第64話『暴風の神の悪行』
アグニ達は最上階を登り、玉座への通路を歩いていました。
通路には魔族の兵士は視認できなかったので、一同はしばし肩の力を抜きました。
ですがグラウスは気を抜かず、前へ前へと歩いていきます。
「ちょっと待ってくれよ」
ルクレティオが、先頭を行くグラウスを呼び止めました。
「どうかしましたか? ルクレ殿」
「僕に、良い考えがある」
「良い考え? なんです? それは」
「僕のとっておきの魔綬を、誰か一人にかけるんだ」
ルクレティオの発言に、一同は驚きを隠せない様子でした。
「とっておきの魔綬? なんですか? それは?」
ペロッティがルクレティオに迫ります。
「レベルを十倍に引き上げる魔綬だよ」
「れっレベル十倍?? そんな魔綬があるんですか?」
「うん。でも、この魔綬は、かけるのに10分程の時間がかかるし、効果は一日しか持たない。おまけに一度に一人にしかかけられない、特殊な魔綬なんだ。一応武器になら幾らでも付けられるけどね」
ルクレティオの発言に、一同は誰にかけるべきか思案しました。
「私に、私にかけてください」
人間姿のペロッティが名乗りを上げます。
「私はある能力を授かりました。レベルが上がれば、より効果的になるはずです」
「ある能力? なんだい、それは?」
「敵のレベルを下げる技です。自分のレベルが高いほど効果が上がる予感がしています」
ペロッティは自信満々に言いました。
「ほう、レベルのことはよくわからないけど、それは有用そうだね。じゃあペロッティ君、キミに魔綬をかけるよ。皆、ちょっと待っててくれないかな」
「ありがとうございます、勇者殿」
ルクレがペロッティに魔綬をかけ始めたとき、リョウマがルクレにとある疑問を投げかけました。
「なあルクレ」
「なんだい、リョウマちゃん」
「おまん、一体どうしてそんな凄い魔綬なんて使えるようになったんだ? 」
その問いかけを聞いたルクレは、女神の祝福を受けたときのことを思い出してしまいました。
それは今から三年前、まだ彼がまだ、あらゆる種族が暮らす、科学技術等が発展した異世界のとある国におり、普通の高校生活を始めた、とある学校の帰り道のときのことです。
幼馴染で同じ高校に進学した漣と別れ、一人で自宅へと向かっていたときでした。
人通りの無い、細い住宅街の道路を歩いていると、突然空が光りだし、彼の前に、とても美しい容姿をした若い女神、スーデルが姿を現したのです。
そして、驚いていたルクレに自らの正体と彼の使命を伝え、今から女神の祝福を与えると申し出たのです。
そして生娘の、髪の長い美しい容姿をした女神スーデルは、まだ驚き半分状態のルクレティオの前で上半身の豊かな胸を露にし、そして彼の後頭部をつかみ、自らの胸に挟み込み続けました。その後彼を跪かせ、ピンヒールで背中を力一杯踏みつけ続けたのです・・・。
「うわああああっあっあっ・・・」
そのあまりの異色の妙技に、ルクレティオは奇妙な興奮を覚えてしまいました。
「・・・10分間、耐えてくださいルクレ様。けして変な物をお出しにならぬように。この祝福は、一人に一度しか出来ない、失敗の許されない儀式です。失敗したら、終わりです。この世界の人類の命運がかかっています。人生をかけて、どうか死ぬ気で耐えきって下さいませ・・・」
「そっそんなこと言われても、じゅっ10分って・・・ぼっ僕は、未経験なんだぞっもっと手加減とか、すっ少しは、やっ優しくしてくれよ。。。うう・・・駄目だ・・・もう・・うう・・・・背中が・・・なんか変な気持ち・・・・」
「後もう少し・・・・。できましたぁっ」
美しい女神スーデルは、ルクレの背中から足を離しました。
