第68話『極大虐殺神魔法、終焉の歌曲《スプラッタ・デス・ミュージカル》』

「さあてと、どいつから殺してあげようかしらね・・・」


 凶悪な魔族の本性を露にしたペミスエは、残った三人を値踏みしています。


「まああの二人は殺したら怒られるから・・・まずは、そこの娘、あなたにするわ」


 ペミスエは遥か遠方にいるアグニを指差しました。


「ゆっくり死ぬ? じわじわ死ぬ? それとも、なぶられて死ぬ? 選ばせてあげるわ、私、優しいから」 


 ゆっくりとアグニに近づいていくペミスエに、漣は果敢に飛び掛っていきました。


「残歌、第一楽章・死滅の舞い《グローリアスロンド》!!」


 漣は踊るような華麗なる剣技でペミスエの全身を二刀流の大鉈で斬撃を与えていきました。

 

 しかし、自分のレベルも、相手のレベルもわからない漣は、力加減が解らず、ペミスエの体に斬撃を上手く与える事が出来ず、逆に尻尾で弾き飛ばされてしまいました。

 

 漣はそれでも直に立ち上がり、今度は完全なる模倣イミタゼーションを使用し、ペロッティの聖櫃砕き《ポゥ・トゥーレ》をペミスエに放ちました。


「ぐっ」


 漣の一撃は会心の痛撃となり、ペミスエのレベルを大幅に下げる事が出来ました。


「一度しか見てないから、一回しか使えないけど、これで五分の勝負が出来るようになったんじゃないかしら? よくわからないけどっ」


「小ざかしいのよ、漣!!」


 ペミスエは魔法弾を漣目掛けて撃ち込もうとしましたが、魔法はルクレティオに既に封印されていました。


「だからキミに魔法なんか使わせないって言ってるだろ?」


 勇者は多少怒りを含んだ邪悪な笑みを浮かべています。


「この・・・忌々しい勇者めっ」


 そのときでした。突然アグニが天を見上げ、咆哮したのです。


 その咆哮は城の城外にまで響き渡るほどに大きな物でした。


「なっ何なの?」


 漣は驚き、後方のアグニの方を向きました。


「まさか、アグニの奴、よりによってこんな時に凶悪化したのか??」


 壁に捕まっているグラウスはアグニのレベルを確認しました。

 すると、なんと彼女のレベルは100倍、そして魔力は、なんと1000倍に膨れ上がっていたのです。


「れ・・・レベルが100倍に膨れ上がっている!? しかも魔力が・・・桁違いに・・・どういうことだ??」


 グラウスは更にアグニの魂を凝視しました。

 すると、なんと、彼女の魂とタタラカガミの魂が同化を始めていたのです。


「こっこれは・・・」


「ペ~~ミ~~ス~~~エ~~」


 アグニの全身を、どす黒い怨恨の篭った黒い魔力が包み込んでいます。


「この娘、突然レベルが上がった??」

 

 アグニの変異はレベルの急上昇だけではありませんでした。その魔力も1000倍になっているのです。

 人格強制時のレベルが100を超えた事で、アグニは元の凶暴な悪役令嬢の状態に戻ると、レベル100倍、魔力1000倍に跳ね上がる、凶悪化という特殊体質を身に付けていたのでした。


「アグニ! 魔族だ!! ペミスエを倒せ!!!」


 グラウスは必死に凶暴化したアグニに向かって叫びました。


「言われなくても解ってるわよ・・・グラウス。このクソ魔族、・・殺して、あげるわっ」


 アグニはそう言うと、全速力でペミスエに向かっていきました。


 そしてペミスエと両手を組み、力比べを始めたのです。


「こっ・・・この人間めっ」

「このクサレ魔族!! 消え去れ!!!」


 アグニはとてつもない腕力で、ペミスエの両腕をへし折りました。


 彼女はファルガーに幼い頃から格闘術を徹底的に叩き込まれており、体術には絶対の自信がありました。人体にかけられた強力な魔綬の効果も合わさり、アグニはレベルを超越した腕力を発揮していたのです。


