第121話『無性の妖精キール』
「一体どうやってそんな得体の知れない技を使うのじゃ? 自分で能力を作るなど、聞いたこともないぞ??」
「この特殊能力精製は、完成された魔綬の力を組み合わせて使うことが許される、勇者だけの特別な能力だから、存在する全ての魔綬を完璧に使いこなせる、僕にしか使えないんだよ」
「かっ簡単に出来るのかえ?」
「まあ、・・・リスクあるけどね・・・」
「リスク? それは一体なんじゃ??」
「・・・能力精製に失敗すると、即、死亡する」
「なっ」
仲間達は驚愕しました。
「待て、勇者よっそのようなことはせんでよい。もしお主に何かあったら、ワシらは責任の取りようがないわいっ」
「そうよ、お願いルクレ、もうそんな無茶苦茶は止めて!! あなたに死なれたら、私は、私は・・・」
漣は必死に勇者の暴走を止めようとします。
「二人とも、心配しすぎだよ。僕は能力精製で失敗したことは一度も無いんだ。漣だって解ってるだろ? それに今は補助してくれる存在もいるしね」
「補助?」
「そろそろ皆にも紹介しておこうかな・・・おい、キール。出ておいでっ」
勇者がそう叫ぶと、彼の左腕の甲から、とても小さな、可愛らしい容姿の小さな妖精が現れました。長めの髪から女の子に見えますが、どうやら無性のようです。
「なんだよ、ルクレ。僕はキミの作った能力の管理で忙しいんだぞ。何か用かい?」
キールは極めて不快そうに勇者に食って掛かります。
初めて見る妖精の存在に、漣以外の仲間達は酷く驚いていました。
「あのさ、例えば、相手の本名とか、種族とか、特殊能力とか、特殊体質が全部把握できる能力って、作れる?」
「・・・う~ん・・・作れるねぇ。そんな能力は、まだオフェイシスの誰も持ってないからね」
一同は安堵しました。これで勇者は死ぬ事はないと。ですが、話はそれだけでは終わりませんでした。
「作れるけど、ちゃんと3分以内に使えるのかい? 使えなかったら、即死亡だよ? 僕とキミは一蓮托生なんだから、危ない橋は渡らないでくれよっルクレ?」
「なっなんじゃとっ」
ピエタは絶叫します。
勇者の特殊能力精製は、この世界にまだ誰も持っていない特殊能力か、条件を付け加えて独自に改良した能力を精製することが出来ます。その代わり、既に誰かが持っている能力、酷似した能力、数年後に誰かが習得する予約がされた特殊能力は精製できません。作れない能力を作ろうとすることもできますが、それをしようとした瞬間、勇者ルクレティオは死亡してしまうのです。
更に特殊能力を精製してから3分以内にその能力を自分自身で使用するか、誰かに試して成功させないと、やはり死んでしまいます。
まさに命を担保にする代わりに得られる、勇者だけの究極の特殊能力です。
また、死亡した人間や魔族を始めとする種族や怪物の全ての能力も、死ぬと特殊能力が存在しなくなる扱いになるため、他の者が先に新たに習得したり、遺伝や環境などに起因して特殊能力の予約が入る前ならば、奪取する事も可能です。
「ああ、もう・・・無理っ」
漣はあまりのショックに倒れこみそうになりましたが、傍に居たマテウスとライカールトがしっかりと支えます。
「漣殿、気をしっかり」
ライカールトが漣を抱き起こします。
「・・・泣きそう・・・」
「ねえ、君達、これから能力精製するけど、誰か実験体になってくれない? 作った能力は3分以内に使わないと、僕、死んじゃうからさ」
「ならウチを見ろっ何でも丸裸にしていいぞ!」
リョウマは勇ましく手を上げました。
「ありがとう、リョウマちゃん。これで能力精製は問題なく出来る。」
「それじゃあ、僕の出番は終わりだね。じゃあね、ルクレ、頼むから失敗しないでくれよ? 僕はまだ死ぬわけにはいかないんだからさ」
「解ってる。助かったよ、キール」
キールはそう言い残すと、勇者の左手の甲に戻っていきました。
「それじゃあ、行くよ。・・・全ての滅びゆく者達へ、我の新たなる能力で、死にゆく定めに酔い踊れ! 怨恨の
ルクレは地面に手を置き、とてつもなく神々しい、虹色に輝く閃光を周囲に放ちました。その余りの眩しさに、アグニ達は瞳を閉じつつ、顔を腕などで必死に隠しました。
「よし・・・これで、最初の条件達成。後、残り約3分。リョウマちゃん、早くこっちに来てくれ、時間がないっ」
「おっおう・・・ちと、まっちょれ、前がよう見えんがじゃ」
まだ目がまぶしいリョウマは、やや千鳥歩きで勇者の方に向かって行きました。
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