、それは・・・、見るでないっ」



「まあ、糞ですって?」


 アグニが驚きの表情を浮かべます。


「しかもゴールデンですって?」


 意識を取り戻した漣も叫びます。


「なんか金の匂いがするぞ~」


 リョウマはニヤニヤし始めました。


「これ、特殊能力みたいだけど・・・ピエタちゃん、一体どんな能力なの? 何か知らない?」


「そっそれは・・・言えんわい。全く戦闘では使い物にならんからのう」


「なんでだよ~、言えないってことは、知ってるってことだね。せっかく見てあげたんだから、教えてくれたっていいだろう? ケチッじゃあもこの能力、強化しても誰にも使ってあげないからねっ」


「そっそれは困る。・・・わっわかった。わかったわい。やむをえん、教えることにするわい」


 勇者の脅迫により、ピエタはやむ終えず、ゴールデンプーという特殊能力の知ってる限りの詳細を話すことにしました。


「で、どんな能力なの?」

「おっおっほん。わっワシはのう、いつでも自分の意思で、自由自在に、花摘み、が、出来るっ!!」


ピエタ以外の一同が奇声を上げました。


「しかもそれはとぐろを巻いた黄金で、とてつもなく、臭いっ」


「なっなんだって~~~~」


「いっ一体、どれぐらい・・・臭いの?」


 勇者は恐る恐る尋ねます。


「その匂いを嗅ぐと、恐らく直径十キロ以内の種族や怪物、神など、嗅覚のある者全てに、激烈な悪臭を与え、嘔吐させ、早くて30秒、遅くとも5分以内には必ず失神させてしまうんじゃよ・・・。しかもその一度出した糞は、永遠に、消えんっそして一度失神したら最後、意識を取り戻しても、また臭いを嗅いで失神する。それを寿命が尽きるまで、永遠に繰り返すのじゃっ」


「なっなんだよその能力、ただ猛烈に臭いだけじゃない、大量殺人兵器じゃないか!!」


「だから使い物にならんと言ったじゃろうがっ馬鹿たれが~~~っ」


 ピエタが顔を真っ赤にしながら勇者に叱りつけます。


「これから戦うトガレフって奴を、そのゴールデンプーで失神させられるんじゃないがか? ただの人間の可能性も出てきたし、嗅覚もあると思うぞ~」


 リョウマはニヤニヤしながら言いました。


「馬鹿言わないでよリョウマちゃん!!! そんな物つかわれたら、僕達も直失神しちゃうだろうがっパーティーが壊滅するよっ」


「まあ、なんてお下劣な特殊能力なんですの」


 流石のアグニも呆れた様子でした。


「とても大賢者の覚える能力とは思えませんね・・・」


 グラウスも少しだけ精神的打撃を受けていました。


「やかましいぞ、お主ら! ワシはのう、禁断の地にある前世の湯に浸かった後に怪物に囲まれ、やむおえず、このゴールデンプーを使いまくって、凶悪な怪物達を失神させて逃げまくったんじゃ。使いようによっては、使える能力じゃわい!!」


「まぁっ」


 それを聞いたアグニが思わず口を押さえます。

 

「ってことは、その話が本当なら、今、禁断の地は、ピエタさんの糞まみれなのか・・・?」


 リッヒは眉をしかめ、腕組みしました。


「賢者様、禁断の地を汚すなんて・・・酷いです。あそこはマガゾの聖域なんですよ?」


 無垢なハインはピエタに訴えかけます。


「やかましいわい! この金色の糞はのう、黄金なんじゃぞ!! しかも、食べる事が、出来る!!! プリンみたいな味で、美味っペロッティも美味いと言っておった」


「ペロッティ君・・・キミ、うんち食べたの?」


 ルクレが薄気味悪い物を見るような眼差しをペロッティに向けます。


「はい・・・強力な鼻栓をして、一口、食べてみました」


 ペロッティは気恥ずかしそうな表情で、言い切ったのです。


「信じられないっペロッティは紳士だと思ってたのに!」


 漣が絶叫します。


「食糞なんて、最悪だぞっ」


 勇者も口を尖らせます。

 

