第59話『結界を破壊せよ!!』

 ゼントとリョウマを除くアグニ達一同は、軍鶏鍋屋本店に集まっていました。

 アグニとグラウスは見事、神の賛辞を習得しています。


 パパイヤンでは、空き地に巨大な城が出来た事が大きな話題になっています。


「恐ろしい早さですね。ペミスエの奴、本格的にパパイヤンを攻め落とすつもりですよ」



 グラウスの言葉に、ピエタは大きく頷きました。


「うむ、困った事になったわい。どうやら中にペミスエがいるようじゃが、あの城、特殊な結界が貼ってあって、只では進入できん」

「一体どうすればいいんですの」

「ワシの魔法で何とか結界を打ち破りたいのじゃが、そうすると、ワシの魔力も、一時的に大幅に落ちてしまう。そうなると、この後のあやつの援軍との戦いが益々不利になるのう」


 アグニ達は築城された悪魔の巣窟に頭を悩ませていました。


 と、そこへ、ライカールトが、懇意の部下である二人の元ラズルシャーチ近衛兵を連れて来ました。一人は真鍮の装飾が施された杖を持ち、清潔感のある白いマントに紫のタイトスカート、黒いタイツを身につけた、清楚なショートカットの容姿ながらも色気のある体つきをした女性、マテウス。


 二人目は、両腕に魔綬が多数かけられた頑丈なグローブを装備し、細身ですが大柄で、筋骨隆々の整った容姿をした男、ファルガーです。


「マテウス! ファルガーまで!!」


 やってきた二人に、アグニは胸を弾ませ、マテウスにはハグした後に頬に口付けをし、ファルガーには羽交い絞めにするように抱きつきました。


「お待たせいたしました、お嬢様。暫く見ないうちに、随分と逞しくなられたようで、このマテウス、何よりでございますよ」


 マテウスは畏まりつつ、アグニの頬への口付けを受け入れます。


「お嬢様の敵は、我々の敵。魔族相手なら、このモンク、ファルガーにお任せ下せぇ!!!」


 自らにしがみつくアグニを引き剥がしつつ、ファルガーは威勢よく叫びました。彼は回復魔法の心得もある、優秀なモンクです。


 グラウスは目を細めて、二人のレベルを凝視しました。


「(マテウス、なっ78010。ファルガー、はっ87799! 二人とも、とても同じ人間とは思えないほど、恐ろしく強いな。これがラズルシャーチの人間か・・・・)」


 その圧倒的なレベルの高さに、グラウスは強い劣等感と嫉妬心を感じていました。


 ピエタはさっそく術士と思われるマテウスに、城に貼られた結界の事を説明します。

 彼女は大賢者が待ち望んでいた回復専門の術士だったのです。 


「そういう事ですか」

「うむ。マテウスとやら、何とかできんかのう」

「そういうことなら私にお任せ下さい。私は回復魔法と結界術、神魔法が専門ですから。解除するなど、造作もないことです。魔族の貼った結界など、すぐに破壊可能でございますよ」

「おお、そうか。では城を取り囲む結界の解除は、お主に任せたぞい」

「了解しました、大賢者ピエタ様」


 結界術とは、主に自分を中心とするあらゆる範囲に、敵の侵入を阻む結界を張る術です。応用技として、蜘蛛の巣のように壁に張り巡らせる、といった術式方法も可能です。かけた結界の大きさや魔力の高さによって、かけられる結界の規模や侵入できる魔物、魔族などのレベルも変わってきます。マテウスは、ラズルシャーチにいた頃、国内全土にレベル3万以上の魔族と魔物を侵入させない超結界を貼りました。同じくガレリア王国城下町にも、彼女はレベル3万以上の魔族を進入させない結界を貼っています。

 

