第61話『破呪』
「まあ、勇者様って素敵な殿方ね。でも、やっぱりクサウラベニダケをお持ちかも・・」
「お前は黙ってろ」
アグニの素っ頓狂な発言に、流石のグラウスも苦言を述べました。
「どういう風の吹き回し? 冷やかしなら帰ってよ、臆病者さん」
漣はやって来たルクレティオに柳眉を逆立てています。
ルクレティオは探知という特殊能力を持っています。これは、自分が本名と顔を知っている相手の視界を見る能力です。
その能力を駆使し、勇者はこの軍鶏鍋屋に、いとも容易くたどり着いたのでした。
「冷やかしじゃない。この僕も戦うっと言ってるんだっ」
「嘘でしょ? 臆病者に成り下がったあなたの力なんか必要ないわ。私達だけで何とかするから、大人しくカジノで遊んでればっ!」
「確かに僕は臆病者さ。勇気も無くしてしまった。でも、これでも誇りは失っていないつもりだよ」
真摯な瞳でそう訴えるルクレに、漣の態度も自然と柔和になりました。
「ルクレ・・・」
「そこの幼女ちゃん」
「ワシは賢者のピエタじゃ」
「ピエタちゃん、僕も漣たちのペミスエ討伐に参戦するよっ」
「馬鹿言わないで、あなたはもう、ドラガリオンを使ったら寿命が大幅に縮まってしまうのよ! 馬鹿な事を考えないで!!」
「ドラガリオンなんか使わなくても、僕の多彩な特殊能力は、少しはパーティーの役に立つはずさ」
そういうと、ルクレはピエタの隣の席に座り、軍鶏をかき込み始めました。
「う~ん、やっぱりこの街の軍鶏ってやつは美味いね」
「・・・心変わりの事情はよく解らんが、頭数は多いほうがよい。漣よ、この勇者とやらも連れて行ってやるのじゃ」
「・・・・わかりました、賢者様。でも、ドラガリオンは使わせないからね、ルクレ」
「解ってるよ、漣」
「その呪いの事なんですが、この私なら、ひょっとしたら消せなくても、効力を弱める事が出来るかもしれません」
グラウスの唐突な発言に、ルクレティオは飛び上がって席を立ち、向かいに座っていた彼に近づき、軍鶏の切れ端を飛ばしながら捲くし立てました。
「それは一体どういうことだいっねえねえねえっ」
「・・・わっ私には除霊、破呪、錬金術、魔法精製という、四つの特殊能力があります。ですがザンスカールのかけた呪いは、きっと強力な物でしょう。完全に消しさる事は出来ないでしょうが、効力を弱める事なら出来るかもしれません、ということです」
自らの胸倉を掴んで食らいついてくるルクレティオに、グラウスは顔についた汚物を取りつつ、しかめっ面で言い放ちました。
「ぜひやってくれ! お願いだ」
「わかりました・・・」
グラウスは席を立ち、さっそく立ち上がっているルクレティオに対し、特殊な魔力が練りこまれた細い布を右手から放出して縛り上げました。
「うわあ、キミ、こういう趣味があるのかい??」
「つまらない冗談は後回しにしてください。行くぞっ破呪の法・理潰し!!」
グラウスは絶大な消滅の魔力を、布を通してルクレティオの全身に流し込みました。
その激痛は凄まじい物で、勇者は苦しみの叫び声を上げます。
「ルクレ・・・」
漣は不安そうに勇者の様子を眺めています。
「・・・どうやら、無事に終わったようだ。残念ながら、完全に呪いをかき消す事は出来なかったけど、これで大分緩和されたはずですよ」
「本当かい?」
「ええ、これならドラガリオンを使っても、寿命の減少は大幅に抑えられるでしょう」
「どれぐらいだい?」
「そうですね、一年ぐらい・・・といったところでしょうか」
「一年か・・・漣、僕の寿命を見てくれ」
漣はルクレに言われるがまま、彼の寿命を確認しました。
「増えてる・・増えてるわ、ルクレ!!」
漣とルクレは嬉しそうに互いに手を取り合い、思わず見つめあいましたが、恥ずかしくなったのか、漣は顔を直に背けてしまいました。
「?」
「良かったのう。じゃがドラガリオンは禁忌の特攻魔法になってしまった事に変わりない。出来るだけ使わないように心がけるんじゃぞ。魔族ごときに、寿命を減らす必要はないからのう」
「わかったよ、ピエタちゃん」
ルクレティオは、笑顔でピエタのおでこを猫を可愛がるように撫で始めました。
「ワシの威厳も、虹色の勇者様には敵わぬか・・・」
ピエタはルクレの愛情表現を生まれ持った包容力で受け入れつつ、今後の事を思案し始めました。
「とにかく、これで準備完了というわけですね」
ペロッティは気丈な面持ちです。決戦に燃えているようでした。
「うむ。後はリョウマの到着を待つだけじゃな。メンバーが揃い次第、明朝にも奇襲をしかけるぞい」
ピエタは力強くそう言い切りました。
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