「なんだこの娘、一体どうしちゃったの??」


 そのあまりにも衝撃的過ぎる光景に、勇者も困惑していました。


 ペミスエは痛みのあまり絶叫します。そしてアグニは魔法の詠唱を始めました。


 ペミスエは必死に避けようとしましたが、突然強い吐き気に襲われ、その場に思わず蹲ってしまったのでした。


「隙ありっ滅びゆく神のご加護よ、今こそ我に罪深き業を振舞し悪に鉄槌の勅旨を与えよ・・・黒き薔薇よ、咲き誇れ! 極大虐殺神魔法、終焉の歌曲スプラッタ・デス・ミュージカル!!!」


 アグニの放った極大虐殺神魔法、終焉の歌曲スプラッタ・デス・ミュージカルはアグニが凶悪化したときだけしか使えない、元々はタタラカガミの使用する魔法ですが、今は彼女専用の魔法です。その威力には魔族特攻効果が乗っかり、ペミスエに絶大なる斬撃の雨を浴びせました。


 そのあまりの衝撃の鋭さに、ペミスエはたまらず地面に膝を付きます。


「よし、今だ。今度は僕が魅せてやる!!」


 ルクレティオは叫ぶと、魔族特攻魔法、ドラガリオンの詠唱を始めました。


「・・・目覚めよ禁忌、滅びの記録によりて我が命じる。魔人に操られしマナの潮流よ、我も血を吐く想い故、偉大なる秘術を、女神のご加護を、今ここに再び顕現させたまえ。食らえ、血の秘術・・・ドラガリオーーーーーーーンッ」


 勇者の放った天空からの激しい雷のような閃光は、ペミスエの全身を容易に貫きました。



 その全身を貫く激痛に、ペミスエは絶叫しましたが、それでも倒れることはなく、片肘をつき、まだ余力を残していますが、動けない状態です。その微妙な手ごたえに、勇者は過去に感じたのと同様の違和感を覚え、渋い表情を見せますが、直に切り替え、アグニに向かって叫びます。

 

「今だ、アグニちゃん。止めを刺すんだっ」


 勇者はアグニに止めを刺すよう命令しました。


「上等よ・・・滅びゆく神々よ、今こそ我に神の歌を授けたまえ。沈みゆく太陽よ、今こそ我を深遠なる月で美しく照らしたまえ・・・朽ち果てなさい、神の賛辞イグナ・フー!!」


 きっちりと詠唱したイグナ・フーの威力は、ペミスエを絶命させるには充分すぎるほどの威力がありました。

 

 アグニの超高火力のイグナ・フーをまともに食らったペミスエは、人間の姿に戻った後、ボロボロの体になり、床にそのまま、ゆっくりとうつ伏せに倒れこみました。

 それと同時に、グラウス達を閉じ込めていた壁の腕も消え去りました。


「やりましたね! アグニ様!!」


 人間姿のペロッティがアグニに近寄っていきます。


「きゃああ!! 素敵な殿方!!! 子種を下さいませ~~!」


 アグニはペロッティに飛び掛っていきました。


「悪いが戦闘は終わりだ」


 グラウスはアグニに魔力を限界まで高めた人格変性の呪文をかけます。


 すると、アグニのレベルと魔力は元に戻りましたが、ペミスエに止めを刺したことで101から、大幅に150までレベルアップしていました。


「全く、ハラハラさせるぜよ・・・」

 

 リョウマは安堵の息を漏らしました。


「もうっドラガリオンは使わないでよ、ルクレの馬鹿っ」


「漣・・・」


 ルクレと漣は互いに手を取り合い、一時の喜びを分かち合いました。


 しかし・・・その次の瞬間、二人は密閉された透明の大きな箱に閉じ込められてしまったのです。


「一歩、遅かったか・・・」


 遥か屋上に開かれた暗黒のゲートから、なんと魔人衆最高幹部、ザルエラ・バインが現れたのでした。



「おっお前は、ザルエラッ」

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