 一応モントーヤ邸周辺にも、弱いですが結界を貼っています。結界は、一度かけると効果は永続的で、かけた本人か、同等のレベルを持つ結界術を使う者にしか破壊することができません。ただしこの結界術は、一度使うとレベルと魔力が一時的に減少します。範囲や結界の質によって差がありますが、失ったレベルと魔力は大抵は3ヶ月ほどで元に戻ります。

 

「ピエタ?? ピエタって、あのジャスタール1の大賢者、ピエタ・マリアッティ様の事か??」


 ファルガーは大層驚いた様子で、天使のような容姿をした子供のピエタに顔を近づけ、覗き込み続けました。


「しっ信じられねぇ、こんな可愛い幼女だったのかよっ」


「・・・」

 

 ピエタは愛くるしい表情で、ファルガーを見つめ続けました。


「ファルガー、ライカールトの話を忘れたの?」


 マテウスが鋭い視線でファルガーを諭します。


「ああ、そういえばそうだったな。申し訳ありません、大賢者様」


「かまわぬぞい。」


 頭を下げるファルガーに、ピエタは優しく接しました。


「ピエタ様って、そんなに大人物だったのでしょうか?」


 ピエタの事をあまり良く知らなかったミヨシが、ファルガーに声をかけます。


「おうっ久しぶりだな、ミヨシ。まあお前は15歳のガキだから知らねぇのも無理はねぇだろうなぁっ学校の歴史の教科書にも名前が載ってる人物だぞ。槍ばっかり練習してないで、少しは本読んで、勉強しとけっ」


 ファルガーはミヨシを軽くいなしました。


「・・・それでは、作戦を今一度確認しましょう」


 一通り会話が済んだ後で、グラウスが切り出しました。


「マテウス殿が結界を解除したら、私とアグニ、ペロッティ殿、漣殿、リョウマ殿の五名が城内に突撃し、ペミスエを倒す。そしてピエタ様、ライカールト殿、マテウス殿、ファルガー殿、ミヨシ殿の五名、そして商兵団や戦士ギルドらの精鋭部隊がペミスエの軍勢を迎え撃つ。これでいいですね?」


「うむ、構わん」


 納得しかけた一同に、ミヨシが割って入りました。


「お待ち下さい、賢者様。このミヨシが、皆様を安全にペミスエの元まで送り届けたいと思います」


「どういうことじゃ?」


「恐らく、城内は見張りの兵士が多数徘徊しているでしょう。私には、隠密という特殊能力があります。それを使えば、城内で極力無用な戦闘をせずともペミスエの元へたどり着くことが可能です。五名をペミスエのいる場所まで送り届けた後で、私は賢者様に合流したいと思います」


 ミヨシの特殊能力、隠密とは、ポンカツ旅団の気配消しを更に強化したもので、完全に気配を絶ち、足音や足跡も残させず、更に制止しているとき、体を半透明化させる、というものです。しかし声や発する音は周囲の者に聴こえてしまい、また接近されると気づかれるので、城内に、耳の良い魔族や。警戒心の強い魔族がいないことを願うばかりです。


「そうじゃな。確かに道中の雑魚敵に手間取ってペミスエとの戦いに支障が出ては困るからのう。ではミヨシ君、お主がその隠密能力とやらを駆使してこやつらをペミスエの元まで先導し、後ほどワシのパーティーに合流してたもれ」


「承知しました」


 ミヨシはピエタに深々と頭を下げました。


「このライカールト、マテウス、ファルガーのモントーヤ・トリデンテが、必ずや魔族の軍勢を押しのけてご覧にいれます」


 ライカールトは、威勢よく大賢者ピエタに言い放ちます。


「うむ。期待しておるぞ、ライカールトよ」


「ちょっと待った!! この僕の存在を忘れてもらっちゃあ、困るなぁっ」


 話が纏まりかけたところで、勇者ルクレティオが突然店の中に入ってきました。


「お主は」


「る・・・ルクレ」


 突然の勇者の登場に、漣は驚きを隠せないといった様子でした。 


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