第51話『戦いの合図と狂人の瞳』

 VIPルームの目の前までやってきたピエタとペロッティは入り口にいたリョウマ達と再会しました。


「どうじゃった? 勇者様には会えたか?」

「それがな・・・」


 リョウマが視線を落として話し始めようとするよりも早く、グラウスがピエタに訴えかけました。


「会うことは会えたんですが、完全に戦意喪失状態で。何でも空気の略奪者とかいう奇妙な能力で、半径二十メートル以内の空気を十分間奪えるようなんです。私達もまともに食らいました。あの男には、恐ろしくて、とても近づくことすらできません。どんな相手の魔法も確実に封印する能力も持ってるみたいで、魔法も一切使えなくなりました」

「ほう。勇者か・・・なんという奴じゃ」


 ピエタは頷いた後、すぐさま再び言葉を発しました。


「とりあえず、一旦軍鶏鍋屋で夕飯でも食うとするかのう。あの店はワシも気に入ったぞい」

「うむ。カジノ特区に支店があるぜよ。そこに行こう。」


 ピエタの提案にリョウマは応じました。ですがアグニは遊び足らないようで、暫くカジノに残るといいました。


「私は後で合流するわ。まだ全然遊んで無いんだもの」

「お前一人じゃ不安だ。私も付き添おう」

「私ももう少しアグニ様達に付き添っていたいと思います。支店には後ほど伺います」

「うむ、そうか。あまり遊びすぎるではないぞ、ペロッティ」

「承知しました」


 こうして、アグニ、グラウス、ペロッティの3人は今しばらくカジノに残ることになり、ピエタとリョウマはカジノの入り口の門柱に背を置いていたゼントと合流し、軍鶏鍋屋の支店へと向かうのでした。

 


 それから一時間ほど経過して、ピエタ達は軍鶏鍋屋で軍鶏や他のご馳走を頬張っていました。


「うむ、やはり軍鶏は上手いのう。ここのプリンも絶品じゃ」

「そうじゃろう? なんと言っても軍鶏はパパイヤン名物だからな。甘い物も仰山メニューにあるぞ。あんみつとかもいけるぜよ」


 食通のリョウマは得意そうな顔をしています。


 一方アグニ達がVIPルームのスロットで持ちコインを急速に使い果たそうとしていた頃、カジノ特区に純粋魔族のペミスエがやって来ました。


「ここにもいなかったら、一体どこにいるのかしらね・・・。それにしても、凄い人の数。しかもマナをこんなに大量に消費してる・・・なんて奴らなの。間引かなきゃ・・・と、その前に」


 ペミスエは、自分の後をつけている戦士ギルドの3名にずっと感づいていました。


「(・・・レベル220、632、1021か・・・人間しては異常に強いじゃない。ラズルシャーチの人間じゃなさそうだけど。それに臭くない。・・・怒りも極限に達してるし、もう我慢出来ないわっここでこいつらを、終わりにして~)」


 なんとペミスエは、自分の後をつけていたレベル220、レベル632、そしてレベル1021の3人の戦士ギルドの団員の首を、右手の一撃で次々とはね落としていってしまったのです。

 

 彼らにはそれぞれ配偶者がおり、幼い子供もいたのですが・・・。 


「これで邪魔者は、いな~いっと」


 そして魅惑的な格好をしていた美しい女魔族ペミスエは、両掌を胸の前に突き出し、大多数の人ごみ目掛けて小さな魔法弾を連発しました。


 その魔法弾は多くの富豪、観光客、旅人、住人達を直撃し、彼女によって致命傷を負ってしまった住民達も多数現れました。


「あーーーっ快感っ。やっぱり、人を嬲るって、楽しいわぁっ」


 ペミスエは悲鳴が轟き逃げ惑う群集に、更に魔法弾を撃ち込み続けました。


「ルクレティオと漣がやって来るまで、ここにいる人間達を全員に絶望を与えて、待っていようかしら~うふふっ」


 そう言って、悲鳴を上げ続ける人々を見やりつつ、ペミスエは高笑いしていたのでした。


 彼女は夫であるザルエラの意向を完全に無視し、マナを乱用して生活する人間達を見て、魔族の存在意義の危機を感じ、凶悪な魔族の本性を露にしてしまったのです。


一方、その頃、アグニとグラウス、ペロッティの三人はスロット台で遊んでいました。しかし早々にアグニがコインを全て使い尽くしてしまいます。


「ああん、もうっなんで絵柄が揃わないんですの?? そうだっお願い、ペロッティ、この台にイグナ・アンプロポスをかけて回転するのを遅らせてっそうすれば、きっと当たりやすくなるわ」


 アグニはカジノに取り付かれた人間の、狂気に満ちた瞳でペロッティに不正を懇願します。


「アグニ様、流石にそれはいけません。それに私の時空魔法は無機物には効果がないんですよ」


「まあっなんてことっじゃあワタクシはもうすっからかん?? いいえ、大丈夫、大丈夫よ、アグニ・シャマナ。お父様から頂いた路銀がまだ沢山ありますもの・・・」



「おい、アグニ。馬鹿な真似は止めろ」


 グラウスが真面目な表情でアグニを説き伏せていた、そのときです。彼はスロットで当たりを出したのでした。


「あ」


「ああ~~ずるいっ師匠ばっかりっ私、全然当たっておりませんのに~~~っ」


「わかったわかった、コインやるから、これで大人しく遊んでおけ」


 そう言うと、グラウスはアグニに自ら当てたコインを全て渡しました。


「やったわ~~~めざせ、カジノで大当たり~~!!」


 アグニは大層ご機嫌な様子で、再びスロット台に張り付き始めたのでした・・・。

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