第77話 『元盗賊団の成り上がり』

時は前後して、リョウマはミヨシに先導され、パパイヤンの商業地区を陽気な面持ちで歩いていました。彼女には懸賞金がかけられていることもあり、都市内部での移動も基本的には一人では許されず、ミヨシかゼント、あるいは商兵団の熟練者数名が常に護衛をしています。


「それでスセリ様、どちらに行かれるのですか?」

「ムツに呼ばれとるきに、サイタニ屋に来いってさ」

「わかりました。では参りましょう」


 さっそくミヨシとリョウマは彼女の店であるサイタニ屋に足を運びました。そこでは店番をしているスタッフ達と、カウンターの奥には、イチャラブプリンスの新刊を熟読しているムツの姿がありました。


「おい、ムツっ来たぜよ! 絨毯の修繕はできたがか??」


 リョウマは一際大きな声で、読書に集中しているムツを呼びます。


「ああ、リョウマ。お帰り。絨毯ならもう数日で何とかなりそうだよ」


 読んでいた本を脇に置き、ムツはカウンターの前にやってきたリョウマに話しました。


「そか、まだか。不味いな。ペロッティがけっこう危ない状態みたいなんじゃ。回復専門術士の人が治療してくれて、何とか持ってるみたいじゃが、できるだけ急ぎたい」

「解ってる。職人達にも急がせてるよ。それより、リョウマ、今回の事件で結構やばい事になりそうだよ・・・」


 やや深刻な表情で、ムツはリョウマに話を切り出しました。


「やばい事? どんな事だ?」

「都市の治安問題だよ。今回の一件で、パパイヤンの治安を疑問視する人たちが現れ始めているんだ。幸い都市を離れるような人はまだいないけど、パパイヤンの信用がガタ落ちになったことは間違いないよ」

「そりゃまずいな。何とかしなくちゃいけんな」

「ああ。都市も順調に発展してきてるし、もうそろそろ、次の手を打とうと思ってるんだよ」

「次の手」

「更なる治安維持の強化さ」


 ムツはキリッとした眼差しをリョウマに向けました。


「ふむ・・・具体的には?」

「ガレリア王国の第三討伐委員会に頼んで、兵士達を常駐してもらおうかと考えてる」

「ガレリアか? それはいいな。ぜひそうしてくれ」

「それがそう上手くは事が運ばないんだよ。」

「どういうことぜよ?」

「国王に親書を送って交渉してみたんだけど、ガレリアは世界でもっとも魔族からの定期的な襲撃を受けている国だろ? だから城下町の復興で大工も沢山必要だし、兵士も数も足りなくなってるらしい。100人ぐらいなら何とか都合つけてくれるっていうんだけど、それじゃ、今後が不安だよ」

「100人か・・・ムツはどれぐらいの兵士達を希望してるんだ?」

「できればレベル2000以上の兵士1000名に、指揮をしてくれる人を一人だな。他にラズルシャーチから2、3名ほど強い戦士を雇ってくれば、当面は磐石、だな。」

「レベル2000以上の兵士を1000名に、指揮者1名。そしてラズルシャーチから兵士数名かぁ・・・ウチらはガレリアにとって重要な収入源になってきてるし、ウチとラズルシャーチのリシャナダ王とは懇意の仲じゃけど、流石に何の取引材料もない状態じゃ、お互い損になるだけだ。金さえ払えばリシャナダ王なら数名腕利き貸してくれるち思うけど、ガレリアに関しては、とてもそれだけの兵士は、シュンゴク公といえども派兵してはくれんだろうな・・・」


 ムツの発案に、リョウマも少し困り顔をしていました。


「なあ、リョウマ。もしこれからマガゾに行くときに、何かガレリアとの取引に使えそうなアイテムを見つけたら、カバンで増やしておいてくれよ。」

「アイテムといってもな・・・やっぱり何か強力な代物じゃないといかんじゃろ。難しいな・・・」

「そこを何とか! お前だけが頼りなんだよ」


  ムツはカウンター越しから両手を伸ばし、リョウマの衣服を掴みます。


「わかった。その件はウチが何とか考えておくきに。ムツは安心して政しててくれ。」

「ああ頼んだよ、リョウマ」

「それで、話ってのはそれで終わりか?」


 リョウマが尋ねると、ムツは苦悩に満ちた表情のまま、もう一つの新たな問題を語りだしました。


「いや、あのペミスエっていう魔族が築いた城の後始末もやっかいなのさ。解体するにも金がかかるし、そもそもそんな大工いないし。物騒だから放置するわけにもいかないし。どうしようか、会合衆達も困ってるんだよ」


 ムツの軽い泣き言にも近い発言に、リョウマは即応答しました。


「ならその城、ウチらで再利用したらいい」

「はあ? 再利用?? お前、一体何言ってるんだ? 魔族が作った城だぞ?? 何に使うつもりだよ??」

「城内に入ってみたが、大層綺麗でのう。観光資源として使えそうかな、って思ったんだ。だから大工達に内部を改造させて、城の周辺に回転木馬とか、巨大な観覧車とか、そういう遊具みたいなもんを沢山作って、住民達が遊べる有料の遊技場みたいにしたらいいんじゃないかと考えたんだ。入園料も取れば、小銭稼ぎにもなるしな」

