第63話『戦いの歌が聴こえる』
アグニの心の中に戦いの歌が聴こえてきました。ついに決戦のとき、来るです。
翌朝、集まった11人の戦士達は、ペミスエの城に最も近い生産地区の外れにやってきていました。
先に偵察へと向かったミヨシの報告によると、どうやら300人近い魔族の大群がパパイヤンに迫ってきているということでした。
「むう・・・・どうやら本当に軽い戦争になりそうじゃのう」
すでに先行してミヨシに同行したマテウスが城の結界を破っており、いつでも城内に進入できる状態です。
「よし・・・行って参ります、ピエタ様。どうぞご無事で」
「うむ、お主らもくれぐれも気をつけるのじゃぞ・・・」
グラウスはピエタの言葉に頷きつつ、悲壮感漂う表情で歩き始めました。
それにつられて、戦闘装束に着替えたアグニ、ペロッティ、漣、ルクレティオ、リョウマ、ミヨシも後に続きます。
「グラウス殿、私が先導いたします」
グラウスの前に進み出たミヨシは、早速隠密能力を使い、一同を安全に城内に潜入させました。
城内は綺麗な洋館を思わせるエントランスから、左右に螺旋階段が設けられていました。
「城内には魔族の尖兵が多数いるはずです。この隠密能力は気配を完全に絶ち、足音も足跡も消して、体も透明に近くする能力ですが、声は聴こえてしまいますので、くれぐれも不用意に喋らないようにお願い致します」
ミヨシは振り返り、一同に念を押しました。
が、リョウマは城内をキョロキョロしながら、柿の種をボリボリと、音を立てて食べていたのです・・・。
「す・・・スセリ様」
「ん? なんだ? ミヨシ君」
「その・・・・柿の種は美味ですが、今食べるのは、お止めいただけないでしょうか・・・」
「おお、そか。すまんな。ついうっかり食べてしもうた、あはははは」
「いや、その、笑ってる場合ではありませんよ、スセリ様。これから戦なのですから、少しは緊張感を持ってください」
「緊張感はもっとるぞ。ただやっぱり、溢れる食欲には勝てんぜよ」
そう言って、リョウマは豪放磊落に笑い飛ばしたのでした。真面目なミヨシシンゾウは、肩を落としつつ、残りの者達に今一度自らの能力を説明し、再び歩き始めました。そして少し歩いた後、溢れる想いを抑えきれず、少し怒気を感じさせる表情で、リョウマの方に顔を向けました。
「スセリ様・・・・・」
「ん? 何だ、ミヨシ君?」
「何故一人で、突っ込んで行ってしまわれたのですか・・・?」
「ああ、すまん。その、ウチ、どうしても我慢できなくて、ついカッとなってしもうたぜよ」
「スセリ様、私は何時死んでもよい身の上ですが、あなたに死なれては困るのです。何故私を最初に呼んで下さらなかったのです? この私が来ていれば、ペミスエなどという魔族、武の国の誇りにかけて、一人で討ち取ってご覧にいれましたよ?」
「ミヨシ君・・・」
「スセリ様、もう起こってしまったことをくどくどと言っても仕方のないことですが、今度このような事が起こった際は、必ず最初に、この私を呼んで下さい。このミヨシ・シンゾウ。命など、武の国で生まれたときから、とうに捨てた身の上でございます。ラズルシャーチの戦士を甘くみないでいただきたい」
「うっうむ・・・そうだな。もし今度パパイヤンで何かあったときは、ウチは必ずミヨシ君に全てを任せることにするきに。」
そして話を無言で聞き終えたグラウスが、リョウマの手から、柿の種が入った袋を取り上げたのでした。
「ああん、何じゃ、グラウス。おまんも小腹空いたがか?」
「ミヨシ殿、城内の気配はどうです?」
「・・・厳しいですが、大きな音を立てなければ、何とか最上階までは無傷で切り抜けられるでしょう。万が一交戦になったときは、この私一人で戦いますので、皆さんはペミスエとの戦いに備えて、力を溜めておいて下さい」
