第75話『残された希望』

魔族との激しい戦が終わり、ピエタはペロッティの身を案じていました。


「おのれ、ザルエラめ。なんという酷いことを・・・」

「ピエタ様、ペロッティは私を庇ってこんな目に遭ったのです。」


 アグニは再び申し訳無さそうにピエタに言いました。


「そんなことは気に病むことではない。お主には罪は無い」


 その場にいたルクレティオはゼントを見つけ、かけよって行きます。


「キミは、あのときの恐喝野郎じゃないかっ」

「ふん、どうやら少しは気持ちを持ち直したようだな」

「ああ、まだ臆病だけどね。一応お礼を言っておくよ」

「どうでもいい。金のためだ」

「何だよお前っ人がお礼してやってるっていうのにさっ」

「うるさい、貴様はその辺で野糞でもしていろっへたれ勇者めっ」

「なっなんだとおおおおおっこっこいつぅ・・・なんて、なんて嫌な奴なんだぁっ」


 二人の事情を知らない他の仲間達はその諍いに一様に首を傾げたり、腕組みをしたりしています。


 そして一同がペロッティの身を案じる中、ゼントはポツリと、とあることを口走りました。


「治す方法が、無いわけじゃない」


 ゼントの言葉に、ピエタが食いつきます。それを聞いたリョウマは、少しだけ表情を曇らせました。


「どういうことじゃ、説明せいっゼント!!」


「金だ・・・」


「リョウマ!」

「わかったぜよっ」

 

 リョウマはゼントに金を握らせます。そして中身を改めると、ゼントはゆっくりと喋り始めました。


「俺の祖国、マガゾには、どんな病気や傷でも治せる聖女が1人いる。そいつなら、きっと地獄病も治せるだろう」

「マガゾじゃと?! ならん、あそこは死地じゃ。カラカタ病という致死率の非常に高い病気が蔓延しているそうではないか!」

「その問題なら、聖女とワクチンのおかげで既に収束に向かっている。マガゾは医療技術だけは発展しているからな」

「なんじゃと・・・むう。そうか、マガゾか・・ここからマガゾまでは馬車を飛ばしても三ヶ月はかかるのう。漣よ、ペロッティの寿命はわかるか?」

「・・・あと・・・二週間と、少しです・・・」


 漣は涙ぐみ、申し訳無さそうに小声で呟きました。


「ぐ。。。残念じゃが、とてもマガゾまでは間に合わん。ペロッティよ、済まぬ」


 諦めの境地に達していたピエタを救ったのは、リョウマの一言でした。


「それなら心配ないぜよ。マガゾまで、快適に行ける手段があるっ」

「どういうことじゃ?」

「とあるダンジョンで魔法の絨毯っていう魔道具を見つけたぜよ。見つけたときはボロボロだったんで今修繕中だが、直に使用できるようになる。それを使えば、マガゾまで、あっという間だ」