するとどういうことでしょう。立ち上がったルクレの全身が、力強い虹色に光り輝き始めたのです。
「うわ・・・なんだこれ・・・全身から、力が・・・漲ってくる・・・??」
「ふう・・・どうやら女神の祝福は無事成功したようです。これであなたは、全ての魔綬と、特攻魔法を使えるようになりました。」
「魔綬? 特攻魔法? 一体何それ、僕が女神に選ばれた存在って、ホントなの?」
「ええ。間違いありません。あなたはエルーガですから。」
「エルーガ??? 何それ??」
「詳しくは今は申し上げられません。これから冒険の旅を始めれば、いずれ明らかになるでしょう」
「冒険の旅?? はっはぁ・・・・なんか突然の事で、頭が混乱してきたよ。普通の高校生になったばかりなのに・・・出会って突然こんなことされるなんてさ。汚された気分だ」
「あと、こちらを」
スーデルは自らの掌から綺麗な鞘に収められた剣を取り出すと、勇者に手渡しました。
「これは、もしかして、伝説の剣とかいう代物??」
「いいえ、切れ味は殆どない、名も無い剣です。」
「何だよそれっそんなの要らないよっ」
「その剣は切れ味こそありませんが、耐久力は無限です。その剣に魔綬を付けたり、外したり、魔綬の練習用に使ってみて下さい」
「はぁ・・・・まあいいや。それにしても、キミ、凄い綺麗なのに、いきなり過激なことするよね。僕の初めて、どうしてくれるのさっ」
勇者はややむっとした表情で美しい女神スーデルに問い詰めました。
「申し訳ありません。私も生娘なので・・・本当はこんなことは致したくないのですが、これも女神の宿命ですから。ルクレ様、間違っても勘違いして、私に襲い掛からないでくださいね。私が生娘じゃなくなると、女神の祝福が授けられなくなって、只の女の非力な神になりさがってしまうのです」
「そっそうなんだ・・・でっでも、他にも祝福のできる女神って、まだ沢山、いるんでしょ?」
「いえ、実は・・・魔綬と特攻魔法を授けることが可能な女神は、今はもうこの私しかいないのです。もう一人、私の姉である女神ヨーデルお姉様も祝福が可能で、中央世界で積極的に女神の祝福を行っていたのですが、遠い昔、若き武神スサノオミコト様に祝福を行った際、終わった後にスサノオ様が大層興奮してしまわれて・・・ヨーデルお姉様は、女神の祝福を使えない体にされてしまったのです・・・」
「うひゃあ・・・それ、ホントなの??」
「ええ。その行いに激怒した御姉様は、スサノオ様から特攻魔法の技術を奪い取りました。あの武神は、本当に、とてつもない獣にございますっおかげでもう、この世界に、女神の祝福を行えるのは、今はこの私、スーデルしかおりません。スサノオ様のあまりに悪辣な振る舞いに、当時太陽神で魔法の神でもあるヨモギガマラ様が酷く怒って抗議したのですが、・・・」
これは当時太陽神として神界で活躍していた美しき魔法の女神、ヨモギガマラとその弟、スサノオノミコトとのやり取りです。
ヨモギガマラはスサノオの蛮行に大層怒り、自らの神殿内の中央であぐらをかきつつ、どぶろくで司牡丹という神酒を飲んでいた弟の元へやって来ました。
「スサノオッスサノオッまったくあなたという人は、とんでもない事をしてくれましたねっこの私が一生懸命育て上げたヨーデルに酷い仕打ちをっ流石の私も堪忍袋の尾が切れそうですっ」
ヨモギガマラがそう叫ぶと、酒に酔っていたスサノオは酷く低音の渋い声で言いました。
「よいではないか、姉上。突然あのような事をされては、流石の余も辛抱たまらぬ。女神など、また幾らでも育てればよいであろう」
「何を言っているのですかっ女神の祝福を授けられる女神を育て上げるには、1000年もの時がかかるのですよ?? あなたのせいで、もうこの世界に祝福ができる女神はスーデルしか居なくなってしまったではありませんかっあなたの罪は重いですよっ少しは罰を受けなさいっ」
