第91話『邪気術と死の商人』

 レジスタンスのアジトに戻ってきたリョウマは、マクスウェルのもとに向かおうとするピエタを呼び止め、ナカオカが入手してきたジャスタール産のポーションという薬を見せました。


「ピエタ様、ちょっとこれ見てくれろ」

「ん? なんじゃ? これは・・・薬?」


 ピエタはリョウマから受け取った薬の入った瓶を興味深げに眺め、そして顔を強張らせました。


「おいっリョウマ!! お主、こんな物を一体どこで手に入れたっ」

「ジャスタールだ」

「ジャスタールじゃと・・・」



 ピエタは瓶を握りつつ、全身を震わせていました。


「何でもその薬、体力とか魔力とか、傷の回復にも効くらしいんじゃけど、中毒性が凄い高いらしいんだ」


「当たり前じゃ。この薬からは、とてつもない邪気が感じおるわい」


「邪気?」


「うむ・・・賢者の国、ジャスタールには、古来より、邪気術、という、非常に残酷非道な呪文が存在していてのう。ワシが祖国で大賢者をしていた頃は、禁忌の術として研究、習得などは一切禁じていたんじゃが・・・」


「呪文? 魔法とは違うのか? 一体、それ、どんなものなんじゃ?」


「呪文というのは、滅びの記録の魔力が解放される前、人間達が日常的に使っていた術のことじゃ。他者を攻撃するような魔法という概念は、滅びの記録以降に生まれたのじゃよ」


「そういえば、そんな勉強をしたことがあったな。で、その邪気術ちゅーのも呪文の一種なのか?」


「うむ。ジャスタールには未だに呪文を使える者が多い。その中でも、邪気術とは、自分の体内にある魔力を、全て邪悪な妖気に変える。そして触れた人や物を疫病にしたり、猛毒化させたり、異形の姿に変異させたり、とにかくありとあらゆる災厄を引き起こす、まさに悪魔が使う術なのじゃ」


「・・・それって、メッチャ危険な香がするなぁ」


 流石のリョウマも少し動揺している様子でした。


「しかし、邪気術とはとても高度な技術。身につけるまでには最低でも100年はかかる。ワシは使用できるが、人道に反しすぎているため、この呪文は使わぬように封印しておるのじゃよ」


「でもピエタ様は使えるんじゃろう? そのポーションっていう薬に入っている邪気を取り除く事ぐらいならできるんじゃないがか?」


「いや、それは無理じゃ。仮に人間が一度邪気術におかされたら最後、清い心を持ち続け、自然に消えるのを待つしかない。仮に邪気をおびた刃などで人体に傷でも負った場合、どんなに傷が浅くても3ヶ月、最悪一生傷口から血が滴るようになる。恐らく、このポーションの中には邪気術で汚染された細菌が含まれておるはずじゃ。こんなものを産み出すとは、今のジャスタールの賢者どもは、一体何を考えておるのじゃっ!」


 温厚なピエタが、珍しく感情を露にします。


「そっか。とりあえず、これが危険な物、ちゅーことはよくわかったぜよ。ありがとな、ピエタ様」


「うむ・・・・」


 ピエタはリョウマにポーションを返しました。



「お主、間違ってもこの薬をカバンで増やして売ろう、などと考えるなよ? そんなことをしたら、お主は富は得られるが、死の商人になってしまうぞ」


 ピエタは瞳を鋭く光らせ、リョウマを凝視します。


「わかっちょる。そんなことはせんきに。幸いマガゾは医療が発展してるみたいだし、誰か薬に詳しい奴がいたら、このポーションの含有物を詳しく研究してもらうことにしようと思うちょるぜよ」


「うむ、それが賢明な判断であろう・・・全く、世界4大大国の一角、賢者の国が・・・嘆かわしいことじゃ」


 ピエタは少し気落ちしている様子でした。

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