「なんと・・・そんな便利な物があるのか?」


「うむ。しかも丁度ウチラも丁度マガゾのダンジョン探索に行こうと思っていたところだ。ついでにお前達も来るといい。そうすればまた暫く一緒に冒険ができるぜよ」


 リョウマは首の後ろに両腕を置き、笑顔でピエタに語りかけました。


「よし、いいぞい。希望が見えてきたわい・・・マテウスよ、頼む。マガゾでその聖女に会うまででよい、ペロッティの介抱をしてくれぬか? ワシの大切な従者なのじゃっ」


 ピエタはマテウスに懇願しました。


「私は構いませんが・・・・どうしましょう、ライカールト、ファルガー?」

「モントーヤ公には、私が事情を説明する。」

「お嬢様を庇ってくれた英雄を死なせるわけには行かねぇっ付いていってやれよっ」

「ありがとう、二人とも」


 マテウスはライカールトとファルガーに謝辞を述べると、パーティに一時的に加わる事にしました。


「回復なら僕も超得意だよ。マテウスちゃんと交代で面倒をみるよ」


 勇者ルクレティオが笑顔でそう言いました。


「おお、そうだったのか。それは素晴らしい。さしずめ回復勇者様じゃな」


 ピエタはルクレの能力を賞賛しました。


「その呼び方、なんか嫌だ・・・」


 ルクレは少しむくれた調子で頬を掻きます。


「これで少しは希望が見えてきたぜよ。なんとしても、ペロッティを治してやらんとな」


 リョウマが皆と話していた丁度その時でした。


 生産地区の遥か遠方から、野太い悪人面の男達の、大きな歌声が聞こえてきたのです。



「俺たちゃ陽気な建築団♪ 新築、改築、お手の物~♪」

「俺たちゃ陽気な建築団♪ 建築生業 金稼ぐ~♪」



 そしてリョウマ様と叫ぶ、5人の男達の集団がやってきたのです。


「んあ? なんだぁ?」


「リョウマ様、お久しぶりです、ポンカツでございますう」


「おまんは、・・・確か、誰だ? おまんら、ちょっと臭いぞ?」


 自分たちのことをすっかり失念していたリョウマに、ポンカツ達は号泣し、子供のように地面に背中を這わせて全身を激しく動かし、泣き叫び始めました。



「あ・・・その大人げない、みっともない泣き方。おまんら、ひょっとして、あのアホのポンカツ旅団か?」


 リョウマの言葉を聞いたポンカツ達は瞬時に泣き止み、5人がかりで彼女の細身ですが肉付きのよい足や、くびれた腰元等に縋りつき始めました。


「あわわっ」


「そうです、アッシです。団長のポンカツでございますよ、リョウマ様っ」


「おまんら、ちょっと体にまとわり付くなっ気持ち悪いじゃろうがっそれでどうしてここにいるぜよ?」


 ポンカツはリョウマから体を離すと、低姿勢で話はじめました。他の団員達はまだリョウマの体にすがり付いていました。


「いえ、あっしらはあれから心を入れ替えてまして、盗賊家業を辞め、新しく建築団を始める事にしたんですよ、えへへ。あっしらはこれでも元超優秀な大工ですから、頼みがあれば、5人で何でもお作り致しますぜい」


「ほにほに、それはいい。丁度カジノ特区が少し破壊されてしまったぜよ。では早速おまんらに早速カジノの修繕作業と、カジノの地下のモンスター格闘場と、空き地に建設予定のコロシアムの建設をお願いしたいんだが・・・おまんら5人で、ホントにできるがか?」


「勿論でございますぜっこのポンカツ、リョウマ様の為に自慢の腕を全力で振るってご覧にいれます。今後のパパイヤンの都市開発は、全て我々にお任せ下さいねっあっでも賃金は下さいよ」

「それはわかっちょる。ムツに話は通しておくから、その辺は安心せい。じゃあせいぜい頑張ってくれよっ」

「ありがとうごっざいますっこのポンカツ、誠心誠意腕を振るいますっ」


 リョウマの体から離れたポンカツ達が、得意げにそれぞれ決めポーズを取っていたとき、彼らを見たライカールトが声をかけました。


「お前達、まさか、・・・ポンカツ達か?」


「そっその声は、ライカールト様ああああああ」


 ポンカツたちは、今度はライカールトに飛びつき、号泣し始めました。

 彼の姿を見たゼントは、あのときすれ違った連中と気がつき、警戒心を露にしました。


「(このゴミ共・・・なんでこんなところに? まさか、こいつら、レベルを非常に低くしてるだけで、俺達を殺りにきた死ぬほど強い魔族の刺客達ではないのか? それなら全て辻褄が合うぞ。低レベルで都市を徘徊し、俺たちの動向をザルエラに流していた密偵で、凄腕の暗殺者・・・クソ、皆体力が限界だっ最悪の場合、俺がまた剣を抜くしかないな・・・どう仕留める??)」


 ゼントは、雑魚のポンカツ旅団を魔族達の最後の切り札では無いのか? と考え始め、十束剣に手をかけたのです。


「お前達、突然夜逃げなんかして、一体これまでどこで何をやってたんだ?」

「けっ・・・・ケチな盗賊家業に身をやつして・・・・その・・・」


 盗賊、という言葉に、ゼントが敏感に反応し、一気に殺意をむき出しにしました。


 その圧倒的な怒気に気が付いたポンカツたちは、激しく怯え、泣き出し、そして全員失禁してしまったのでした・・・。


 盗賊嫌いのゼントは、剣ではなく木刀を抜き、魔族が送り込んだ暗殺者かもしれないポンカツ達を軽く痛めつけ、正体を暴いてやろうと考えていたのです。


「おいやめろ、ゼントっポンカツ達は元モントーヤ州の領主、モントーヤ公抱えの、優秀な建築技術者達ぜよ。こいつらを苛めたら、いかんぞっ」


 リョウマはポンカツ建築団とゼントの間に入り、怒気を漲らせるゼントを必死に説得しました。


「魔族の類かっ??」

「ただのクソ雑魚ぜよっ」


 それを聞いたゼントは安堵し、木刀を納めました。


「・・・ふん。優秀な建築家か。そうか・・・お前らみたいな低レベルのクソ雑魚を叩きのめすと、俺の名誉に傷が付きそうだな。リョウマに免じて、特別に見逃してやることにするぞっ」


