第54話『パーティー編成』
惨劇の夜から一夜明けた翌日の夜。
アグニ達は、約二日後に再びやって来るというペミスエの件を軍鶏鍋屋本店で会議していました。
会議にはアグニ達の他に漣とミヨシも同席していました。
そこで漣は、グラウス達に簡潔に自己紹介をしました。グラウスとペロッティも自らの名を名乗りました。
負傷者の傷を一通り回復し終えた賢者ピエタが店に合流し、一連の騒動を聞くと、陰鬱な表情で、ため息混じりに呟きました。
「むう・・・何やらとてつもなく大変な事になってしまったようじゃのう・・・」
「三日後には部隊を送り込んでくるそうだ。ウチらは返り討ちにせんといかん。これはきっと戦争になるぜよ!」
「そう興奮するでない。して、ペミスエとかいう魔族のレベルはいかほどだった?」
「それが・・・戦闘に必死で確認しておりませんでした」
グラウスが申し訳無さそうに視線を落としつつ、ピエタに答えました。
「ふむ・・・さようか。しかしお主らでもそこそこ戦えた相手。そう強くはないのじゃろう。そのペミスエという魔族、お主らだけで仕留めてみせよっ」
「(ペミスエ? ペミスエって・・・・まさか・・・あのときの・・・女魔族??)」
漣は、ペミスエという名前を聞き、過去のブリジン王国での想像を絶する死闘と惨劇の記憶をかすかに思い出し、体内を激情に燃やし始めました。
一方ゼントは、ペミスエという魔族の名前を聞き、少し思案している様子でした。
「勿論!! ウチがギタンギタンのバッキバキにぶちのめしてやるぞ!!」
リョウマは大変怒っていました。自分が作った都市で、しかも自分の管轄であるカジノ特区で大惨事が起こってしまったことを、悔やんでいたのです。
「私も行きますわ。あのクソ魔族に止めを刺してごらんにいれますっ」
アグニは勝気な表情を見せました。
「ピエタ様、私も行かせて下さい。このペロッティ、怒りに震えておりますっ」
いつになく真剣な面持ちで、人間姿のペロッティは言いました。
「私も行くわ。戦士ギルドの威信に関わる事態だもの。動かないわけにはいかない。それに私、ペミスエの事、多分知ってるから」
「知ってる? お主、顔見知りなのか?」
「三年前、敵側にいた女魔族、魔人衆っていうザンスカールの幹部の一人と、同じ名前なの。まだ顔は見てないから、確かじゃないけど、名前が同じだから、可能性は高いと思うわっ」
それを聞いたゼントは無表情のまま、やや眉をしかめ、再び思考しています。
「(魔人衆・・・よくわからないが、あのスクナよりも強いんだろうか? この漣とかいう女のレベルは解らないし、戦力としては未知数だな。最悪、この俺がリョウマから猛毒回復薬を貰って、こっそり仕留めてきても構わんが、相手がどんな奴かもわからないし、流石に俺も魔族との戦いは辟易だ・・・。それに、何かもっと良くないことが起こりそうな予感もする。できれば俺は、最悪の事態に備えて待機しておきたい。新しい技も、そろそろ実戦で試せそうだしな。あとはせめてもう一人、リョウマ達に加勢してくれる奴がいればいいんだが・・・さて、どうするか・・・)」
ゼントは深く考えつつも、眠りに落ちそうになっていました。ゼントには危機察知、という特殊体質が備わっており、自らや仲間に迫る脅威を事前にある程度感じ取ることが出来るのです。これは本人も知らないことです。
「そうか・・・・魔人衆に、その長、ザンスカール・・・。ペミスエの正確なレベルは、漣には見えんのじゃったな。よいであろう。では、ペミスエはそなたらに任せたぞい」
ピエタは五人の顔を伺い、そう言いました。
「そうだ、ゼント。キミも一緒に来てくれ! キミがいれば心強い。報酬なら、ここの仕事で稼いだ分を払うっ」
グラウスが今にも眠そうな表情のゼントに、交渉を持ちかけます。
金、という言葉に敏感に反応したゼントは、瞳を開きました。
「・・・ほう、金か? いい話だな。で、幾ら出す? 俺への報酬は、破格だぞ? わかっているのか、グラウス」
「あっああ。仕事で、3億ジェル稼いできた。全部くれてやるから、キミも来てくれないか? リョウマ君の用心棒なんだろう?」
グラウスは必死にゼントに語り掛けました。
ゼントはリョウマの身の危険を案じ、無償で参戦しようかとも考えました。が、彼にも金を稼ぐ必要があり、更なる不吉な予感をも感じていた為、とりあえず金を毟ることにしたのです。
「ならんっゼントは連れて行くでない!!」
グラウスの提案を、ピエタが一蹴します。
「なっ何故です? ピエタ様。これ以上ない戦力ですよ?」
「安易に強き者に頼るでない!! これはお主らの仕掛けた戦いじゃっ修行のつもりで、今回の戦、お主らだけでなんとかしてみせよっこの戦いすら乗り越えられぬようでは、日ノ本など夢のまた夢じゃぞっ」
「ピエタ様・・・」
「一体どういうことですの?」
「ピエタ様のおっしゃる通りです。先に手を出したのは私達ですから、私達だけで行きましょうっ」
ペロッティは覚悟を決めたように、精悍な顔つきをしていました。
「ゼントは来なくていいぞ。勿論ウチも行く! 無明の破片も仰山増えたし、回復とか色々、火力はそんなに出せんかもしれんが、後方支援なら、任せとけっ」
リョウマは既にやる気まんまんです。
「全く、ルクレったら・・・・どうせ今もカジノに・・・。ペミスエが来てるかもっていうのに・・・」
ルクレ、という漣のぼやきに、ゼントはとある発想を思いつきました。
「・・・・ふんっ交渉決裂か。せいぜい頑張れよっ」
そして、そう捨て台詞を吐いて、ゼントは軍鶏鍋屋から足早に立ち去ろうとしました。
「おいゼント、どこ行くぜよ?」
リョウマがゼントを呼び止めようとします。
「・・・ちょっと、稼いでくる」
「稼ぐ?」
「放っておいてやれ。ではお主ら五人でペミスエを。ワシとミヨシ君と商兵団、戦士ギルドの精鋭で、直に来る魔族の部隊を捻り潰すとするかのう」
「わかりました・・・」
グラウスは少し残念そうでしたが、ピエタの指示に従う事にしました。
丁度入り口から出て行くゼントと入れ替わりで、ライカールトがやって来ました。互いに一瞥しましたが、武人は直に目線を外し、息も絶え絶えに軍鶏鍋屋本店に入っていったのです。
「(今の男・・・、レベルが規格外に高かった。しかも重装備。猛者だな)」
ゼントはライカールトを一目見て、彼の強さを大よそ把握しました。
「(とりあえず、あと一人・・・グラウス達の方には、戦える奴を送った方がいいだろう。例の勇者という男、流石の俺も、無策で近づくのは危険だな。さて、どうするか・・・)」
考え事をしつつ歩き出し、最強の剣士は、一人カジノ特区へと向かっていきました。
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