第72話『狂気の理屈』
ザルエラは多数の部下を従えて、捕らえたアグニ達を眺めていました。
そして暫くして、ザルエラが口を開きます。
「よくも私の愛しい妻を殺してくれたな。お前達だけは絶対に許さない。と言いたいところだが、ペミスエは私の命令に背き、罪の無い人間を殺したらしいな。こうなったのもやむ終えぬのかもしれない。しかし、魔族を殺した人間は殺す。それが魔族の掟だ。掟は忠実に守らないといけないよな、ルクレティオ?」
「うるさい! 黙れ、ザルエラッ」
透明なケースの中に閉じ込められていたルクレティオは内心恐怖に怯えながらも、懸命に気力を振り絞り、気丈に振舞いました。
「言っておくがこれは只の殺戮ではない。この私に与えられた正当なる権利だ。我ら魔族には一切の罪は無いが、貴様ら人間達は、存在そのものが罪である。我らの崇高なる理想の邪魔をする者は一人残らず皆殺しにする。いつの日かマナを使う人間共を駆逐することで、この世界は美しく生まれ変わるのだっ」
「ふざけたこと抜かすな、ザルエラ! お前のやろうとしてる事は、滅茶苦茶だ!!」
ルクレティオは、閉じ込められた透明な空間の中からザルエラに猛烈に抗議します。
「残念だよ、残念だ、ルクレティオ。ペロッティは話の解りそうな好い奴だった。できればあんな目に遭わせたくなかった。だが彼の頼みとあれば致し方ない。これは正当なる争いの結果だ。ペロッティに敬意を表して、今回はお前達が我々に対して行った愚行を半殺しで許してやろう。そして、ルクレティオと漣以外、もう二度と私の前に現れるな。二度とだ。わかったな? 返事は?」
「・・・お前を、必ず、ぶちのめしてやるっ」
ルクレティオは閉じ込められた透明なケースの中で、必死に強がって見せました。
「ははは、死の呪いに怯えている臆病者が、どうやって? なあルクレティオ、お前の正義は間違っている。以前も、今も。理はこの世界のマナを調律するために私が生み出した神なる存在だった。作り物ゆえの荒さもあるが、守らなければならない尊い存在だったのだ。それをお前達馬鹿な一味は、身勝手な理屈を振りかざして理を殺してまわり、世界の力関係を変えてしまった。その結果、世界はどうなった? お前の望んだ世界になったのか? なってないだろう? 全ては無知な女神にそそのかされたお前の至らなさが招いた悲劇だ。もっと賢くなれ、ルクレティオ。そしてもう二度と、魔族に歯向かおうなどど考えるな。今度向かってきたとしたら、そのときこそ、必ずお前から殺すぞ、ルクレティオ。わかったら、大人しく我らの同士となり、魔人衆に入れっ」
「・・・地獄へ落ちろっクソッタレッ」
ルクレティオは必死に威勢を張りました。
「ふう・・・幼稚だな。お前も、その仲間達も幼稚だったよ。高尚な頭脳と理性を持つこの私達との相性は最高に悪い。せっかくこの私が穏やかに、穏便に、和平の道を作ろうとしてやっているのに、お前はかつての仲間達の死を無意味にするつもりか? だとしたらお前は大馬鹿だ。今のこの世界の主導権、正義は、我ら魔族にあるのだぞ?」
ザルエラはルクレティオを嘲笑します。
リョウマはルクレとザルエラとの会話を聞き、内心怒りに燃えていましたが、不測の事態が起こっては困ると考え、完全黙秘をすることにしました。
「おい、そこの・・・子供か? 年は幾つだ? ん? 魔族のオジサンに話してみなさい?」
ザルエラはリョウマに目を付け、優しい声色で話しかけてきました。しかしリョウマは無表情で黙秘し、ザルエラからそっぽを向きます。
「・・・なるほど。純粋魔族とは口も聞きたくないというわけか。ふん、ロリータめ。ハンバーグでも食ってろっ」
ザルエラは不敵な笑みを浮かべ、捕らえた一人一人の顔を見ていき、ご満悦状態でした。
「・・・ちょっと、このクソ魔族っさっきから何言ってるのよっ。何が人間には罪があるよっ自分勝手な正義を振りかざして、あだなす者は弾圧してまわる。それのどこが正義なの? この私から言わせれば、罪があるのは、はあなた達の方だわ。」
「やめろ、アグニ。口答えするなっ」
グラウスが必死にアグニを制止します。しかし彼女は言う事を聞きません。
「(この・・・・二人揃ってベコノカワ~~っ下手な事言うなって~~)」
リョウマはハラハラしながらアグニの方に視線を向けました。