ヨモギガマラは激しく捲くし立てましたが、スサノオは一言、
「全く、姉上は口うるさいお方だ・・・」
と言い、そして徐に体を起こすと、徐に下半身の装束を下ろし、そして、いきみはじめました。
「ちょっスサノオッあなたこの神聖なる神殿で、一体何をする気ですか??」
「姉上よっこれを見よっふぬうううおおおおおおおおおおっ」
そしてスサノオの玉門からは、銀色に輝くとてつもない量の、とぐろを巻いた便が放出され始めたのです。
「へっあっ嫌ああああっ」
しかし、なんということでしょう。スサノオノミコトは一回では飽きたらず、神殿内に次々と銀色に輝く糞尿を撒き散らし、そして壁という壁に塗りたくっていったのです・・・。しかも姉上であるヨモギガマラに見せ付けるようにです。。。
「止めて、スサノオッ! 私の、私の神殿が・・・ああ、臭い・・・臭すぎる・・・私の嗅覚は非常に敏感・・・もう、これ以上は・・・・」
豪華な装束を身に纏っていたヨモギガマラは、自らの装束の袖で鼻を隠しましたが、あまりの異臭に耐え切れず、とうとう泡を吹いて失神してしまいました。そして駆けつけてきた多数の神達と、スサノオの暴走を聞き、遅れてやってきた美しい女性の月を宿す神、ツクヨミ、男性神で雷を操るタケミカヅチに介抱され、何とかヨモギガマラは失神したまま神殿を抜け出す事に成功したのでした・・・。
「タケミカヅチ! 叔父上は? 叔父上のタタラカガミはどこにいるの? もうスサノオを止められるのは、叔父上しかいないわっ今も糞尿し放題よ! このままだと、この神界があの悪漢の糞まみれになるわ!」
ツクヨミは悲壮極まりない表情で、タケミカヅチに強く訴えかけます。
「父上をその名で呼ぶのは止めていただきたい。せめて私達だけでも本名で呼ばねば、また怒りの業火で神界の一部を焼き尽くしてしまいますぞ」
「ごめんなさい、つい・・・で、どこにいるかわかるの?」
「父上なら、きっと、ニニギ様のところにいるだろう。行ってくる」
そういい残し、タケミカヅチはニニギノミコトのおわす神殿へと走っていきました。
「お願いよ、タケミカヅチ!!」
そしてツクヨミは失神しているヨモギガマラの両足を抱え、多くの神達とともに、ヨモギガマラを安全な場所へと運んでいったのです。
その後やってきた、隻腕で美しく中世的な容姿をした男性神のタタラカガミが、まだ飽きたりずに糞をしようと、きばっていたスサノオの背中を思い切り蹴り飛ばしました。
「スサノオ! 貴様という輩はっ一体何をやっているのだ!!」
「あっ、これは・・・その・・・」
「問答無用っ死なない程度に、ぶち殺す!!」
そして怒り狂った炎の神、タタラカガミは、スサノオの顔をとことん拳で痛めつけ、更に得意の極炎で体を燃やして懲らしめました。スサノオは、あまりの熱さに大泣きし、直に退散していってしまいました。
その後タタラカガミは、後始末として、一人で神殿内に散乱した大量の糞尿を、他の配下の神達や神兵と共に回収したのです。彼には嗅覚無効という特殊体質が備わっていたので、糞尿にも耐えることが出来ました。
しかし、その大量の巻き糞は酷く臭かったのですが、銀で出来ていました・・・・。
「こっこれはっ・・・糞ではないっ銀だっ巻きぐそのような、銀だっ」
この事実に、タタラカガミは大層喜び、自分を崇める日ノ本へ降り立ったのですが、その糞のあまりの臭さに民達が失神してしまい、とても売り物にはなりませんでした・・・。
以上がヨモギガマラと若きスサノオ、そしてタタラカガミ、その他の神々達とのやりとりの一部始終です