「ばっばばばばばっ」


 リョウマの、そのあまりにもとっぴ過ぎる提案に、流石のムツも驚き、閉口してしまったのです。ですが・・・。


「・・・たっ確かに、それは、名案だと思うけどさ、そんな物を作れる大工、ウチらにはいないぞ? 出来たとしても、資金はともかくとして、時間がかかるだろう。あの城を見るたびに嫌な思いをする住民達だっているんだぞ」

「そこは大工達の腕次第だな。ところでポンカツ旅団の仕事ぶりはどうだ? まだカジノ直してるがか?」


 リョウマの何気ない言葉に、何かを思い出したように、ムツは絶叫しました。


「そうだ、ポンカツだ! ポンカツ達だ。」

「あん?」

「おい、リョウマっあいつら、凄いぜっもうカジノ特区の修繕を終えて、地下モンスター闘技場の建築に取り掛かり始めてる。それも凄い速くてな、もう土台が出来て、本格的な建築に入ってる。設計図渡したら、あっという間だよっ」

「それホントか? ムツ。手抜き工事じゃないがか??」


 リョウマも驚き、声を上げます。


「いや、一応あたしも専門家を連れて確認した。完璧な仕事振りだぜ、あいつら。かなり悪人面だし、近づくとちょっと臭うけど、大工としての腕は本当に超優秀みたいだぞ」


「そか・・・そこまでとは意外だな。ならモンスター格闘場は一端置いておいて、そのペミスエの作った城の改修と、周辺への遊具設置をポンカツ達に、給料弾むからと言って、ウチからの勅命ということで、早急にやってくれって頼んでくれないか? 格闘場も、コロシアムも、その後でいいきに」


「ああ、わかった。どれぐらいの月収を払えばいい?」


「う~ん、凄い優秀みたいだし、他所に引き抜かれると困るから、囲い込むために、5人にそれぞれ月収まず2億ジェルくれてやろうか。ついでに完成させたら賞与として全員に50億ぐらいやろうぜよ」


「5人全員に月2億に賞与50億だな? よしわかった。それなら全く問題ない額だ。じゃあ早速それで奴らに頼んでおくよ。」


「うん、頼むぞ。他に何か話はあるか?」


「いや、とりあえずここではないな。出来れば後日、ほんの1、2時間ほどでいいから会合衆の会議に顔を出してくれないか。今後の都市開発計画の事で話し合ってるところなんだ」


「ああ。じゃあ、隙をみて、また来るきに。会議が始まったら、手紙で知らせてくれ。ナカオカの帰りも待ち遠しいしな。ほな、ウチはマガゾに行って来るぜよ。後は頼んだぞ、ムツ」


「ああ、任せとけ。気をつけろよ、リョウマ。ダンジョンでお宝沢山見つけて来いよ、期待してるからなっ」

「おうっ」


 こうして、リョウマは信頼する友がいるサイタニ屋を後にしました。入り口で待っていたミヨシと合流し、二人はべヒーモスの肝について楽しく雑談をしながら、仲間達のいる軍鶏鍋屋本店へと戻っていったのでした。


 その後、ムツは急げとばかり月収の超高額上昇と賞与の話を、カジノ地下に大至急建築中のモンスター闘技場内で聞いたポンカツ旅団に伝えにいきました。


「そっそんなにいただけるんですか? ムツ市長代理っ」


 仕事中のポンカツは大層驚いていました。


「ああ、都市の最高責任者のリョウマからの勅命だよ。それとこれはあたしからのサービスで、富豪地区に大きな家も用意してやることにする。あんた達一蓮托生みたいだし、皆で住むといいだろう。ただし身なりはちゃんとしてくれよな。あんた達の働き次第なら、もっと給料くれてやってもいいぜ? ただし決定権はリョウマにあるけど。ま、とにかく頑張ってくれよ、ポンカツさん」



 ムツの好意を受け取ったポンカツは号泣し、何度もお礼をのべました。

 他の旅団員一同は、飛び上がって喜びました。


「やりましたね、団長っうちら富豪の仲間入りですよっ」

「おう、お前ら、リョウマ様の為にも全力でやるぜいっ」

「おーーーーっ」



「俺達ゃ陽気なポンカツ旅団、給料アップで大はしゃぎ~♪」

「俺達ゃ陽気なポンカツ旅団、遊戯を建築一儲け~♪」


 そしてポンカツ達は、陽気に歌を歌いながら、ペミスエの残した城の前面改修と、遊べる遊戯複数の設営という大仕事を始めることにしたのです。


「あの歌・・・一体いくつバリェ~ションがあるんだ・・・?」


 ムツは首を傾げつつも、建築途中の格闘場の、その完成度の高さを見て一人驚いたのでした。


「げげ、凄ぇっもうこんなに出来てる? あいつら、化け物か何かか??」


 後にポンカツ旅団が作ったその遊技場はパパイヤン遊技場となり、都市の民ならず、世界中から観光客がおしよせて来る超人気の娯楽施設となるのです。

 

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