第67話『命をかけて』

 その頃、時を同じくして、ルクレティオは勇猛果敢にペミスエに向かっていきました。


ペミスエは、当初の自らの目的から逸脱した争いになっている事実に、内心焦りと恐怖を感じていました。しかし、彼女は最悪の状況に至ったことを認識し、すでに更なる援軍を要請していたのです。今のペミスエの最大の目的は、ただひたすらにこの場で耐え、漣と勇者が逃げないよう、待ち人が来るまで囮になることでした。


「勇者殿、援護します」


 グラウスはルクレティオに土属性の防御系魔法、イグナ・シールドをかけました。


「来なさい、ルクレティオ! 死なない程度に痛めつけてあげるわっ」


 ペミスエは両手を鋭利な刃物に変形させて、自らに向かって突撃してくるルクレティオに対して迎撃の構えを取ります。


 彼がペミスエに接近した瞬間、魔族の一撃がルクレティオを直撃しました。しかし、ルクレの体は霧のようになっており、ペミスエの攻撃は空振りに終わりました。


「煙の魔人。全身を霧状に変化させる能力さ。」


 そしてルクレティオはペミスエの眼前に現れ、腰元の剣を抜いて彼女に切りかかりました。しかしその攻撃は魔族に弾かれます。


「私に攻撃を加えようなんて、甘いわよ、ルクレティオッ」


「甘いかどうかは、この能力を見てから言うもんだよっペミスエッ」


「黙りなさい、この臆病者がっ」


 ペミスエの右の手刀がルクレティオの腹部を貫きました。


 その後も一方的なペミスエの残虐な振る舞いが続き、ルクレティオの体はボロボロの血まみれになってしまいました。


「はは、気分はどう? あんたを殺せないのが残念だけど、致命傷にはさせてあげるわよっ」


 ペミスエはそう叫ぶと、甲高き咆哮を上げてルクレティオの右腕を跳ね飛ばしました。


「ははあ、いい気味ねっ」


「そっちがね」


 いつのまにか、ルクレティオはペミスエの背後にいました。ペミスエが攻撃していたのは、彼の分身体だったのです。


「もう一人のデコイだよ。引っかかったね。まあ、どんな相手にも絶対かかっちゃうんだけどね~」


 ルクレティオはペミスエを嘲笑すると、体をダイヤモンドと同等に硬質化させて、彼女の頭部を全力で蹴り飛ばしました。


 この一撃は凄まじい破壊力で、流石のペミスエも玉座付近から吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられてしまいます。


 意識が朦朧となったペミスエですが、気合で立ち上がります。


「くっ・・・おのれ勇者めっこれでも食らいなさいっ」


 ペミスエは得意の魔法弾を放とうとしましたが、全く魔法が発動しません。


「キミの魔法なら、僕がもう封印しているよ。諦めるんだなペミスエ、キミは終わりだ」


 ルクレティオは不敵な笑みを浮かべます。


「この・・・・許さないわよっ、クソ勇者がああああっ」


 再びルクレティオに向かっていくペミスエの両足を、リョウマの二丁拳銃が撃ち抜きました。


「ぐああああああっ」


 ペミスエは堪らず転倒し、悶絶して転がります。更にリョウマは銃撃の雨をペミスエに与え続けました。


「お前みたいな悪い魔族は、ここで成敗するぜよっ」


 特殊能力がペロッティによって封印され、魔法は勇者に完全封印され、更にリョウマの銃撃を食らい、ペミスエは追い詰められました。


「さあ、観念しろっペミスエっお前の負けだっ」


 グラウスはそう叫ぶと、イグナ・アースアローを唱えました。


 その時でした。


 突然ペミスエの全身が変異を始めたのです。


「こうなったら、醜いけれど、変身するしかないわね・・・」


「不味いっペミスエを変身させちゃ駄目だっ」


 ルクレは必死にそう叫びましたが、時、既に遅し。

 ペミスエは黒々とした翼を生やし、口からは黄色い牙を生やし、額からは鈍く光る角が生えてきました。


 そしてペミスエのレベルは一気に59666にまで跳ね上がったのです。

 それと同時に、被弾した特技や魔法封印の効果も消し去られてしまいました。 

 彼女の本来のレベルは86828ですが、結界術を使用した影響でかなり弱体化していました。


「くっ・・・これがペミスエの本気かっ」


 グラウスはそのあまりのレベルの高さに驚きます。流石のアグニも少し怯えたような表情をしていました。


「一体なんて怪物ですの・・・・」


 ペミスエは変身が済んだ途端、ゆっくりと立ち上がり、そして周囲にいた人間を弾き飛ばす衝撃波を放出しました。


 その破壊的な威力の攻撃をマトモに食らったグラウスとペロッティ、そしてリョウマが壁に叩きつけられ、更に壁から出現した奇妙な石の腕にがんじがらめにされました。


「しまったっ」


 グラウスは必死にもがきますが、抜けることが出来ません。 


 ペミスエから比較的離れた位置にいたアグニと漣、ルクレティオだけが辛うじて無事でした。


「皆っ大変だわっ」


 アグニがそう叫んだ次の瞬間、彼女の脳内に電流が走ったのです。

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