第74話『運命の分岐点』
ピエタ達が残り少ない魔族の残党と交戦している頃、ライカールト達モントーヤトリデンテは鬼の形相で道を塞ぐごく一部の死んでいない斥候達を切り伏せながら、ザルエラの元に向かっていました。生き残った魔族達の中には、棄甲曳兵する者達もおりました。
しかしライカールトは鬼神が如き武で持って、自らに向かってくる残りの勇敢な魔族達を斧の一撃で切り伏せ、突き進んでいきます。
「おいライカールト、一人で突っ走るなよっ少しは俺達にも戦わせろ」
ライカールトの後ろを走りつつ、ファルガーは叫びます。
丁度その頃、まだ周囲の状況を知らないザルエラは、漣に求婚していました。
「お前が私の新しい妻になってくれるなら、こいつらの命は保障しよう。どうだ? 悪い話じゃないだろう? 漣?」
「ふざけないで! 誰があなたなんかの妻になるものかっ」
漣は唾を吐き、ザルエラの頬に吹付けました。
ザルエラは丁寧な所作でそれを拭い、そして笑い始めつつ、言いました。
「そういう勝気なところが、実に艶かしいな・・・必ず調教し、私の子を孕ませてやるぞ」
その時でした。
彼の元に生き残った傷だらけの一人の魔族の兵隊が、異変を知らせに来たのです。
「ザルエラ様・・・、たっ大変です」
「どうした?」
「ライカールトが、・・・ライカールトが現れました!!」
「なっなんだと? 一体どういうことだ!?」
ザルエラが驚きを隠せないといった表情の中、瞳には、突撃してくるファルガーとマテウスが入り込んできました。
「ファルガーッ、しかもマテウスまでっ馬鹿なっ何という事だっくっそたれめーーーーっ」
ザルエラは早速返り討ちにするために魔法を詠唱し始めましたが、その魔法は発動しませんでした。
「馬鹿なっ」
「へへん。こんな状態でも、どうやら僕の能力は使えるようだね」
ルクレティオは不敵に笑います。
「ルクレティオ~~!」
ザルエラは恨めしそうにルクレを睨み付けました。
ちょうどその隙をついて、いち早く到着したファルガーが、ザルエラの腹部に強烈な一撃を見舞いました。
「てめぇとは口聞かねぇ、とりあえっず、くたばれよっザルエラァッ!」
「ぐふぁっ」
更にわずかに遅れてやってきたマテウスが、十字架に捕らわれた仲間達の腕を拘束しているロープを短刀で切って助けて回ります。
「ありがとうございます、マテウス殿」
グラウスは手首を押さえつつ、救世主に礼を述べました。
「お礼はこの局面を打開してからにして、グラウスさん」
そう言うと、マテウスは振り返り様にザルエラ目掛けてイグナ・フラーレを軽く撃ち込みました。詠唱していなかったため、威力は不安定です。
ですがその強烈な魔法はザルエラの背中を直撃し、多大な打撃を与え、彼をもがかせ、苦しめます。
「くっおのれ、マテウスウウウウウッ!」
しかしいつのまにか、肝心のライカールトの姿が見えません。
彼はザルエラの遥か上空に陣取り、そして鳥が海を泳ぐ魚を取るように素早く滑空していました。
「クタバレ、ザルエラ! 遥かなる天空からの一撃、蒼穹破斬!!」
ライカールトは自慢の大斧を滑空の勢いも乗せてザルエラに放ちましたが、とっさに彼が出した大剣でその攻撃は防がれました。
しかし、魔族特攻の乗った蒼穹破斬の威力は凄まじく、その大剣をへし折ると、ザルエラの右肩から左腹部にかけて絶大なる裂傷を与えました。
あまりの激痛に、流石のザルエラも悲鳴を上げます。
「アグニ様!! ご無事ですかーーー?!」
「私は無事よ、ライカールト!!」
「ぐう・・・おのれ・・・おのれ・・・・」
モントーヤトリデンテと拘束を解かれた仲間達全員に囲まれ、ザルエラは一気に窮地に追いやられました。
「くっそ! 覚えていろ、糞共!! この借りは必ず返してやるからな!」
そう捨て台詞を吐いて、ザルエラは異次元のゲートを開くと、唐突に全員の前から姿を消しました。
「畜生っザルエラの奴、逃げやがったぜっ」
ファルガーはやや興奮した様子で言いました。
そしてほどなく、魔族の残党を狩り終えたピエタ達三人が仲間達と合流しました。
「リョウマ、俺の金品は無事か!?」
ゼントはリョウマの命よりも先に自分のアイテムや素材の心配をしていました。彼女が無事であると確信していたためです。
「少しはウチの心配をしてほしいぜよ・・・全部無事だぁっ」
「そうか、どこか怪我はないか?」
「順番が滅茶苦茶ぜよ・・・」
ゼントはリョウマに駆け寄り、ゆっくり抱き起こすと、近くにおいてあったカバンを彼女に渡しました。
「ふう・・・どうやら無事に切り抜ける事が出来たようじゃのう」
ピエタは安堵の吐息を漏らしました。
「また今度いつ奴らが攻めて来るかわかりません。暫くは警戒態勢を維持します」
ミヨシはピエタにそう告げます。
「うむ、それがよいじゃろう」
こうして大戦は見事ピエタ達の勝利に終わりました。
そしてファルガーはゼントに近づいていきました。
「ゼント、いや、ゼントの旦那。あんた滅茶苦茶強いんだな、尊敬するぜ。さっきは酷い事を言ってすまなかったな」
「気にするな、もう慣れてる。それより、ザルエラは仕留めたか?」
「すみません、あの野郎・・・逃げ足だけが速くって・・・」
「そうか・・・まあいい。今度会ったら、そのときは、俺が一瞬で、確実に仕留めてやる」
「お願いします、ゼントの旦那」
ファルガーは自分より強いと感じた者をとても尊敬する傾向がありました。
「ゼント殿。もしよかったら、今度私と手合わせをしてくれないか? お互いの修練になるだろう」
向上心旺盛で戦闘好きなライカールトが、ゼントに一対一の戦いをもちかけました。
「ふん・・・・悪いがお断りだ。」
こうして、パパイヤン襲撃事件は無事解決しました。
しかし、ピエタは地獄病に苦しむペロッティを見つけ、大いに悲しみました。
「ペロッティ、どうした、しっかりせい!」
「地獄病とかいう病気にかけられてしまったんです。私を庇って・・・」
アグニはバツが悪そうにそう言いました。
「地獄病じゃと! 不味いっこれではペロッティが死んでしまうわいっ」
「治す方法は無いんですか?」
「そんなものは無い。地獄病は魔族が体内に持つ特殊な殺人ウィルスじゃ。治療方法は、ないっ骨鬼族の粉末でもあれば急場しのぎにはなるだろうが、高価すぎてワシらには手が出せん」
骨鬼族。その種族の名を聞いたリョウマは、昔の事を思い出し、少し顔を曇らせます。そしてサイドバックから骨鬼族のあばら骨を取り出そうと決めたのですが、その苦悩するリョウマの様子を見ていたゼントが、とある決断をしました。
「そんな・・・・」
ピエタの言葉を聞き、アグニ達一同は深い悲しみを受けます。
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