第50話『絶望勇者は悪魔になっておりまして・・・』

 カジノのVIPルームには数多くのスロット台と巨大なルーレット設備、ポーカー、ブラックジャックその他ありとあらゆる賭博場が設けられていました。内装は金色が基調で光り輝いており、豪華な室内です。調度品も多数飾られています。


「ここがVIPルームぜよ」

「すごい豪華な一室ね」

「こんな景色を見るのは初めてだ」


 グラウスとアグニは素直に驚きを口で表現しました。


「さっそく勇者という奴を探すとするかな」


 歩き出すリョウマの後に続いて、アグニとグラウスも前進します。

 

 長めのウルフカットをしたミルクベージュ色の髪をした、背の高い青年は、直に見つかりました。


 カジノVIPルームの前でも一番大きな一回1000コインを消費するスロット台で遊んでいたのです。


「彼が勇者ですか?」

「間違いないな、茶色い髪をしちょる」

「話しかけてみましょう」


 リョウマ達は示し合わせて、後姿を見せる無防備な青年に近づいていきました。


「おい、おまん、ルクレティオか?」

「・・・」


 リョウマの声が喧騒で聴こえないのか、彼は返事をしません。


「勇者様~~~!!」


 アグニが大声を上げますが、やはり彼は無反応でスロットに集中しています。


「ええい、こうなったら肩をつかんで・・・」


 リョウマが動き出したそのときでした。

 突然リョウマと直近くにいたアグニは呼吸困難に陥ったのです。


「なんだ・・・・いっ息ができんっ」

「呼吸が・・・・」

「二人とも、どうした! うぐ・・・」


 アグニ達に近づいたグラウスも、呼吸が出来なくなってしまいました。


「・・・空気の略奪者。十分間、半径二十メートル以内にいる全ての生命体の酸素を奪うことが出来る。呼吸が出来るのは、僕だけさ。酸欠死するには、妥当な長さだと思わないかい?」


 ようやく振り向いた青年は、大層整った顔をした美男子でしたが、アグニ達に冷たい視線を送り続けていました。正直アグニの好みのタイプでしたが、流石の彼女も死の危機に瀕して、発情するどころではありませんでした。


「ぐっ・・・アグニ・・・リョウマ殿・・・」


 グラウスは苦しんでいるアグニとリョウマを力を振り絞って抱え上げ、空気の略奪者の範囲外から逃れました。


「はあ・・・はあ・・・」

「わっ私、殺されるところだったわ・・・」

「くっそう。なんて恐ろしい奴だっ」


 アグニ達はその勇者の圧倒的で、未知なる特殊能力の前に、恐れおののきました。


「・・・キミ達、漣に言われてきたんだろ? ねえ、頼むから僕のことはもう放っておいてくれないか? 僕はもう、戦うのは辞めたんだ。彼女にもそう伝えておくれよ」


 そう言うと、再びルクレティオはスロットに集中し始めました。 


「違うっ、ウチはこのカジノのオーナーじゃき。ちょいとおまんの顔が見たかったから来ただけぜよっ」

「そんなこと、どうでもいいよ。とにかく、僕の事は放っておいてくれ」  


 頑なに会話に応じようとしないルクレティオに苛立ったグラウスは、強行手段に出る事にしました。


「こっちを向け! 目を覚ませっ勇者よっ」


 グラウスは簡単な風属性の攻撃魔法をルクレティオにぶつけようと試みました。しかし、何故か魔法は発動しません。


「何? 魔法がっ??」

「キミ・・・魔法使いだろ? 魔法なら、僕が先に封印しておいたよ」

「何だと??」

「普通の土属性の一時的な封印魔法と違って、僕は直径20メートル以内にいる任意の相手の魔法を確実に封印することが出来る、そういう特殊能力も持ってる」

「なっ・・・馬鹿な。そんなことが・・・一体どんな方法を使って」

「そんなこと、キミが知る必要はないだろう?」


「ぐっ・・・くっそう・・・」


 グラウスは悔しそうに唇を噛みます。


「おまんは世界を救った勇者だろう。こんなところで呆けていてよいのか?! 男なら男らしく戦わんかっ」


 ルクレティオの乱暴な振る舞いに怒ったリョウマは、彼に怒りの言葉を投げつけました。


「うるさいなっ黙ってくれよっ僕の苦難も知らないくせにっ偉そうに説教するなっ僕は戦いから離れ、このカジノという岩戸で永遠に稼ぎ続けるって、心に決めたんだっもう誰の言う事も、聞かないぞっ」


「この・・・ ベコノカワめぇっ」


「素敵な殿方だけど・・・こんな手荒な真似をする方は、私は嫌ですわ・・・」


 無事に呼吸が出来るようになったアグニが言葉を吐き出した次の瞬間、ルクレティオの操作している台が77777をたたき出しました。


「来た! ジャックポットだっ」


「なんだって~~~」


 リョウマの叫びと共に、会場内にジャックポットのアナウンスが流れ、歓声が湧きます。


「ジャックポットじゃと?」

「また同じ人のようですね」

「よし、ワシらも勇者とやらのご尊顔を拝めに行くとするかのう」

「畏まりました」


 一階のドキドキパネルのコーナーでアナウンスを聞いたピエタとペロッティは、カジノのVIPルームへ行ってみることにしました。


「これでもう今日はここに用はない。帰るとしようかな」


 ルクレティオは台の椅子から立ち上がり、警戒するリョウマ達を無視してVIPルームを出て行きました。


「なっなんなんだあの男は? 強いのか?! 弱いのか?? 全く解らないぞっ得体の知れない能力、他にも仰山もっとるみたいだし」

 

 リョウマは酷く困惑した調子でそう言いました。


「とリあえず、あの男が心が折れた人間だという事だけはわかったな」


 グラウスは怒りを露にして言い切りました。


 VIPルームから一階へのエレベーターの入り口でピエタ、ペロッティとすれ違ったルクレティオは、一瞬二人に視線を向けながらも、すぐに歩いてカジノから出て行ってしまいました。


「むっあのミルクティーっぽい髪の色、あの背の高さ・・・それに美男子、あやつ、ひょっとして・・・」

「まさか、あのお方が噂の勇者様ですか? 少しやさぐれてるように見えましたが・・・」

「わからん。とりあえず、リョウマ達と合流するとしようかのう」

「そうですね」


 ピエタとペロッティはエレベーターに乗り込み、VIPルームへ向かいました。


次回:絶望した勇者と遭遇したアグニ達。そして迫りくるペミスエの狂気。ついに始まるパパイヤンを舞台にした壮絶なる死闘。果たして勇者ルクレティオは、漣は、アグニ達の味方になってくれるのか? それとも・・・・。 







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る