第43話『軍鶏鍋屋にて』



 ミヨシはアグニ達を目的地である軍鶏鍋屋リョウマ本店に連れていました。

 豪華な看板に出迎えられ、一同は店内に入ります。店の内部は大勢のあらゆる種族の観光客や旅の者、冒険者、住民達、大富豪で大いに賑わっておりました。


 さっそくミヨシは店長に話しかけました。


「ミヨシです。リョウマ様のお仲間を連れてまいりました」 

「かしこまりました。話は伺っております。お二階の来賓客室へどうぞ」


 一同はミヨシの先導を受けて来賓客室に向かいました。客室の床は質素な畳が敷かれ、屏風や掛け軸等が大量に飾られていました。

「私はリョウマ様がおいでになるまで部屋の前で待っています。皆さんはどうぞ御くつろぎになって下さい」


 丁重にそう言うと、ミヨシは客室を出て行きました。


「軍鶏鍋ですか・・・一体どんな料理なんでしょうか? 想像もつきませんね」


 ペロッティは聞いたことのない未知の料理に首を傾げています。


「この室内の飾り物は何かしら?」 

「見た事が無い物ばかりだな」



 アグニとグラウスが客室内の物色を始めました。


「これ、お前達、大人しくリョウマ達を待たんかっ」


 一人長テーブルの上座に陣取ったピエタが、落ち着きのない一同を叱責しました。


 そしてアグニ達が到着してから三十分後、リョウマとゼント、そしてミヨシが来賓客室に入ってきました。


「おお、おまんら早いのう。もう来ちょったがか?」

「うむ。中々愉快な観光じゃったぞ」


 非常に珍しい物を見られたピエタはご満悦状態でした。


「ほれ、賢者様。地図じゃきに、タダでいいぞ」


 リョウマは可愛らしく座っているピエタに縦に丸めた詳細な大陸地図を渡しました。


「うむ、感謝するぞ。リョウマよ」


 ピエタは早速テーブルに地図を広げ、現在地と目的地であるラズルシャーチの場所を確認します。


「おいミヨシ君。皆も着いたし、食事の準備を始めてくれろ」

「既に出来上がっているそうです。ただ今持って来させます」

「うむ。頼んだぞ、ミヨシ君」


 ミヨシは客室を後にし、厨房へと歩を進めました。


 それから室内には大量の上面発酵された酒類が運ばれてきました。

 更に鳥のモモ肉に刻んだネギとゴボウが大量に入った熱々のパパイヤン名物軍鶏鍋を中心に、四角に刻まれた艶やかな肉の塊と、スポンジ状の洋菓子、そして大きな丸皿に鮮やかに盛られた魚の切り身が供されました。

 

「まずはパパイヤン名物軍鶏鍋。これはラフテー、こっちはカステラ、そしてこれは刺身っちゅーもんぜよ。どれもウチの大好物だ。今日は全部奢りぜよ。沢山食べて飲んで、今後の事を話し合おうじゃないか」


「うむ。そうするとしよう」

「どれも美味しそうね~」


「では、私は店の外で、万が一の為に護衛の任に付きます」


 そう言って去って行こうとするミヨシを、ピエタは呼び止めました。


「待つんじゃ、ミヨシ君。お主には色々聞きたい事がある。一緒に食事を共にしようではないか」

「ですが万が一のためにも、護衛は必要ですよ」


 そう言うと、ミヨシの腹が鳴き始めました。


「あっと、これは失礼・・・」

「ぬはは、体は正直じゃのう。遠慮せずに座らんか。一緒に食事をしよう」

「はは。承知いたしました。では・・・」


 こうして、ミヨシも同席して宴が始まりました。


 アグニとリョウマとグラウスは軍鶏やラフテーを摘みつつ、酒を豪快に煽ります。


「かーーーーっやっぱりお酒って、おいしーーーーいっ」


 アグニは出されたお酒を飲んで上機嫌でした。


「たまるかーーーーーーっ」


「これはまた、随分と上等なお酒ですね」


 グラウスも久方ぶりに飲んだ酒に上機嫌でした。


「お前ら三人共、酒好きじゃのう。ワシは一応この体だから、ミルクと好物のプリンでも頼もうかのう」


 豪快に酒を煽り続ける三人を見たピエタは、やってきた店員にミルクとプリンを注文しました。


 この世界では13歳で成人扱いされ、酒を飲む事も結婚する事も許されています。一応ピエタは高齢ですが、7歳の子供の体なので、お酒を飲まないように気をつけているのです。


「ところで賢者様、この私に聞きたいこととは、一体何でしょう」


 ミヨシが畏まった様子でピエタに話を切り出しました。


「うむ、実はワシらは今、ラズルシャーチを目指して旅をしておるのじゃが、お主は日ノ本に関して何か知っていないか?」

「日ノ本ですか。存じております。我がラズルシャーチが信仰しているスサノオ様と縁の深い、神の国ですね」

「日ノ本への行き方はわかるか?」

「いえ、流石にそこまでは・・・。ですが王国の資料室に日ノ本に関する蔵書が沢山用意されています。そこに行けば日ノ本への詳しい行き方とか、国の詳細が解ると思います。申し訳ありません。。私は生粋の戦士で、そのようなことは学者の専門範囲ですから、詳しい事はラズルシャーチ王室内の学者達や日ノ本の研究家に聞くといいと思いますよ」

「そうか、ありがとう。それを聞いて安心したわい」


 ピエタは安堵の表情で肩を撫で下ろしました。


「この軍鶏鍋って、凄い美味しいわね~私、気に入ったわ。ペロッティ、今度これ作って」

「かしこまりました、アグニ様」

「気に入ってもらえてよかったぜよ。何と言ってもウチの好物だからな」


「ところでミヨシ君。ここからラズルシャーチまではどれぐらい時間がかかるかのう?」

「そうですね・・・徒歩なら六ヶ月。馬車なら三ヶ月といったところでしょうか。道中には険しい山や洞窟も幾つかありますので、途中はどうしても徒歩になりますよ」

「なるほど・・・」


 ピエタは顎に手を置き、思考を始めました。


「ラズルシャーチって随分遠いのね」

「うむ。サラバナとは割りと近くにある国だが、ウチも初めて行ったときは苦労したぞ」


 リョウマは三年前の苦労話をアグニ達に語ろうとしましたが、ピエタに「肝の件はどうじゃった?」と尋ねられたので、そちらを話し始めました。


「なんと、一週間か。では暫くはここに滞在し、詳しい情報を集めつつ、アグニとグラウスの装備を新調せねばいかんな」

「すまん。ちょっと高額すぎて、直には金が用意できんそうなんだ。カバンにもお金だけは入れられんしな」


「とりあえず、今夜はカジノで遊びましょう!!」

「その前に防具屋だ。私達の装備を購入するぞ」


 カジノに浮かれるアグニを、グラウスは諭しました。


「うむ、そうじゃのう。まずは装備を買って、それからカジノじゃ」

「ピエタ様?」


 グラウスが再び疑念の眼差しをピエタに向けます。


「まあ、良いではないか。ここまでの旅は長かった。少し遊ぼうではないか。金のあても出来たことだしのう。ぐふふっ」

「・・・そうですね」


 グラウスは腕組みしつつ、やや呆気に取られたという表情で息をつきました。


※次回予告:アグニ、大暴れ。そしてこれまで名前だけ出ていたキャラ、ライカールトがついに物語に登場!! お楽しみに!

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