「・・・スサノオ様はヨモギガマラ様の抗議にも一切意に介さず、その、・・ヨモギガマラ様の見てる前で、とてつもない悪臭の、・・・特大のまっ巻きぐそを、したそうなんです・・。それも一つだけでは飽きたらず、神殿中に撒き散らして、壁に塗りたくって・・・」
スーデルは頬を染めつつも、怒ったような調子で、若き日の武神スサノオノミコトの悪行を語りました。
「神の神殿で、まっ・・・巻きぐそって・・・神のウンコってこと? 何か、物凄い臭そうだね・・・」
「ええ、それが、神界中に匂いが漂うほどに大変臭かったそうで・・・。それで、嗅覚のとても鋭いヨモギガマラ様は、まともに脱糞する様を沢山見せられ、その匂いを近くで嗅いでしまい、心を酷く病んでしまわれて・・・。」
「うへぇ・・・」
「それでも心優しき弟想いのヨモギガマラ様は、きっと酒に酔っていたゆえの暴挙として、その大罪を許したのですが、その後も若きスサノオ様は悪びれもせず、沢山の悪行をヨモギガマラ様にされまして。。。その後少々反省されたスサノオ様がやってくると聞いたヨモギガマラ様は、身の危険を感じ、流石にもう手に負えない、と、とうとう大粒の涙を流しながら、神界にある天の岩戸に、自らの魔法の教え子である人間を一人連れ、篭ってしまわれた、と私は聞いております。真実かどうかは定かではありませんが・・・」
「そっそんなことがあったんだ。。。。。僕のいる国の神話とかとは全然違うけど、酷い話だね。あっぼっ僕は革命の国の人間だけど、キミにそういう事はしないから、安心してよっ他に意中の人もいるしね」
「それを聞いて、安心しました。では、また後ほど・・・」
そう言って宙を舞い上がって去って行こうとしたスーデルを、ルクレは呼びとめました。
「ちょっちょっとまってっ・・・あの・・・出来ればでいいんだけど、その・・・もう一回だけ、・・・してくれない? それならいいでしょ? ね? お願いっ」
「きゃああああああ、ルクレ様の、不埒者ーーーーっ」
美しい女神スーデルは頬を真っ赤に染めて、ルクレに全力で平手打ちをしました。
「ありがとうございますううううううっ」
ルクレティオにとって、それは恍惚な体験でもありましたが、苦い記憶でもあります。そしてまさかこんな形で、自らが今、このような過酷な運命を背負う事になるとは・・・・・。
「どした? ルクレ、教えてくれろ~気になるぜよ~」
「わっ悪いけど、それは秘密なんだよっ絶対に言えないっ」
「なんでじゃ~気になって戦いに集中できんじゃないがか~ルクレのケチンボッ」
「・・・悪いけど、早く行ってくれるかい・・」
ルクレは既に世に亡きスーデルの事を思い出し、少しだけ顔を俯かせました。
「リョウマ殿。私達は先にペミスエの所へ行きましょう。ペロッティと勇者殿は後から合流してくれるでしょうし」
そういうと、グラウスはアグニと漣に先陣を切らせ、自らは、ごねて、むくれているリョウマの手を引いて、玉座の間へと向かっていきました。
「・・・勇者殿」
「何? ペロッティ君」
「女神の祝福とは、一体どういったものなのでしょうか?」
どうやらマゾヒズムに完全に目覚めていたペロッティも、女神の祝福の詳細に興味津々でした。
ひょっとしたら、とてつもないサディスティックな行いかもしれない・・・。
ペロッティは思わず妄想し、頬を染め、自らに悪辣な振る舞いをするアグニの姿を想像し、息を多少荒くしていました。
「・・・知らない方がいいよ。とりあえず、僕はいきなり汚されたって感じだね・・・純情だったのにさぁ」
「はぁ・・・さようですか・・・」
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