「ふーーーっ、全くお前達は救いようが無い。だが今日はペロッティの勇気に免じて許してやることにしよう。こう見えてもこの私は寛大だ。感謝しろよ」
「何が寛大よっなんの罪も魔法も使えないガレリアの民たちを沢山殺したくせにっふざけないでっ」
「何?」
「アグニ、よせっ」
「アグニ・・・そうか、アグニというのか? お前は」
「しまった・・・」
「(こんの、グラウスのベコノカワ~~っ余計な事は喋ったらいかんぜよ~~・・・)」
ザルエラが、十字架に貼り付けにされたアグニの眼前に迫ってきます。
「ええそうよ。あなたみたいな薄汚い魔族とは違って、ガレリア王国はモントーヤ州の領主、モントーヤ・シャマナの娘よ。高貴な身分の由緒正しい貴族令嬢なんだからっ」
「(ああ・・アグニの奴、こんなヤバイ奴に素性を明かすなんて~~・・・もういけんっ頼む、ゼント。大ピンチだっウチはまだ無傷じゃき、何とかしてくれろ~~)」
事態がややこしくなった事を察知したリョウマは、ゼントに助けに来てくれるよう、そして、パパイヤン到着直前に聞いた新技を使ってくれるよう、心の中で強く願い始めました。
「お前、私達魔族を差別するつもりか?」
「あなた達みたいな悪漢、貶められて当然じゃないっいつもそうよっ自分勝手な正義を振りかざして、真の世界平和を吹聴してっ。何がマナの管理よっ単に自分達が世界の主導権を握りたいだけじゃないっ考えが根本的に薄っぺらいのよ、このクサレ外道共っ」
アグニは、魔族に対して絶対に言ってはいけない事を大仰に騒ぎ立てました。それがザルエラの怒りに火をつける結果になることは明白でした。
「お前、魔族嫌いか・・・カチンときたぞ。」
「わかったら早く自殺なさいっこのボケっ」
「ふ・・・ふふふ、はっはっはっ。この状況に置かれて尚ここまで強気に振舞えるとは。アグニとやら・・・どれだけ強いのかと思ったら、そんな低レベルの分際で、よくも言ってくれたな。今すぐ貴様を殺してやりたいが、只殺すのはつまらん。お前の大切な人達を全員奪った後で、最後にお前を絶望の内に落として、その上でぶち殺してやることにするぞっ」
「やれるもんならやってみなさい、でくの坊っ」
「それにしてもお前、とても高貴で、美しい容姿をしているな。発育もいい。この私が孕ませてやろうか? ん?」
「魔族の子種なんかっお断りよっ」
それを聞いたザルエラは高らかな笑い声を上げると、部下にペロッティを連れてくるように指示を出しました。
魔族たちに引きづられてやってきたペロッティは、人間姿で顔面蒼白、頬はこけ、悲鳴にも近い大きめの呻き声をあげ続けていました。
「ぺっペロッティ・・・」
ペロッティの、そのあまりの悲惨な末路に、アグニは衝撃を受けました。
「まさか、あれは・・・」
ペロッティの異変を見たグラウスの全身に悪寒が走りました。
「こいつの体内に、地獄病のウィルスを与えてやった。病気そのもので直死ぬ事は無いが、死ぬよりも苦しい痛みを受け続ける事になる。体力が尽きて事切れるまでなっ」
ペロッティにかけられた病、地獄病は、魔族のザルエラだけが持つ特殊な病原菌です。治す方法は存在せず、正にペロッティは体力を消耗し、死ぬまで境を彷徨うことになってしまったのです。
「なっなんてことを・・・・」
漣は悔しそうに唇を強く噛みました。
「ペロッティじゃないのよっ」
「何?」
アグニは瞳からうっすらと涙を流しつつ、そして
「ペミスエに止めを刺したのは、私。だから、ペロッティの病気を治してっ私を地獄病にしなさいよぉっ」
「何? お前が・・・・殺ったのか。ペミスエは・・・あいつは・・・やっと子供を身ごもれたかもしれぬというのに・・・お前が殺したか、アグニっ」
「こっ子供・・・?」
「(身篭っただと? まさか、魔族同士で、おしべをめしべに突っ込んで、受粉させたがか?? おぞましい・・・)」
天才的な頭脳と商才を持ちながら、性知識の全く無い、性的無知という残念な特殊体質を持っているリョウマは、いつものように幼稚な思考をし、一人声を出さずに身震いしていました。
「くっそっ自分の非力さが情けなくなってくるな・・・」
グラウスは己の無力さを呪いました。
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