第83話『会合衆会議』
リョウマは全力疾走で、パパイヤンの都市にある議事堂に向かっていました。そこでは都市の政を行う会合衆達が会議をしているようです。
彼女はミヨシに連れられ、ムツのいる巨大な議事堂の内部に足を踏み入れ、大会議室にやってきました。
そこは豪華な装飾の施された会議室で、市長代理でカジノ特区の副管理長をしているムツ、商業地区を管理しているトットーネ・ヒロフミ、富豪地区を管理しているセゴドン、生産地区を管理しているカツラ、武器を専門に扱う商人で、鍛冶特区を管轄しているガレリア王国出身のグラバー、住宅地区を管轄しているヴェランダが綺麗な長テーブルに適度な感覚で陳列されたに椅子にそれぞれ座って、リョウマが来るのを待っていました。テーブルにはお茶と幾つもの洋菓子の置かれたティーセットが置かれています。
「リョウマ、遅いぞ。」
ムツは渋い表情をしてリョウマを責めます。
「すまんすまん。それで相談って何だ?」
「話は直する。ミヨシ君、キミも座れ。とりあえずリョウマも上座の席に座ってくれ」
リョウマは言われた通り、カバンを降ろすと、一際豪華な上座の椅子に座りました。
「これで久しぶりに会合衆全員集合ですね」
トットーネは声を弾ませました。
「いや、ナカオカがおらん。あいつまだ帰ってきてないのか、ムツ」
「ついさっき、手紙が届いた。すでにパパイヤンに着いたらしい。間もなく来るさ」
ムツは神妙な面持ちでそう述べました。
「では私がナカオカ殿をお迎えに参りましょうか?」
ミヨシの提案を、ムツはあっさりと退けます。
「いや、陸援隊が囲んでいるから問題ないさ。あと三十分もすれば来るだろう」
「そか。それで、都市計画に関する相談事って何だ」
徐にリョウマが切り出すと、鍛冶特区管理者のグラバーが話し始めました。
「現在のパパイヤンの収益の七割はカジノ特区、残り三割は商業地区ですが、今後は益々商業地区の発展に力を入れたいと考えているのですよ」
「ふむ・・・・なるほどな」
「これまでは各地区に平等に収益を分配していたけれど、これから都市を発展させていく上で、どこか優先的に一つか二つの地区に投資をしていこうと考えているんだ」
ムツが神妙な面持ちで切り出しました。
「そか。確かにパパイヤンは富裕層が多いしな。ウチも商業地区はもっと利益を出さなきゃいけん、と考えていた。でもそのためには、鍛冶特区の発展が必須だ。あそこでもっと優秀な武器や防具を独自に生産して、パパイヤンでしか買えない装備を売れるようになれば、今よりもっと儲かると思うんだ。でもそれよりももっと大事な事がある」
「大事な事?」
「今回のペミスエとの一件で、ウチは思い知らされた。そろそろこのパパイヤンも、本格的に民達に安全を保障しないといけん、ってな。いくら珍しい物が売ってても、カジノがあっても、民の安全が保障されない場所のままにしとったら、そのうち必ずしわ寄せが来るち思う。医療分野の遅れも顕著だし。鍛冶特区は勿論だが、その前にもっと都市の土台を強固にするべきときだと思うちょるぜよ」
リョウマは、いつになく真剣な表情でそう言いました。
「そうだね、リョウマ。商業地区はトットーネさんが頑張ってくれてるし、これからの都市の急拡大に備えて、もう少し医療分野や治安維持も強化したいね」
ムツもリョウマに意見を述べました。
「うむ、そうだな。してカツラさん、ウチラの今の食料自給率はいくらだ?」
リョウマに声をかけられたのは、ガレリア北部田園地帯出身で、農業、畜産業等を生業にしている会合衆の一人の男性、カツラ・ガレリアでした。
「安心しろ、スセリ。今は120%だ。ガレリアやサラバナ、ラズルシャーチ相手に軍鶏がよく売れているよ」
「そか、よかった」
「食料自給率がどうかしたのか? リョウマ??」
「ムツ、もしこの先、世界で、人間同士で大きな争いが起ったり、魔族なんかの大群があらゆる国を攻め込んだとき、ウチらはどうなると思う?」
「う~ん・・・なんだかとてつもなくやばいことになりそうだねぇ」
「うん、危ない。もしそういう状況になったら、どこの国も自国の利益最優先で国を守ろうとする。そうなったとき、うちらは貿易が出来なくなって困る。そのときに一番困るのは、物価が急激に上がったり、最悪まともに食料を供給できなくなって、都市の民が飢えてしまうことだ。ウチらもパパイヤンを興すまでは食う物には苦労したろ? だからウチは、住人たちを飢えさせる事だけは絶対にさせたくないんだ。そのためには、生産地区にも、もっと投資して、食料自給率だけは100%を常時維持できるよう努めたいと思うちょるぜよ」
リョウマは、腕組みし、笑顔でムツにそう言いました。
「スセリの言う通りだよ、ムツ。私も食料自給率は充分に確保しておきたいと考えているところだ。」
カツラもリョウマの考えを後押ししました。
「そうだね、人間、飯食ってなんぼだからね。よし、じゃあ生産地区にも重点的に投資して、開発していこうか。でも、今、経済的に一番欲しいのは、優秀な魔道具、これだよ」
「魔道具か。確かに魔道具の売り上げはめっちゃいいもんな。でも鍛冶特区では未だに魔道具開発が全く進んでいないし、殆どはジャスタール産の魔道具をガレリアから買い付けて、売ってる感じだからな。できればパパイヤン独自の、優秀な魔道具を作れるようになればいんだけど」
「ああ、リョウマの言う通りさ。会合衆の考えは皆同じだ。でも魔道具に関しては、賢者の国ジャスタールでしか製作されてない。あたしも何度か親書を送ってみたが、全く交渉の余地なしだ。何とか魔道具技師の一人か二人でも鍛冶特区に来てもらって、良い魔道具を作ってくれるか、知識を教えてくれれば、あとはお前のカバンを使って増やしつつ、量産していけば、莫大な利益をえらるんだけどね・・・・」
「魔道具って、作るの滅茶苦茶難しいんだろ? 今の鍛冶特区に幾ら投資しても、素質のない者に金を出して研究させるのは無意味だと思うぞ?」
リョウマは腕組みしつつ、ムツに言葉を返します。
「ああ、そうだね。だから、ナカオカさんに頼んで、ジャスタールに直接行ってもらうことにしたんだよ」
「そか。それでナカオカいなかったんか。あいつ、どんな情報持って帰ってきてくれるのかな。今から楽しみだな」
リョウマは陽気に笑っていましたが、他の会合衆達の表情は少々暗いものでした。
「悪いがその成果は無しだったよ!!」
「む?」
突然、大声で叫びながら、美しい容姿をした女性が会議室に一人で乗り込んできました。
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