第76話『それぞれの約束』

戦いが終わった翌日、漣とルクレは戦士ギルドのマスター室で会話をしていました。漣が勇者を呼び出したのです。


「ルクレ、ごめんなさい」


「突然どうしたんだい? 漣」


「だって、ルクレの言った通りになっちゃったんだもの。私は浅はかだったわ・・・いつも間違いばかり、起こしてる。あなたが呪いにかけられたのも、私のせいだし・・・」


「あんまり自分を責めないほうがいいよ。とりあえず、パパイヤンの危機は去ったんだしさ」


「そうね・・・でも、私達、これからどうしたらいいんだろう。このままパパイヤンにいたら、私達のせいで、また住民達が被害に遭うかも」


「しょうがないよ。もう僕達には安住の地は無い。ただひたすらに、追われる身の上さ」


「ルクレ・・・」


「漣、僕は、アグニちゃん達の旅についていこうと思ってるんだ」


「どうして?」


「一つの場所に定住するよりも、そっちの方が安全だし、アグニちゃんの事も気がかりだからね。」


「・・・そうね、確かに、アグニ達のこと、放ってはおけなくなってきた」


「キミは来なくていいよ。僕一人でいい。」


「駄目よ、あなたが行くなら、私も行く。幼い頃からずっと一緒だったじゃない。こんな世界で、離れ離れになるなんて、考えたくない。私を孤独にさせないでっ」


「・・・わかったよ、僕が守る。キミだけの、勇者になってあげよう」


「ふふ、私はお姫様じゃありませんよ~だ」


「そういうこと言う?」


「ふふふ」


 一方、夕刻。


 パパイヤンの街並みが一望できる時計台の頂上に、アグニとグラウスは、ジェラートを食べながら腰掛けていました。


「アグニ、強い攻撃魔法を使うときは、必ず詠唱するんだぞ。そうしないと、威力が安定しないんだ。」


「わかったわ、師匠。でも私、詠唱って、嫌いなのよね」


「まあお前の魔力は高いから、詠唱しなくても高火力を出せるだろうがな」


「うふふ、もう魔力なら師匠を超えちゃったかもね?」



「かもな。それと、魔法を使うときは、極力頭にイグナと付けるんだぞ。そうしないと、威力は上がるが、マナの消費も大きくなるし、人体にも多大なる負荷がかかる。不慣れな魔法を使ったら、最悪の場合、死に至ることもあるんだ。」


「心得てますわ」


 アグニはグラウスのお小言に適当に相槌をしています。


「・・・それにしても、全く、まさかこんなことになるとは、今回は散々だったな。ペロッティ殿が心配だ・・・」


 グラウスは、やや消沈した様子です。


「そうね・・・ペロッティの病気が本当に治るといいんだけど・・・」

「とにかく、今はゼントを信じるしかないだろう」

「ゼント様なら信じられるわ。だって素敵な殿方ですもの。子種が欲しいわ」


「ふっ・・・まったく、お前はそればかりだな。もうすぐ寿命が尽きるというのに、能天気な奴だ」


「だって悲観してたって仕方がないじゃない。それに私にはまだ希望があるもの。なんとしても日ノ本へ行って、タタラカガミを取り除く。それさえできれば、幸せな人生が待ってるんですのよ?」


「・・・そうだな」


「グラウス師匠も、同じでしょ?」


「・・・いや、悪いが、俺の人生には、希望はあまりないな」


「え? どうして?」


「お前の目的を果たした後、俺はきっと、再び放浪の旅さ。」


「そんな・・・師匠はブリジン王国を魔族達から取り戻したくないの?? 強くなるために、レベルアップする方法を探してるんじゃないの?」


 アグニの問いかけに、グラウスは陰鬱な表情で己の愚かさを語り恥じました。


「・・・今回の戦いで、自分の無力さをつくづく思い知らされた。所詮レベルを上げたところで、どうにもならないことがあるというのも熟知した。祖国を取り戻すなんて、一人ではとても出来そうにない」


「馬鹿言わないでっ私も行きますわっ」


「何?」


「日ノ本へ行って、タタラカガミを体内から取り除いたら、私がライカールトと、マテウスと、ファルガー、それに残りのモントーヤの兵達を従えるから、皆でブリジン王国を取り戻しにいきましょうよっ」


「アグニ・・・・でも、お前には、寿命が・・・」


「私は、自分の運命には負けたりしないわ。最後まで、希望は捨てないっ。人間は、とことん運命と戦うべきだと思っていますのよっ師匠も、自分の運命に負けないで、私と一緒に戦いましょう。だからこれからも、私を強く育てて下さいませね」


 アグニはグラウスに美しく微笑みかけました。そんな彼女を見た彼の心は、少しだけ揺れ動いたのです。


「・・・ああ、考えておくよ」


「約束よ」


 そして翌日。軍鶏鍋屋でペロッティの介抱をしていたピエタ達の元に、勇者と漣がやって来ました。


「二人とも、どうかしたかの?」


「あの、賢者様。その、私も、あなた達の旅に付いていっていいでしょうか? 魔族に狙われている私達が、パパイヤンに定住していたら、この都市がまた危ないと思うので・・・」


 漣が胸当てに手をあてながら、ピエタに申し出ました。


「僕もマガゾって国までは行くよ。ペロッティ君の介護もあるし、気晴らしに、楽しい旅行がしたいしね」


 ルクレティオは本心を偽り、旅行気分を装いました。


「うむ、うむ。構わぬぞ。仲間は多いほうがよいからのう。皆も良いか」


 ピエタはその場にいたアグニとグラウス、そしてゼントに視線を向けます。


「ふんっ魔族なんか仲間にしたくないけど、賢者様がそういうなら、仕方ないわね」


 アグニは露骨に不機嫌そうでしたが、グラウスはルクレと漣を大歓迎しました。


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