「ほお~ん。おまんなんかに名誉なんてもんがあったのかぁ~?」


 リョウマは両腕を首の後ろに回しつつ、半笑いでゼントに痛烈な一言を浴びせました。


「何だとっ言ってくれたなっリョウマっ」


「うっひゃっひゃっ」


 ゼントは笑顔で逃げるリョウマを追い掛け回しました。


「リョウマ様~~ありがとうございますう~~~」


 ポンカツ旅団達は涙を流し、何度もゼントから逃げ続けるリョウマに頭を下げ続けます。


 これ以降、パパイヤンの開拓はポンカツ建築団が全面的に行う事になりました。彼らの建築技術の腕は超一流ですが、それでもまだ人員不足です。ポンカツはリョウマに食い扶持に困っている盗賊や、街のごろつきなどがいたら、ウチに仕事に来るようにと説得をお願いをしました。リョウマは快くそれを受け入れました。


 ポンカツ建築団という超有能な大工集団を得て、これからパパイヤンの大開発は本格的に進んでいくのです。


 こうして、魔族によるパパイヤンの襲撃はひと段落しました。


 戦いが無事に終わり、ふと漣は何気なくアグニの寿命を見て、そして驚きました。


「アグニ、あなた、寿命が2年に延びてるわよ!」


「え?」


「一体どういうことじゃ?」


 それを聞いたグラウスが、ピエタに耳打ちしました。


「ピエタ様、実はあなた様に耳に入れておきたい話があります」

「なんじゃ?」

「実はペミスエとの戦いでアグニが例によって凶悪化したのですが、その際にレベルが100倍に、魔力が、なんと1000倍に膨れ上がったのです」

「なんと、それは真か?」

「はい、しかも魂はタタラカガミと同化を始めていました。恐らく寿命が延びたのは、タタラカガミの力を酷使した為だと思われます」

「そうか・・・全く、次から次へと。冒険の旅に出てから驚きの連続じゃわい。じゃがアグニの寿命を伸ばせる可能性も見えたし、危険じゃが、これからあやつを積極的に凶悪化させてみるとするかのう・・・」

「人格変性呪文を解除する呪文もあるんですよね」


 グラウスの問いかけに、ピエタは沈黙しました。


「ピエタ様?」

「・・・ないっ」

「無い? なんで無いんですかっ」

「だってだって、そんなもんそもそも必要ないし、ワシは自分で魔法などは作れないのじゃっ」

「そんなぁ・・・」

「う~~む・・困ったのう・・・」


 ピエタは心底うんざりした様子でした。


「では、私が何とか解除する呪文を作ってみます」

「なんじゃと?? お主、自分で魔法が作れるのか??」

「はい。私には魔法精製という特殊能力がありますから・・・」

「お主、この大賢者のワシにも出来ん事を・・・ホントは滅茶苦茶強いんじゃないのか?」

「いえ、レベル70の、ただの雑魚魔法使いですよ」


 グラウスは自らを卑下しつつ、ピエタに視線を送りました。


「うむ・・で、どれぐらいかかる?」

「そうですね・・・マガゾでは流石に何も起こらないでしょうから、聖女様にペロッティ殿を治していただいて。その後ラズルシャーチへの道中等で、2ヶ月ぐらいあれば、何とか試作魔法なら精製できると思います」

「2ヶ月か・・・うむ。確かに今のマガゾは安全のようじゃし、流石に何も起こらぬであろう。2ヶ月と言わず、極力早く精製してくれぬか」

「全力で挑んでみます」

「完成したら、ワシにも教えてほしいぞい」

「勿論です」



 ピエタとグラウスが秘密の会話をする中、アグニはひたすら上機嫌になっていました。


「やった。これでもう少し生きられるのね! さあ、早くマガゾへ行って、聖女様に会ってペロッティを治していただきましょう!」

   

 アグニの溌剌とした言葉に、ゼント以外の一同は頷き、声を上げました。


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