「わかりました」
グラウスは、小声でミヨシの声に答えます。
「ああん、ミヨシ君、その勇ましさ、素敵だわ。子種を下さらない?」
「・・・」
「アグニ、お前は黙ってろ」
グラウスは、少し怒気を込め、小声でアグニを叱責しました。
「ねえ、ミヨシ君。一人で戦うなんて、危険よ。私も戦うわ」
漣は、ミヨシの身を案じましたが、彼は一蹴しました。
「武の国ラズルシャーチでは、力ある者が正義であり、全てなのです。弱き者は、死、あるのみ。がスサノオ様の教えにございます。私一人で充分です。漣共も、ペミスエとの戦いだけに集中してください」
「わっわかったわ」
漣も、小声で応答しました。しかし、今度は勇者が話し始めます。
「キミ、よくわからないけど、凄い自信だね。そんなに強いわけ?」
「・・・・武の国に生まれた者の誇り、それが私の強さでございます。」
「そう。僕も臆病者だけど、殺ると決めた相手は躊躇無くぶっ殺すことにしているよ、ははは」
ミヨシの真摯な眼差しを見て、勇者は冗談交じりでそう返すと、それ以上言葉を発するのを止めました。
城の中は、あまり複雑な構造はしておらず、尖兵の数も少なかった為、アグニ達はミヨシに先導され、道中の無用な戦闘も無く、無事に先に進むことが出来ました。
「何だか少し緊張してきましたわ」
アグニがひそひそ声で喋ります。
一方、城外で魔族の大群を迎え撃つ事になったピエタ達と約50名の商兵団、ごく一部の腕自慢の戦士ギルド団員達は、列を組んで進軍してくる魔族の群れを見つけ、臨戦態勢に入りました。
「今はアグニ達の事は一旦忘れるのじゃ。自らの戦いに集中するんじゃぞ!」
ピエタはライカールト達に激を飛ばします。
「承知っ」
モントーヤトリデンテが声を合わせました。
城を五階まで進んだ頃、その先が最上階と思われる階段付近を、とある巨大な魔族が徘徊していました。
「あれは・・・」
隠密は、姿が完全に見えなくなるわけではありません。階段の周囲を徘徊している怪物には、怪しまれてしまいます。
「れっレベル41371・・・。恐ろしい強さだな・・・あれがぺミスエの部下なのか?? だとしたら、ペミスエのレベルは、一体・・・」
グラウスは眉をひそめ、少しだけ体を震わせました。
「そんなに強いの?」
レベルが見えない漣には、トールの強さもわかりませんでした。
「ええ、とてつもない奴ですよ・・・私が以前戦ったべヒーモス等の比じゃありません。規格外です」
「恐らくは、ペミスエの側近ですね。あの階段の上が最上階でしょう。奴を倒さない限り、先へは進めないようです」
ミヨシがひそひそと皆に語り掛けました。
「いいわ・・この私が一人でやる。皆は先に行って、ペミスエを討ち取ってきてっ」
漣の勇敢な一言に、アグニが水を差しました。
「魔族のクセに命令するんじゃないわよっ」
「なんですって?」
アグニと漣が激しく火花を散らしてにらみ合い、小競り合いを始めそうになりましたが、、ペロッティが優しく諌めます。
「漣殿、先ほども申し上げたとおり、ここは私一人で引き受けます。皆さんは先に向かってください。」
ミヨシは背中に収めていた十文字槍を装備し、一同に告げました。
「駄目よ、ミヨシ君っ危険だわっここはみんなで戦いましょう」
「いいえ、駄目です。あの者は、私一人で、必ず仕留めます」
ミヨシは真剣な表情で、漣に言葉を返しました。
「そうか、ミヨシ君。わかったぜよ、おまんほどの強さなら、任せられる。念の為、これは回復薬だ。何本か持っていけっ」
リョウマはミヨシに回復薬を5つほど持たせました。
「ありがとうございます。では、この私が敵を引き付けますので、その間隙をついて、皆さんは最上階へと向かいください」