「申し訳ありません、ピエタ様のご指示ですから」


「ふんっだから言いたくなかったんじゃっ恥を晒してしもうたわいっ」


 ピエタは頬を赤く染めながら、皆にそっぽを向けてしまいました。


「頼むから、僕達の近くで野糞とかしないでね、ピエタちゃん」

「するかっワシは排泄などせずとも問題無い体なのじゃっ自分の意思でのみ、任意で、いつでも排泄ができるんじゃぞっ」


「そんなこと、誇らなくていいよ~~」


「ルクレ殿、何か、その、ゴールデンプー対策のための特殊能力とか、あったりしますか? もしピエタ様が不意に催したときに、私達は困ってしまいます」


 グラウスはひときわ真面目な表情で勇者に尋ねます。


「これ! グラウス!! ワシがそんな事するわけないじゃろうがっ」


「万が一のときのためですっ」


「一応、そういう特殊能力、あるよ」


「ホントですか??」


「うん。神速完全嗅覚無効っていう特殊能力。」


「ルクレ殿。その臭いを遮断する特殊能力は、自分だけに使えるものなんですか?」


「いや、一度作った後に、やっぱり臭かったから強化して、今は仲間全員と効果範囲にある汚物にも使えるようにしてあるよ。効力は、僕が戦闘不能になるか、死ぬか、自分の意思で解除するまでさ。」


「それは凄いっピエタ様、トガレフ相手にゴールデンプーとやらを試してみてはいかがでしょう」


 グラウスはひときわ真面目な表情でピエタに自らの戦略を伝えます。


「試すかっグラウス!! お主は真面目な顔して何を言うとるんじゃっ!!!」


「もっ申し訳ございません・・・」


「トガレフは、正攻法で倒すぞいっ糞の臭いで失神させるなんて、流石に相手にも申し訳ないであろうっ」


「そっそれもそうですね」


「一応もし糞するときは言ってね。能力使うからさぁ。僕は絶対失神したくないんだ」


「私もで~す」


「するかっ!!!」



 皆の様子を遠巻きに眺めていた大人のライカールトとマテウスは、会話をしていました。


「なんか皆さん、凄いお下劣な話をしているわね・・・」

「ああ、まさか大賢者様にそんな能力があったとは・・・。大賢者様の、黄金の巻きぐそプリンか。。ぜひ一度食してみたいな」

「ライカールト?」

「失礼。もしかしたら強くなれるかもしれない、と思ったのでな」


 実は、このゴールデンプーを食べると、完全に運で、自らが習得可能な特殊能力か体質が一つ目覚める、という効果がありますが、それを勇者が知るのは、後日の話です。



「ふむう・・・やはり能力の詳細も分からないと、不便じゃのう」


「キールが能力の詳細も見えるように強化出来るって言ってるから、明日無事生き残れたら強化しておくよ」


「不吉なことを申すでない。これほどの人数がいるんじゃ、例え相手が何者であろうと、絶対ウチらが勝つはずじゃわい」

「誰も死なないといいんだけどね・・・」


「さてと・・・・これで見れるのはあと一人、トガレフだね」


 すると勇者は一同に徐に神特攻と精霊特攻の魔綬をかけることを伝えました。それに対し、リョウマが質問をします。


「なんで神特攻なんだ、ルクレ? 相手は人間かも知れんのじゃろ? なら人間特攻で良くないか?」


 それに対し、勇者はため息まじりに答えました。


「いいかい。人間特攻なんてもんはゴミさ。人間なんて特攻なんかつけなくても簡単に倒せる。トガレフは得体の知れない存在だ。この世界の種族は、皆神が作ったもの。多かれ少なかれ神属性を弱点に持ってる。それなら人間特攻より、汎用性の高い神特攻と、全ての魔綬の効果を急上昇させる精霊特攻をかけた方がずっといい。魔族特攻はかけない方がいいだろうね。あれは魔族専用みたいなものだから、そんな時間もないし。それにトガレフが悪霊を使役している、というのも気になるから、この二つを皆にかけるようにするよ。」



「ふむ、そか。じゃあ、まずウチにかけてくれ」

「はいはい」


 さっそくルクレティオは一同に魔綬をかけ始めました。例によってライカールとは重厚な鎧の上半身を脱ぎます。


「ルクレ殿!! 見てください!! この私の鍛え抜かれた筋肉をっ」

「はいはい・・・」


 無事に特殊能力精製をおえ、全員に魔綬をかけ終わり、勇者は安堵しました。



 そのときでした。ルクレティオから少し離れた位置にいたアグニの脳内に、電流が走ったのです。

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