第52話『死闘開幕』
軍鶏鍋屋で、ピエタとリョウマは楽しく談笑しつつ、夕食を取っていました。ゼントは剣の副作用で、深く眠っています。
「ほう、おりょうの加護というのか。しかも移動も攻撃も可能とは、非常に強力な能力じゃな」
「だろう? ウチはレベルは低いけど、自分の身は自分で守れるつもりぜよ。それにしてもピエタ様、大賢者のくせにカジノで遊んで~中々の俗人だな」
リョウマはニヤニヤしながらピエタを見やります。
「何を言うとるか、こんな街を作りおって。お主だって、充分欲が深いであろう?」
「まっそれもそうだな、ヘヘ。ところでべヒーモスの肝なんじゃが、あれ意外と・・・」
と、話をしていた二人の耳に、人々の悲鳴や怨嗟の混じった声が聴こえてきました。
「一体何事じゃ?」
リョウマはテーブルから立ち上がり、早足で店のドアを開け、外に向かって威勢よく怒鳴り散らしました。
「おいこら、おまんらっほたえ」
すると、リョウマの視界に、全身から大量の血を流して倒れている娘を抱きかかえる、貴族の男性の姿が入りました。
「な・・・・」
「娘が殺されてしまったーーーっ娘が殺されてしまったーーーっ」
必死に泣き叫ぶ多くの人々の姿を見て、レベル3のリョウマは躊躇いなく直にホルダーから銃を取り出し、より悲鳴の多い方角へ走っていこうとしました。
「おい待て、リョウマよっどこに行くのじゃっ」
「ピエタ様は回復をっその少女はまだ生きてる! ウチは襲撃犯を捕らえちゃるっ!!」
そういい残して、リョウマは単独で群集に紛れていってしまいました。
そのとき、微かではありますが、リョウマの両頬に小さな神文字が一瞬浮かび上がりましたが、直に消えてしまいます。
「娘が・・・娘が・・・」
ピエタは貴族の男に近づき、抱きかかえられている血まみれの少女に回復魔法をかけ始めました。
「落ち着かんか。あやつの言うとおり、まだ微かに息をしておる。どれ、ワシが回復してしんぜよう。一命は取り留めるはずじゃて」
「うう・・・・子供なのに、こんなに強力な回復魔法が使えるなんて、ありがとう、お穣ちゃん・・・」
「子供は余計じゃわい」
そして貴族の男性は、懐から多額のジェルの入った袋を取り出し、回復中のピエタに渡そうとしました。
「馬鹿もんっ金など要らぬ。その金は、今後の娘の治療費にあててやらんかっ」
「うう・・・ありがとう・・・迷子の子供さん・・・・うう・・・うう・・・」
ピエタは夜ということと、一人でいることから、多くの人々に迷子の幼女だと思われていたようです。
「お願い、そこの迷子の天使ちゃん、私の息子も回復してっ」
「私も、私も、頼むっ金なら幾らでも払うから、私を優先してくれーっ」
「全く・・・・この街は、金、金、金ばかりじゃのう。ゼントのような輩が沢山おるわい・・・」
ピエタは少し消沈しつつも、必死に周囲の傷ついている人たちを回復に追われていたのでした。
そこに、騒ぐ人たちの声を聴き、瞳を開いたゼントが、店を飛び出して近づいてきます。
「ピエタ、どうした? 何があった??」
「わからぬっどうやら何者かが魔力を込めた弾を大量に撃ち込んでいるようじゃっ大分力を抑えているようじゃが、この魔力の強度からして、敵のレベルは5000程は超えているじゃろうな」
「何だと? 今すぐ仕留めて来るっ金は特別に後で貰うぞっピエタっ」
ゼントは木刀を抜き、直に現場に駆けつけようとしましたが、ピエタが制止しました。
「馬鹿もん、無闇に行く出ないっゼント! 相手は何者かわからんっ恐らく剣を抜かねばならん相手っこんな真夜中の街中でど派手に斬りあうつもりか? 万が一群集に当たったらどうする! 少しは頭を冷やさんかっ」
「しかし、リョウマが・・・」
「安心せいっリョウマには、おりょうの加護という超強力な特殊能力がある。攻撃はともかく、自分の身ぐらいなら、確実に守れるじゃろう。お主はいざというときの切り札、行かんでよい。それよりワシにおぬしの魔力を少しくれっワシには魔力吸収という特殊体質がある。大仕事になりそうじゃから、分けてくれっ」
「どうするんだ??」
「利き腕に魔力を込めて、ワシの体に触れるだけでよい」
「・・・承知した・・・。だが事態が悪化しそうになったら、すぐに駆けつけるぞ。今のうちに金を寄越せっ前金だ」
「まったくこの仕事人間めいっさっさと魔力を寄越さんかっ」
ゼントは木刀を納め、リョウマの身を案じつつも、ピエタの背中に自らの魔力を込めた左手を置き、多くない力をピエタに全て託しました。
「(リョウマ・・・・頼むから死んでくれるなっ・・・)」
その頃、ペミスエはひたすらに魔法弾を撃ち続け、多くの人々を傷つけていきました。
「あっはっはっ。やっぱり暴力って、さいっこう」
彼女は魔族の性に抗うどころか、自分の欲望に忠実に生きる、凶悪な類の魔族に堕ちていました。
と、そのときでした。
ペミスエの胸部を一発の銃弾が貫通していったのです。
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