第69話『狂気の報酬』
ザルエラは地面に降り立つと、動揺する一同を無視してペミスエの介抱にあたりました。
「大丈夫か、ペミスエ?」
「う・・・あなた・・・スクナが・・・殺されてた。こいつらを、ぶちのめして・・・私の・・・代わりに・・・」
「なっ・・・なんだと??」
「ごめんなさい、私、我慢できなくて・・・しくじっちゃった。でも捕らえたわよ・・・それに、新しい命を授かったかも」
「ぺっペミスエッ」
「お願いあなた、あの子を・・・守って。愛してた、わ・・・」
「ペミスエ、しっかりしろ、ペミスエッ」
そう言い残し、ペミスエは息を引き取りました。
ペミスエの死と同時に、ルクレ達を閉じ込めていた透明な壁は消え去りました。
ザルエラは絶命したペミスエの亡骸を抱きよせました。
彼の意外な行動に、魔族嫌いのアグニの心が微かに揺らぎます。
「どういうこと?? 魔族が同族の死を悼むなんて・・・」
アグニが呟くのと同時に、ザルエラは言葉を発しました。
「ペミスエに止めを刺したのは、誰だ!!」
その顔は狂気を多分に孕んでおり、一同を怯えさせるには充分な程の威圧感でした。
「わ・・」
「私です」
アグニよりも早く、ペロッティが前に出てそう言いました。
「ペロッティ?! 何を言うの?」
「アグニ様、皆さんはお逃げ下さい。ここは、私一人で食い止めます!!」
ザルエラはゆっくりと立ち上がると、特殊能力を使って、ペロッティの立っている地面に穴を開けました。
そしてペロッティはあっさりと穴の中へ落下していってしまったのです。
「ペロッティー!!!」
「貴様らは別の場所だ!」
アグニ達の立っている地面にも穴が開き、彼女達は吸い込まれるようにあっさり落ちていってしまいました。
一方その頃、増援部隊を押しのけたピエタ達は、軍鶏鍋屋本店の来賓室でしばしの休息を取っていました。
そこには修行を終え、やや疲れていた様子のゼントの姿もありました。
「本当にアグニお嬢様の元へ行かなくてもよいのですか? 賢者様」
ライカールトはピエタに迫ります。
「行かんでも良い。あの程度の魔族を自分たちだけで倒せぬようでは、これから先の道中が厳しくなるだけじゃ。それにワシは彼らの地力を信じておるわい。それに今は防衛のためにも、次に来るやも知れぬ増援に備えなければならぬ」
「しかし・・・心配です」
ピエタとライカールトが話をしていた正にその時、ミヨシが大慌てといった調子で軍鶏鍋屋に駆け込んできました。
「ピエタ様、ご報告します。上位魔族の大群、約3000名がこのパパイヤン方面に接近しております」
「なんじゃと?! 3000じゃと!!?」
「平均レベルは20000前後、前回とは格が違う連中ばかりのようです。到着までの予想時間は一時間ほど、いかが致しますか?」
「無論、応戦するしかなかろうっ」
ピエタが言ったその時でした。
突然店の外が騒がしくなったのです。
「何やら外が騒々しいですね。何かあったんでしょうか?」
マテウスが立ち上がり、窓から外の様子を眺めようとしていました。
「ふむ、ちょっと様子を見てくるか?」
ピエタとライカールトは立ち上がり、来賓室を後にし、店の外に出ました。
すると都市の空中には、魔力で作りだされた特殊な巨大スクリーンが現れており、十字架に縛り付けられているアグニ達の姿が映っていました。
ルクレティオだけは特殊な結界が貼られた透明なケースの中に閉じ込められていました。
そこにはザルエラの姿もあったのです。
「あれは・・・アグニお嬢様、そして、ザッザルエラ!?」
「ザルエラ? もしやあの魔族のザルエラか?」
「いかにも。魔族の長、魔人ザンスカールの右腕、魔人衆の現最高幹部です。とてつもない戦闘能力とやっかいな特殊能力を持った、凶悪な魔族ですっ私もラズルシャーチで近衛総隊長をしていた頃、一度だけ戦ったことがあります。」
「何故その時仕留めておかなかったのじゃ?」
「恥ずかしながら、その戦闘中に意識を失ってしまいまして・・・・気がついたら、ザルエラ達はもうそこにはいなかったんです」
ライカールトは少し残念そうな表情でピエタに言葉を返しました。
「お主としたことが・・・・失態じゃのう」
「はい。このライカールト、一生の不覚です」
少し遅れて店を出てきたゼントもスクリーンに映ったリョウマの姿を視認しました。
「あのチビ、魔族に捕まったのか・・・まずいな」
スクリーン内のザルエラはこう言いました。
「今からここに映っている連中を順番に嬲っていく。愉快なショータイムだ。そして天に召された愛しの妻の弔い合戦だ!! お前達は私を本気で怒らせた!! この恨みは必ず晴らさせてもらうぞ!!」
ザルエラは完全な憤怒状態にありました。
「ペロッティが・・・ペロッティがおらん。あやつはどこじゃ?」
スクリーンに一通り映っている仲間達の中に、ペロッティの姿はありませんでした。
「そうですか・・・確かペミスエという魔族はザルエラの妻だったはずです。アグニお嬢様達はペミスエを見事倒したのですね。そして報復にザルエラが現れたと・・・」
猛る一同の中で、外に出てきたマテウスは、冷静に淡々と現状の分析をしていました。
「どうやら救出に行く必要がありそうですね。商兵団に戦士ギルドの面々も緊急招集手配致します。直戻ります」
そう言って、ミヨシはパパイヤンの行政機関へと早足で向かっていきました。
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