「ちょっと待って。その槍、魔綬が一つもついてないから、僕が魔綬をかけてあげるよ」
ルクレティオは立ち向かおうとするミヨシを呼び止めると、十文字の槍に、5分ほどの時間をかけて魔族特攻、魔物特攻、精霊特攻、獣特攻、神特攻の五つの魔綬をかけました。
「ありがとうございます、勇者様。助かります。では、スセリ様、皆様、どうかご武運を・・・」
「ミヨシ君もな」
こうして、ミヨシはペミスエの部下であるトールに、勇敢に向かっていきました。
「なあルクレ。相手は魔族じゃろ? なんで神特攻とかいう奴まで付けたんだ? 相手は神じゃないぜよ?」
「はっは~ん。キミキミ、頭は良さそうだけど、魔綬に関しては全くの無知なんだねぇ」
「そりゃそうだ。魔綬なんて、学校でも、言葉だけしか教わらなかったぞっほぼ独学だ」
「あのね、魔綬には相乗効果っていうのがあるんだよ」
「相乗効果??」
「そう。二つの魔綬を同時にかけることによって、その組み合わせの相性で、互いの魔綬の効果を更に大幅に上昇させ合うことができるんだ。逆に相性の悪い魔綬をかけてしまうと、効果が一気に弱まってしまう」
「ほ~~う」
「魔族特攻と神特攻は特に相思相愛でね。神特攻が魔族特攻の効果を更に上乗せし、魔族特攻が神特攻の効果を高めてくれるんだ。これ、魔綬の基礎中の基礎だから、キミ商人みたいだし、遺跡とかで強い武器を探すようなときは、よく覚えとくといいよ~。詳しい組み合わせは、いつか機会のあるときにでも教えてあげるよ」
「そか~、色々教えてくれて、ありがとな」
「どう致しまして」
「待てよ・・・ってことは、ペロッティにやったレイピア、神特攻が付いておらん。そのままじゃあ、まだ弱いんじゃないがか?」
リョウマはペロッティの方を向き、レイピアを渡すよう要求しました。ペロッティは言われた通り、レイピアを差し出します。
「ほれ、ルクレ。これ、見てくれ。秘宝だと思ったんだがな・・・」
ルクレはリョウマから受け取ったレイピアを凝視しました。
「ホントだ、神特攻が付いてない。このままじゃあ、あまり強くないよ。この魔綬をかけた者は、多分初心者だね。誰かわかんないけど」
「そか、じゃあ、神特攻も付けてくれろ。これから大戦闘だからなっ」
「了解。」
そう言うと、ルクレはペロッティの魔族特攻、魔物特攻のかかっていたレイピアに、更に神特攻、精霊特攻、獣特攻の三つを魔綬しました。
「ほら、出来たよ。これでこのレイピアは、恐ろしいほどに強くなるはず。でも魔綬は滅びの力とも言われてるんだ。無機物にかけると効果は永続的だけど、耐久力が削られてしまう。耐久力無限の武具も世界には存在するけどね。このレイピア、耐久力があまり高くないみたいだから、その内買い換えるなり、どこか洞窟で、もっとよい武器を見つけた方がいいと思うよ」
「そか、ありがとな。ペロッティ、ほれ」
リョウマが再びペロッティにレイピアを渡しました。
「一体なんの話ですの? グラウス師匠」
「・・・魔綬のことは、難しすぎてよくわからない」
グラウスとアグニがリョウマとルクレのやり取りを聞いていた頃、ミヨシの存在に気が付いたトールは、彼を視界に入れ、巨大な槌を振り上げて、威嚇してきました。
「魔族よ!! このミヨシ・シンゾウがっお相手いたす!!」
ミヨシとトールが交戦を始めます。
「さあ、今のうちに、私達は最上階に行くぞっ」
グラウスの号令で、一同はミヨシとトールの横をすり抜け、最上階へと通じる階段を上って行きました。
「ミヨシ君、死なないでね・・・」
漣は、ミヨシの身を案じつつ、最後尾を走りました。
次回:スサノオノミコト、ついに登場?! 必読!
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