第65話『回転する城』

アグニ達が玉座の間に入ると、奥の豪華な椅子にペミスエが足を組んで座っていました。


 ペミスエを見た漣は、憤怒の表情に変わります。


「ペミスエ・・・・やはりあなたが・・・」


「あら? あなた達、来たのね。久しぶりじゃない、雪定ちゃん」


「ペミスエ!! 絶対に許さんぜよ! 成敗しちゃるきに!!」


 リョウマは銃を取り出し、ペミスエに銃口を向けました。


「あらあら、気が短い人ですこと。ここは私の縄張りよ? あなた達の好きにはさせないわ。それにこの城に侵入してきた時点で、あなた達は終わっているのよ」


 ペミスエが指を鳴らすと、突然アグニ達の立っている大理石に敷き詰められた床が横に回転を始めました。

 そして一同は転倒し、地面に叩きつけられたのです。


「なっ何? 何なの? 一体!?」


 驚くアグニを嘲笑するように、ペミスエは笑い出しました。


「この城を築城したのは私。この城は私の思いのままに動くわけ。何でも自由に出来る、素敵な特殊能力だと思わない?」


 横に回転し続ける空間の一部を、アグニ達は必死に走り続けました。それはまるでハムスターがサイレントホイールで遊ぶような滑稽さでした。

 ペミスエは、自分の築城した城内の視界に入る場所を、完璧に支配する事が出来るのです。


「あはははっせいぜい足掻きなさい! そして、死になさい!!」


 ペミスエは玉座から立ち上がると、魔法弾をアグニ達目掛けて大量に撃ちこんで来ました。


 一同は横に回転する床と格闘しつつ、必死に魔法弾を避け続けます。


「くっそ、これでは攻撃どころじゃないわっ!」

「何とかこの回転を止めないとっ」


 しかしアグニ達にはどうすることも出来ませんでした。しかしついにリョウマが床が横回転している最中に、倒れながらも巧みに銃を撃ちました。


 銃弾はペミスエの右足に当たり、ペミスエは蹲ります。

 それと同時に回転は収まりました。


「今ぜよっ!!」


 一同は元の床に戻り、そしてアグニとグラウスは、それぞれ神魔法の詠唱を始めました。


「食らえ! 神の賛辞イグナ・フー!!」

「甘いっ!!!」


 なんと今度は、ペミスエの体の前に巨大な壁が出現し、魔法を防がれてしまいました。しかし壁は粉々に砕けました。ですが彼女は再び自らの前に大理石の壁を作ります。


「何だと!?」


「この私がいる空間で戦おうなんて、あなた達のやっていることは自殺行為よ? 結界は壊させてあげたわけ。あなた達を誘い込むために、ね。」


「くっそたれめ・・・」


 ペミスエのレベルは9666。アグニ、グラウス達よりも遥かに格上の存在でした。しかし二人の人体には強力な魔綬の効果がかかっており、一時的ですが、そのレベル差を感じさせないほどに戦えるようになっていたのです。


 一方怒りに駆られていた漣は、再び回転し始める床をものともせず、両手に灰色の大鉈を出現させると、ペミスエに切りかかって行きました。


「ペミスエ、覚悟っ!! 残歌、第一楽章・死滅の舞い《グローリアスロンド》!!」

 

 漣は踊るような華麗な鉈捌きでペミスエの前に立ちはだかる壁を切り刻むと、魔族に一太刀を浴びせました。


 その激痛に、流石のペミスエも悲鳴を上げます。


「二人とも、今よ!!」


 漣の合図に合わせて、アグニとグラウスが共に再び神の賛辞イグナ・フーをペミスエ目掛けて放ちました。


 魔法は今度はペミスエを直撃し、彼女に大きな損傷を与えます。 


「ぐっ・・・このクソ女めえっ」


 ペミスエは生やした自らの尻尾を鞭のように撓らせて、近づいてきていた漣を攻撃しました。

 しかし漣は、その攻撃を鉈で巧みに防御します。


「小賢しいマネをーー!!」


 怒りに燃えたペミスエが漣を、追撃しようとしたそのときでした。


「イグナ・ネオ・アンプロポス!!」


 ペロッティの時空魔法が、ペミスエの行動を遅らせたのです。


「何っ??」


 そしてコアラ姿のペロッティが高速で近づいてきて、レイピアでペミスエの腹部を刺しました。


「奥義! 能力封印マグ・トゥーレ!」


 ペロッティは大量の魔力をレイピアを通して注ぎ込み、ペミスエのビルド能力を封印しました。


「続けて、聖櫃砕き《ポゥ・トゥーレ》!!」


 ペロッティは更に追い討ちをかけるようにペミスエに刺突の雨を降らせます。

 

 聖櫃砕き《ポア・トゥーレ》は見事に決まり、ペミスエのレベルは一気に7666まで下がりました。


「くっこの、・・・コアラめえ!!」


 自分の攻撃が緩やかになっているため、ペミスエの、ペロッティへの打撃は彼にかすりもしませんでした。

 

 そしてペロッティは優雅にアグニ達のすぐ傍に着地し、臨戦態勢を取ります。


「やったな、ペロッティ!!」

「凄いわっ」


 グラウスとアグニが喜びの表情を浮かべます。


「時間がありません。早くしとめましょう」


 レベル3010になったペロッティは、自信ありげにそう言いました。


 そして、漣は自らの特殊能力である、完全なる模倣イミタゼーションでペロッティが使った技を見ていました。


 完全なる模倣イミタゼーションは、瞳で見た自分の仲間の特殊能力や技、魔法を、見た回数だけ使えるようになるという、完全模倣能力です。


「ありがとう、ペロッティ。とても良い物を見させてもらったわ」


 漣はペロッティに礼の言葉を述べました。


「おのれえ、この、雑魚共の分際でーーーー! 調子に乗るんじゃないわよっ!!!」


 ペミスエの怒りが極限に達しました。


「さあ、ここからが本当の戦いだ! 行くぞ、アグニ!!」


「わかってるわよ、グラウス師匠!!」


 アグニとグラウスはいつでも神の賛辞イグナ・フーが撃てるよう待機していました。


 そしてそんな彼らの元に、ルクレティオも駆けつけました。


「ルクレティオ! やっと現れたわね!!」


 ペミスエは怒り狂った表情で、勇者を見つめます。


「皆、しっかりしろっ分かち難き大いなる水よ、かの者が涅槃に堕ちる前にうなれっ女神の礼賛イグナ・エル・ゼーリア!!」


 ルクレティオは、到着早々、皆の失っていた体力を全回復させました。

 勇者にとって、回復魔法は得意中の得意分野だったのです。


「魔族ってペミスエっやはりお前だったのかっ今ここであのときの決着をつけてやるぞ、覚悟しろよなっ!!」


 ルクレティオはペミスエを指差し、勇敢にそう言い放ちました。

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